2011年1月27日19時、レノボとNECは合弁会社を設立して国内のPC事業を共同展開することを正式発表した。IT業界に飛び込んできたビッグニュースは、とくにPC事業関係者に大きな衝撃をもたらした。PC事業を取り巻く環境は、数年前から厳しさを増している。これまでPCメーカーはどんな決断を下してきたのか。『週刊BCN』の過去の記事で、その軌跡を振り返る。
中国最大手と日本最大手がタッグを組んだ衝撃
レノボとNECは、持ち株会社「Lenovo NEC Holdings B.V」を2011年6月中をめどに設立する。出資比率はレノボが51%、NECが49%。持ち株会社の下に、NECパーソナルプロダクツのPC事業を分離して新たに設立する事業会社のNECパーソナルコンピュータと、レノボの日本法人であるレノボ・ジャパンが配置される体制を敷く。1月27日19時に、緊急会見というかたちで両社のトップが揃って登壇し、正式発表を行った。
<正式発表記事>緊急会見の案内は開催時間のわずか1時間前に届いた(2011年1月)<記者会見の質疑応答>「協業相手はNECしか考えられなかった」とレノボのCEOは語った(2011年1月)
東京・千代田区の帝国ホテルで開かれた記者会見で、両社トップが固い握手。レノボのヤン・ユアンチンCEO(左)とNECの遠藤信博社長。 国内トップシェアを維持し続けるNECが、他社と共同で事業展開することを決断したインパクトは大きかった。IT業界内からはさまざまな見解が出てきたが、NECのPCを扱う販社からは冷ややかな意見もあった。また、新会社の出資比率がNECよりもレノボの方が高いことや、持ち株会社の下にそれぞれのPC事業会社がぶら下がる異色の構図に関心が集まり、「トップシェアのNECでもPC事業を単独で守れないのか」「NECはPC事業を段階的に売却しようとしている」という噂も飛び交った。多くのメディアから、そんな論調の憶測記事が発信された。
<IT業界人の声>連合に揺れるIT業界、PCはもう「どうでもいい」という意見もあった(2011年2月)<BCN記者の視点>「PC事業売却」に傾く報道に違和感(2011年2月)米IBMのPC事業売却から始まったPC事業撤退の波
確かに今、PC事業を取り巻く環境は厳しい。2010年、国内PC市場は過去最高の出荷台数を叩き出したものの、差異化要素が見出しにくい商品であるPCは、どうしても価格勝負に陥りやすい。利益を捻出することが難しいまさに「利益なき繁忙」のマーケットだ。そうなると、世界市場で戦う基盤をもたないメーカーは苦しくなる。
振り返れば、2004年11月、調査会社の米ガートナーは「PC市場上位10社のなかで、07年までに3社が撤退する」という大胆な予測を発表している。この予測は実際には外れたが、この時点で撤退を考えたメーカーは少なくない。
PC事業に早々に見切りをつけたのが、米IBMだ。今から約6年前の04年12月、米IBMはレノボにPC事業を約1300億円(当時の為替レート)で売却することを発表した。PCビジネスが、今ほど利益捻出が難しくなかった頃である。そんな時期に世界シェアトップの米IBMが下した決断は、世界に衝撃を与えた。
<トップニュース>競合のPCメーカー幹部がBCNの取材に対しさまざまな見解を示した(2004年12月)<海外レポート>米メディアではIBMの決断に対し厳しい論調が多かった(2004年12月)<トップインタビュー記事>レノボ・ジャパンの初代社長、向井宏之氏に行ったロングインタビュー。業績拡大に自信を示していた(2005年8月) 米IBMの後を追うように、その後はPC事業から手を引くメーカー相次ぐことになる。07年8月には、米ゲートウェイが台湾のエイサーに買収されて姿を消し、10月には日立製作所がコンシューマ市場に限定して撤退を決めた。日立はこの決断の前の05年に、グループ社内で利用するクライアント端末をPCではなく専用端末にすることを決めている。
<トレンド>日立は05年に社内のPCを廃して専用端末を導入することを決めた(05年1月) 08年には、低価格PCで一世を風靡したソーテックが経営難からオンキヨーに吸収され、09年にはNECが海外市場から撤退。そして、昨年10月、シャープがPCの生産を打ち切ったことが明るみに出た。
<BCN記者の視点>シャープがPCから撤退した理由
PCメーカーの主な動き PC事業からの撤退は、米IBMから始まり、その後ゲートウェイ、ソーテック、シャープなどと続いた。そして、今回のレノボ・NEC連合。NECがPC事業から完全に手を引こうとしているとは考えにくいが、少なくとも、単独で事業展開するよりも、レノボと手を組んだほうがメリットがあると考えたのは確かだ。「Windows 95」の誕生で、企業や家庭に一気に普及した最も汎用性のある「パーソナル・コンピュータ」は完全に成熟期を迎え、メーカーに厳しい選択を突きつけている。(木村剛士)

2010年の国内PC市場、ベンダー別出荷台数