クラウドサービスの競争が激しさを増している。ビジネスの成否のカギを握るのが販売を担う“ビジネスパートナー”の存在だ。サービスベンダーはパートナーを巡って争奪戦を展開。新年度に入って慌ただしく変化するクラウドビジネスの今に迫った。(取材・文/安藤章司)
販売パートナーを味方に
クラウドビジネスのキーポイント データセンター(DC)を運営するIaaS/PaaS型のクラウドサービスビジネスは、販売パートナーをいかに味方につけるかで成否が決まる。クラウドは規模のメリットがモノをいう世界であり、販売の絶対量を増やすことが欠かせない。DC稼働率の向上は収益力の拡大につながり、結果的により多くの投資をクラウド基盤に注ぎ込むことができる。こうしたパートナーエコシステムに基づく好循環をつくりだそうと、有力ベンダーがさまざまな施策を打っている。
チャネル戦略の成果強調
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ニフティ 実宝康人部長 |
IaaS型やPaaS型のクラウドサービスで先行するのは、“メガクラウドベンダー”と称されるAmazon Web Services(AWS)である。AWSに続くのは、電子メールやスケジュール管理をはじめとするフロントエンド系のサービスに強いGoogleと、営業支援システムで独自性を発揮するSalesforceだ。国内のIaaS/PaaS型のクラウドサービスベンダーは、相次いでAWS対抗軸を打ち出しており、規模や価格競争力を発揮するAWSをどこまで押さえ込めるかが勝負の分かれ目になりつつある。そこでシェア争いの切り札となるのが、SIerをはじめとするビジネスパートナーによる販売チャネル戦略だ。
ニフティが手がけるニフティクラウド事業は、2013年度(14年3月期)までに国内クラウドサービス市場の約7%のシェア獲得を目標としているが、販売面の主役を担うのが直近で100社の規模に拡大している販売パートナー網である。SCSKやDTS、兼松エレクトロニクスなど有力SIerが名を連ねており、「パートナーとのエコシステム(生態系)が回り始めている」(ニフティの実宝康人・クラウドパートナービジネス部長)と、ここ1年ほどかけて整備してきた販売チャネルの成果を強調する。
パートナー支援策では、ニフティクラウドの販売量に応じた仕切り価格の設定やパートナーに向けたOEM(相手先ブランドによる供給)方式での提供、技術支援、イベントやセミナーを通じた営業支援などを盛り込んだ「ニフティクラウドパートナープログラム」を用意し、手厚いサポートを行っている。2010年初めに立ち上げたニフティクラウドは、当初、直販がメインだったということもあって、ITリテラシーの高いネットサービス会社が顧客の多くを占めた。ところが、2011年4月にパートナープログラムを本格的に実施してからは、「一般のユーザー企業のフロントエンドやバックエンドのシステムをニフティクラウドへ移行する案件」が急増。2011年末までに1000社を超えるユーザー数を獲得している。
Windows陣営を取り込む
DC運営大手のビットアイルは、Windows Server環境に最適化したクラウドサービス「CLOUD CENTER for Windows」を今年2月にスタートした。Microsoftのクラウド管理ツール「System Center」と仮想化ソフトの「Hyper-V」を組み合わせたもので、特定ベンダーの商品名を前面に出すサービスはIaaS/PaaS型のクラウドサービスベンダーとしては異例ともいえる。ビットアイルは「Cloud ISLE(クラウドアイル)」のブランドでクラウドサービスを手がけており、今回は主力サービスである「サーバオンデマンドNEXT」に続いて、Microsoftアーキテクチャを全面的に採用した「CLOUD CENTER for Windows」を投入した。
この大きな狙いとして、日本マイクロソフトが擁する大規模なビジネスパートナーを取り込むことが挙げられる。「System Center」と「Hyper-V」が動作するWindows Serverを採用することで、Microsoftアーキテクチャーとの親和性が格段に高まる。長年にわたってWindowsベースのシステムを手がけてきたSIerの層は厚く、技術者の数も多い。ここでMicrosoftアーキテクチャをベースとしたクラウドサービスを切り出せば、日本マイクロソフトとの協業も進み、同社のビジネスパートナーを味方につけやすくなる。
ビットアイルは、主力サービスの一つである「サーバオンデマンドNEXT」の拡販に向けて、「ビットアイルクラウドパートナープログラム」を2011年10月に開始するなど、ビジネスパートナー支援に意欲的に取り組んできた。首都圏を中心にSIerやISV(独立系ソフト開発ベンダー)とパートナーシップを組んだのち、関西や中部圏などビジネスパートナーの獲得にも力を入れることで、2012年6月までをめどにパートナー数を50社程度に拡大していく方針だ。
巨人AWSに対抗するかたちで、IaaS/PaaS型の国内有力クラウドサービスベンダーは懸命にシェア拡大を図ろうとしている。ビジネスパートナーの視点でみれば、多彩なクラウドサービスのなかから、ユーザー企業に最適なサービスを選択できるようになる。国内外のベンダーによるサービス競争によって選択肢が増えることはユーザーにとってもメリットが大きい。
次ページからは、ユーザー事例を踏まえながらクラウドビジネスの最前線を追っていく。
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