IT販社は「ビッグデータ」の登場を、サービス事業を加速するチャンスと捉えている。販社のなかには、独自の技術力を生かして、小規模ながらユニークなデータ活用サービス事業を展開するところも現れている。「ビッグデータ」関連の大手ベンダーに焦点をあてた本紙5月28日号(vol.1433)に引き続き、実ビジネスの担い手である販社の動きをレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
・第1弾から読む 「付加価値」は販社の腕の見せどころ
ビッグデータを機にサービス化を加速
この特集の
第一弾(5月28日号)では、ビッグデータの事業化に取り組んでいる大手メーカーの動きを追った。今回は、メーカーの製品に「付加価値」を加えて、ユーザー企業のニーズに合ったソリューションとして提供する販社の取り組みにフォーカスを当てる。ビッグデータに注目が集まっているとはいえ、響きのよいコンセプトを唱えるだけでは、ビジネスにつながらない。構築現場で案件を実現する必要がある。販社はビッグデータの抽象的な概念を具体的な経営ツールに形成するための現場を担っている。
ビッグデータの事業化に取り組んでいるIT販社の多くが興味深く観察しているのは、最大手システムインテグレータ(SIer)のNTTデータがどう動くか、である。NTTデータは、来年6月をめどに、ビジネスアナリティクス(BA)のソフトウェアベンダーでデータ解析に長けた人材を有している数理システムを完全子会社化しようとしている。今まさに、ビッグデータ事業の本格展開に向けて必要なスキル・人材を集めているところだ。
とくに中堅規模のIT販社は、NTTデータの取り組みを観察して、自社でのビッグデータ事業化のためのヒントを探しており、また同時に、NTTデータを有力なコンペティターとして強く意識している。
●公共案件を獲得する  |
NTTデータ 中川慶一郎 シニア・スペシャリスト |
NTTデータは、金融機関向けの決済システムを得意としており、銀行間の振り込みといったトランスアクションを分析するかたちで、すでにデータ分析・活用の事例を挙げている。同社はそもそも「ビッグデータ事業を展開する」というよりも、情報の容量にかかわらず、非構造化データの分析・活用をシステム構築事業の一つの切り口と考えている。
NTTデータがビッグデータで最も期待しているのは、機器同士がIPネットワークを通じて情報を交換し合う「M2M(Machine to Machine)」の領域である。M2Mは道路や橋など公共インフラの管理に関して有効に活用することができる技術で、M2Mを成長エンジンの一つに掲げているNTTデータは、公共案件の獲得に懸命だ。
公共案件を獲得した例の一つとして、この2月に開通した「東京ゲートブリッジ」に、NTTデータの橋梁監視ソリューション「BRIMOS」が採用された案件がある。「BRIMOS」は、橋にセンサを設置し、交通事故など異常の発生をリアルタイムに検知することができるデータ収集・分析ソリューションだ。NTTデータは「東京ゲートブリッジへの納入によって、当社が訴求するプロアクティブ型ビジネスインテリジェンス(BI)の新たな活用シーンができた」(技術開発本部ビジネスインテリジェンス・ソリューション担当の中川慶一郎シニア・スペシャリスト)という。この事例を生かして、M2Mの公共案件獲得に注力していく。
ベンダーフリーでデータ分析ソリューションを展開するNTTデータは、富士通やNECなど、自社でビッグデータ関連製品を開発する大手メーカーと同じように、ソリューション活用の先行事例をつくることを喫緊の課題としている。中川シニア・スペシャリストは、「お客様から『抽象的な説明はもういいので、実際の活用事例を示せ』と言われることが多くなっている」という。ユーザー企業は、データの分析・活用に取り組むために巨額の投資が必要となるので、投資をいかに迅速に回収することができるかに関して、具体的なイメージを求めているということだ。
●販社は付加価値をつける NTTデータは、事例づくりに苦労しながらも、データ分析・活用の事業拡大に力を注いでいる。ビッグデータ時代の到来は、SIer/IT販社にとって事業のサービス化を加速するいい機会になるからだ。ビッグデータは、ストレージやデータベース(DB)ソフトなど、メーカーの製品に分析・活用という「付加価値」をつけてこそ、はじめてかたちになる。長年にわたって独自の技術力を培ってきたIT販社の腕の見せどころだ。
特集の第一弾で記述したように、多くの大手メーカーはビッグデータを注力分野として掲げてはいるものの、実案件の獲得はまだ先になりそうだ。一方、中堅規模のIT販社は着々とデータ分析・活用の事例をつくっている。次ページからは、独自の強みを発揮し、ビッグデータの事業化を推進するベンダー3社の動きを紹介する。
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