アジア攻略に向けて
海外で奮闘する各社の実際 日本国内の売上高のほうが、海外の売上高の合計よりも大きいのは、どの日本のコンピュータメーカーも同じ。IT産業における日本企業の存在感はまだ薄いかもしれないが、新たなビジネスモデルを立ち上げたり、ITで災害からの復興を支援したり、日本企業は海外市場で戦っている。その中心となるアジアの動きをみる。
サイネージで巨大市場を攻略
広告で儲ける新ビジネスモデル
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| 田上健統括マネージャー。海外赴任期間が長く、5年前にオーストラリアの子会社から帰国した。デジタルサイネージ事業は2年前から担当している |
中国・上海で、過去に例のない特別なデジタルサイネージの提案を進めているコンピュータメーカーがNECだ。
NECは、ディスプレイとコンテンツを配信するシステムとそれを運用する専門スタッフを抱え、デジタルサイネージを総合的に提案する力をもっている。田上健・テレコム・コンテンツソリューション事業部統括マネージャーが「ディスプレイだけ、システムだけといったかたちで個別に提供する企業はあるが、NECのように1社だけですべてを完結できる企業は見あたらない」と胸を張るビジネスだ。デジタルサイネージ関連事業の売上高は、国内外合わせて昨年度(11年3月期)100億円だが、これを650億円に増やそうとしている。
確かに、NECのデジタルサイネージ事業は、世界で活躍するユーザー企業やパートナー企業に認められている。パートナーでいえば、2010年11月に米マイクロソフト、米インテルと、デジタルサイネージ事業の世界展開を共同で手がけるために提携した。両社とデジタルサイネージ事業で手を組んだIT企業は、世界でNECだけだ。
ユーザー事例としては、衣料品チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングのケースがある。ユニクロは、国内外の一部店舗に、大型のディスプレイを設置し、商品の購入を促すコンテンツを映し出している。NECはこのサポートを行っている。ニューヨークの旗艦店「ユニクロ ニューヨーク5番街店」など、世界10か国・20店舗に合計1000個のディスプレイを設置。日本に置いた配信システムを日本のスタッフが設定作業を行って、全世界の店舗に対して、コンテンツを一斉配信する。NECは、この一連の設備と仕組みを提供している。

ユニクロの大型デジタルサイネージ。ディスプレイと配信システムはNECが提供している(写真はニューヨークの「ユニクロ ニューヨーク5番街店」)
海外でデジタルサイネージ事業を伸ばすため、上海で仕掛けているのが大型ショッピングモール向けサービスだ。このサービスが特別な理由は、ビジネスモデルにある。NECのデジタルサイネージ事業は、ディスプレイやシステム、配信作業といった業務代行で儲けるのが通常。だが、このショッピングモールには、それらをすべて無償で提供する。稼ぐのは広告だ。
協業する現地の広告代理店がサイネージに映し出す広告を取り、その売り上げを広告代理店と分けるのだ。現在、ショッピングモールや広告代理店とは交渉を進めている段階で、実現すれば、NECのデジタルサイネージ事業にとって初のケースになる。
田上統括マネージャーは、「成功すれば、中国のほかの都市で建設されるショッピングモールに横展開する。人口が多く、発展途上にあって急成長が見込める国だからこそ、今回のビジネスモデルが成り立つ」と、新たな試みを始めた理由を説明する。また、「デジタルサイネージ向けの広告は、日本よりも中国のほうが企業の出稿意欲が高い」(大坂智之・テレコム・コンテンツソリューション事業部シニアエキスパート)という事情もある。巨大マーケットで、過去にはないビジネスモデルを提案しているわけだ。
No.1の存在感を海外でも
現地IT企業と築いた間接販売網
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日立信息系統(上海)有限公司 森保治 軟件事業部総経理 |
運用管理ソフト市場でNo.1のポジションを確保している日立製作所の「JP1」(2010年度、テクノ・システム・リサーチ調べ)。米IBMと米HPも、同様の機能をもつソフトを開発・販売するなかで、日立は国内市場でトップを守り続けている。その国内実績をもとに、海外でも勝負をかけている。目標はアジアNo.1だ。阿部淳・ソフトウェア事業部長は、所属する社内カンパニーの「情報通信システム社」が2015年までの中期経営計画を定めているのに合わせて、ソフトウェア事業部門としても中期経営計画を立てた。そして、三つ挙げたキーワードのなかに「グローバルビジネス」を盛り込んだ。15年度には、ソフトウェア事業部として海外での売上高を10年度比で約3倍に増やす計画だ。阿部事業部長は、「アジアでNo.1を目指す」と「JP1」の目標を語っており、インドと中国でとくに販売を伸ばそうとしている。
注力市場の中国には、10年ほど前の2003年にはすでに進出していた。「『JP1』の海外のユーザー企業数は累計1300社だが、その大半は中国と東南アジア。個別の数字は開示できないが、中国が占める比率は急速に拡大している」(日立の広報担当者)。強みは、間接販売網だ。50社ほどの販売パートナーと協業しており、そのほとんどが中国資本の現地企業である。日本のソフトメーカーが中国に進出するケースは多いが、販売パートナーは、日本のIT企業の中国法人が多い。その場合、獲得できるユーザー企業も、日系企業の場合が大半で、中国現地企業を開拓できる可能性は低い。日立信息系統(上海)有限公司の森保治・軟件事業部総経理は、「それでは多くのユーザー企業にアプローチできない」とみて、「JP1」の間接販売体制の構築では、進出当初から中国のIT企業の募集に力を尽くしてきたのだ。
森総経理は、02年に中国に渡って10年の期間で築いた強固な現地IT企業とのパートナーシップ。地道な活動で、日本で獲得したNo.1の地位を中国でも勝ち取ろうとしている。
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