東京電力による大口需要家向け電気料金の値上げを前に、情報サービス業界に不安が広がっている。4月1日から「自由化部門」と呼ばれる主に高圧電力を使う事業所の電気料金が引き上げられる見込みで、電力消費が大きいデータセンター（DC）ビジネスへの影響が避けられないと見込まれるからだ。東電が想定するモデルケースでは、DCなどの大規模事業所（特別高圧）では18.1％、中小事業所（高圧）は13.4％という大幅な値上げである。

　DCは情報システムの中核的存在であると同時に、電力を大量に消費する施設でもある。大手SIerでDC事業を担当する某幹部は「ランニングコストの3分の1から半分近くを電気料金が占める。電気料金の値上げはそのまま損益分岐点を押し上げる」と実状を語る。耐えかねた主要SIerは、業界団体である情報サービス産業協会（JISA）を通じて「今後の電気事業制度に関する要望書」を、2月7日、経済産業省に提出。東電のコスト構造について、納得性のある資料の提出と説明を求めるなど、精一杯の苦言を呈した。

　仮に東電のモデルケース通りに、DCの電気料金が18％程度上昇したらどうなるのか──。国内のDCの約7割は首都圏に集中しており、このほとんどが東電管内に所在する。DC事業を担当するNTTデータの栗島聡常務は、「結果的に何％の値上げになるかまだみえないが、仮にモデルケース通りだとすれば、顧客と（料金について）相談するしかない」という。DCのランニングコストに占める電気料金比率の大きさからして、企業努力では到底吸収できず、ユーザーへの価格転嫁を含む施策を検討せざるを得ない事情がうかがい知れる。

　経産省に要望書を提出したJISAの浜口友一会長は、「電気料金を値上げしますといわれて、『はい、わかりました』とは承諾できない。自由化部門なので、最もコストメリットがある電力事業者から電気を購入することも考えなければならない」と渋い表情で話す。浜口会長はさらにこう付け加える。「首都圏の電気料金が高止まりするのであれば、首都圏以外、あるいは一部海外のDCを活用するという方法もあり得る」。切り札をちらつかせながら、東電や国と粘り強い交渉を続けていく構えだ。

　国内の原子力発電所の大半が停止しており、再稼働や復旧するまでには相当の時間がかかる見込みだ。電気料金の値上げは東電だけにとどまらない可能性が高い。かといって、欧米のDCをメインに位置づけるには距離的要因による通信遅延が大きすぎ、近隣アジア成長国は中国・ASEANを中心に経済の伸びに電力供給が追いつかないといった不安定な状況にある。エネルギー問題に近道はなく、情報サービス業界でも、中長期的な努力によってIT機器の省電力化（Green of IT）や、ITを活用した省電力化（Green by IT）を成し遂げるしかない。（安藤章司）