斬新なDCをつくる
手探り状態で必要なノウハウを蓄積
IIJの場合
コンテナ型DCの草分け、早期に増設へ
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| 久保力副部長 |
インターネットイニシアティブ(IIJ)が松江DCを開設したのは昨年4月、東日本大震災の発生の1か月ほど後のことだった。松江DCは、IIJの主力商材の一つであるクラウドサービス「GIO」の基盤として利用されており、開設からの1年間、「GIO」のビジネス拡大とともに、松江DCのコンテナの数は順調に増えてきている。松江市を建設地として選んだのは、市がITベンダーに対して充実した支援制度を用意し、DCの電気料金の50%を市が補助することなどの条件があったことが主な理由だという。
松江DCは最大24コンテナで構成。1コンテナあたり9ラックを収納して、合計216ラックまで拡張することができる。IIJは、2010年にコンテナ型DCの実証実験を開始。日本では大型コンテナDCの前例がなかったので、「まさに手探り状態」(サービス本部データセンターサービス部の久保力副部長)でノウハウを身につけ、建築基準法上の問題やコンテナモジュールの最適な構造、サーバーに被害を与えないコンテナの輸送法など、稼働開始に至る過程であらゆるハードルを乗り越えてきた。
松江DCは、省電力化を図り、外気冷却によるモジュラー型空調システムを採用している。IIJが東芝と協力し、松江DCのためにつくったものだ。
このシステムは、春と秋の中間期と冬期、外気を取り入れてサーバー室の冷却を行う。この時期には消費電力を「小」レベルに抑える。一方、夏期は通常のDCと同じように冷却機を動かすので、消費電力は「大」となる。通年でみれば、消費電力(電気料金)を大幅に削減することができるわけだ。久保副部長は、「斬新な冷却システムによって、松江DCのPUE値を1.1以下に抑えている」と自信をみせている。
●サービスごとにDCを使い分け IIJは、DC戦略にあたって、ビルとコンテナの両方のタイプをサービスごとに使い分けている。BCP(事業継続計画)の一環として需要が活発化しているハウジングサービスは、強固なセキュリティ機能を備えるビル型DCを利用してサービスを提供する。一方、クラウドサービス「GIO」に関しては、プライベートとパブリックに区分し、ビル型(プライベート=安全性重視)とコンテナ型(パブリック=低価格重視)の両方を使って提供するという使い分けだ。
IIJは、ハウジング、「GIO」ともに速いスピードで需要が拡大していることを受け、昨年、大阪市・高津と東京都・三鷹にビル型DCを新設した。それに加えて、現在、松江DCの増設計画を立てている。久保副部長は、「引き合いの勢いからすると、今年度中に松江DCのスペースが埋まってしまう」と見込んでいる。IIJは、センターの増設に備え、以前から松江DCに隣接する敷地を確保しており、この敷地を使って早いうちにDCニーズの拡大に対応する方針だ。
日本システムウエア(NSW)の場合
ビルと連動し、ハイブリッドDCを実現
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| 竹村大助部長 |
DC事業者がコンテナ型DCを低コストで構築するためには、コンテナが「建築基準法上の建築物ではない」ことを認めてもらう必要がある。建築物に該当しないものと認められるためには、機器に障害が発生したとき以外に人がコンテナの内部に入らないことが条件づけられている。したがって、DC事業者は遠隔操作によってコンテナ内のシステムを管理することができる仕組みを用意する必要性に迫られる。このような制約があるので、日本でコンテナ型DCが広く普及するのは、まだ時間がかかりそうだ。
そんななかで、IIJに並んで、いち早くコンテナ型DCの実証実験に乗り出しているのが、独立系システムインテグレータ(SIer)の日本システムウエア(NSW)だ。同社は、ビル型DCとコンテナ型DCを連動する「ハイブリッドDCサービス」を提唱し、昨年11月、同社の山梨DCの敷地で、コンテナ型DCの実証実験を開始した。この実験では、ネットワークの仮想化技術を活用し、既設のビル型DCと計画中のコンテナ型DCを連携し、ハイブリッドのサービス基盤の構築を目指している。
●それぞれの利点を生かす NSWの実証実験の指揮をとっているITソリューション事業本部クラウドソリューション部・竹村大助部長は、「セキュリティの問題などで、コンテナ型DCだけを利用するサービスを提供することは、あまり有効な方法ではない。当社の連動モデルでは、基幹システムなど重要なデータをビル型DCに置きながら、公開されている情報を保存するシステムをコンテナに設置し、リンクさせる。このように、ビルとコンテナのそれぞれの利点を生かす」と、ハイブリッド型サービスの概要を語る。
例えば、ユーザー企業が行うキャンペーンの期間中に、ビル型DCに設置しているその企業のサーバーに大量のアクセスが発生した際に、コンテナ型DC上のサーバーリソースを自動的にスケーリングし、瞬時に大量のアクセスに耐えるインフラを提供するというのが、NSWのハイブリッドサービス活用の一つの方法となる。
NSWはこれまで、ハウジングサービスをDC事業の主な柱としてきた。セキュリティ上、ハウジングに向かないコンテナ型DCの実証実験を進めると同時に、DCサービスのポートフォリオを拡大していく。同社は今後、山梨などNSWのビル型DCを利用中の既存顧客をターゲットに、トータルで約50%のコスト削減を図ることができるハイブリッドサービスを提案する。これによって、「お客様が他社センターに移るのを引き止めたい」(竹村部長)と、囲い込み戦略を展開しようとしている。
ハイブリッドサービスの提供開始は、年内を目指している。コンテナ型DCを自社のビル型DCに連動させるだけでなく、他のDC事業者と組んで、ハイブリッドサービスを広く展開する方針だ。
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