日本オラクルの「Exaシリーズ」や、日本IBMの「PureSystems」に代表される垂直統合型アーキテクチャは、情報システムを複数メーカーの製品で構成する“水平分業型”が引き起こす複雑化に歯止めをかける“スマート化”への原点回帰である。この潮流のなか、システムインテグレータ(SIer)にはどのような商機があるのかを探った。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
“小型メインフレーム”が再登場
経営層に訴える有望商材として注目
垂直統合型システムは、導入費用は高いが、構築・運用コストを削減できるので、浮いたIT予算をビジネスインテリジェンス(BI)など、経営改善につながるITツールに使うことが可能になる──というのが訴求ポイント。このところ、大手ITメーカーは揃って垂直統合型製品の提供に力を入れている。
日本IBMは今年4月、プライベートクラウドの基盤として提供する垂直統合型システムの新ブランド「IBM PureSystems」を発表した。ハードウェアやOS(基本ソフト)、ミドルウェアを統合するだけではなく、IBMが長年にわたって培ってきたエキスパートの知識も組み合わせて提供するという意味で、PRに長けているIBMらしく、「常識を覆す新アーキテクチャ」という謳い文句でPureSystemsを訴求している。
垂直統合型システムは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器といったハードのレイヤから、仮想化プラットフォーム、OS、データベース、アプリケーションまでを1台のマシンに盛り込み、一つの機器で複数の処理を行うことができるものだ(図1参照)。
以前から存在する垂直統合型システムだが、IBMが注力分野に位置づける「PureSystems」の登場をきっかけとして、このところ、IT業界で再び注目を浴びているようになっている。
●国産メーカーも開発を急ぐ 垂直統合型システムそのものは新しいものではなく、1990年代までシステムアーキテクチャの主流だったメインフレーム(汎用コンピュータ)を小型化した仕組みと捉えることができる。この数十年の間、複数のメーカーの製品を組み合わせて構築する「水平分業型」のオープンシステムが普及した影響で、システム構成が複雑化し、構築や運用管理の費用が増大する傾向にあった。こうした状況にあって、IBMをはじめとする大手総合ITメーカーは、システム構成をシンプルにすることによって構築・運用コストを削減する垂直統合型システムを、ITのコストに敏感な経営層に直接訴えることができる有望商材とにらんでいるわけだ。
調査会社のIDC Japanは、ハードとソフトを統合したデータベース(DB)機器「Oracle Exadata Database Machine」を中心とする日本オラクルの「Exaシリーズ」や、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が垂直統合型の製品群「HP Converged Infrastructure」で展開する「Virtual System」などを、日本のユーザー企業の間での認知度が高い垂直統合型製品とみている。この8月の「PureSystems」の本格販売活動の開始を受け、今後は「PureSystems」も認知度の高い製品に仲間入りするだろうとの見解を示している。
IBMやオラクル、HPなど外資系ベンダーにとどまらず、国産の大手総合メーカーも、急ピッチで垂直統合型製品の開発に取り組んでいる。富士通は、2011年にプライベートクラウドの構築と運用に必要なハードとソフトをセットアップする「Cloud Ready Blocks」を発売し、この5月には、従来のエンタープライズ向けモデルに加えて、小規模な仮想環境を構築することができる機種を追加した。ラインアップの拡充によって、ターゲット層を拡大する戦略だ。さらに、来年をめどに、データベースを組み込んで、ビッグデータ(大量情報)の処理ができる垂直統合アプライアンスの投入を予定している。
●独自技術と汎用製品を統合 NECと日立製作所も、垂直統合型の製品開発を急いでいる。NECは、垂直統合型システムをプラットフォーム事業の製品戦略の一環と位置づけて、「Project“SIGMA”」というプロジェクト名の下、独自の製品/技術と汎用製品を組み合わせたプラットフォームの開発を進めている。年内には製品戦略の詳細を発表するという。また、日立製作所は、来年をめどに垂直統合型製品を発売する予定だ。大手総合ITメーカーの主要な垂直統合型システムを図2にまとめた。
相次ぐ垂直統合型製品の登場。これらの製品は、システム構築・運用の手間を省くことができることを売りにしているが、システムの構築と運用を中核事業とするシステムインテグレータ(SIer)のビジネスにどのような影響を与えるのか。次ページからは、垂直統合型システムの市場をリードする日本オラクルと日本IBMの取り組みを追いながら、垂直統合型アーキテクチャの再登場がもたらすSIビジネスへの影響を探っていく。
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