タイの洪水被害に遭った企業を救援
サポート力を評価されて事業に弾み
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| 後藤裕一統括部長。世界に複数拠点を置くユーザー企業向けサポートサービスの経験が豊富だ。 |
昨年7月に発生したタイの大洪水。富士通は、現地の被災企業を手厚く支援し、そのサポート力を評価されて、ビジネスに弾みをつけている。
洪水の被害を受けた地域には、富士通のユーザー企業・団体の664拠点が所在していた。このうち、富士通が支援に乗り出したのは298拠点を数えた。
富士通はバンコクに現地法人を設置しており、洪水が起きる以前から、約50人のフィールドエンジニアが、ユーザーが保有するシステムの運用・保守サービスを手がけてきている。洪水の実害が深刻化してきた10月、日本から専門チームを結成してスタッフを派遣する必要があると判断し、富士通エフサスと協力して、支援に向けた準備を始めた。富士通の「インフラサービス事業本部グローバルサポート統括部」のスタッフが、11月から現地に入った。最初は4人で3週間現地に滞在して調査。その後は2人がチームになって3週間入るという体制を敷き、合計6回、交代で現地での復興支援プラン立案と推進役を担った。どのスタッフも、東日本大震災や他国で起きた災害の復旧活動を手がけてきたプロだ。
富士通のクラウド型アプリケーションソフト開発プラットフォーム「RapidWeb+」を利用して、復旧支援用のアプリを立ち上げた。社名や住所、連絡先など、ユーザー企業の基本情報のほか、各スタッフが調べた被災の状況、復旧までの具体的な支援内容をこのシステムに入力。ネットワークとブラウザを通じて、タイと日本のスタッフがリアルタイムに状況を共有できる仕組みを築いた。ほぼ2週間で、354拠点の被災状況の把握を終えた。システムをほかの拠点に預けたり、富士通のデータセンターに移設したりして、各社ごとの支援策を講じ、現時点で276拠点の復旧を終えている。
富士通は自社の顧客だけでなく、データセンターの無償貸し出しや、サーバーの無料提供など、富士通のユーザーではない顧客も対象とした支援制度を実行した。データセンターの無償貸し出しでは、洪水前には30%空いていたサーバーの設置スペースが現時点ですべて埋まった。日系企業、タイの企業を問わず、この制度を活用したユーザーは多い。
これらの迅速な復旧活動を自社・他社のユーザーに関係なく手がけたことが高く評価された。後藤裕一・インフラサービス事業本部グローバルサポート統括部統括部長は、「これまでおつき合いのなかったユーザー企業が、無償支援プログラムで当社と関わり、その後、ユーザーになってくれたケースがある」と顔をほころばせる。
特別チームのスタッフとして派遣された仲條忠芳・インフラサービス事業本部グローバルサポート統括部シニアマネージャーは、「被災後、ユーザー企業は災害対策を真剣に考え始めた。とくにクラウドを求めるユーザー企業が確実に増えた」と実感している。無償支援制度の推進で埋まったデータセンター(DC)は、現在増床を計画中だ。
ビジネスにつながるかどうかは問わず、日本で経験した災害復興のノウハウを無償で提供した。そのことが評価されて、実ビジネスに結びつき始めているのだ。

被害を受けた富士通のユーザー企業の事務所と冠水したIT機器
記者の眼
日本のIT企業の海外事業は、現時点では海外に進出した日系企業向けが圧倒的だ。国内に閉塞感を感じて世界に飛び出した企業の現地法人のITをサポートするビジネスが中心だ。大手のコンピュータメーカーだけでなく、中堅規模のSIerやソフトメーカーも海外に進出するケースは珍しくないが、やはりユーザーは日系企業が中心だ。今後は、現地の企業をどうユーザーとして獲得するかが焦点になる。中国という市場に合わせて新たなビジネスモデルを提案するNEC、現地のパートナー企業を長い年月をかけて地道に獲得してきた日立、そして自社の顧客でなくても、タイのユーザー企業の復興を支援してきた富士通。小さな動きかもしれないが、日系企業以外のユーザーを獲得しようとメーカーは着実に歩を進めている。