その他
注目の「垂直統合型システム」 両雄の闘い、激化の兆し
2012/08/23 21:03
週刊BCN 2012年08月13日vol.1444掲載
ハードウェアとソフトウェアを統合し、情報システムをシンプルに構成する「垂直統合型システム」がIT業界で注目を浴びている。話題のきっかけとなったのは、日本IBMが今年5月に発表した「IBM PureSystems」だ。日本IBMは、5月にインフラストラクチャの「PureFlex System」を発売したのに続き、8月にはミドルウェアを統合したプラットフォーム「PureApplication System」の出荷を開始し、本腰を入れ始めた。一方、日本IBMに先行して垂直統合型システムの「Exaシリーズ」を展開してきた日本オラクルは、新たなライバルの登場を受けて、「Exaシリーズ」を手がける営業部隊の強化に取り組んでいる。(ゼンフ ミシャ)
アプリケーションの提供方法で差異化 「Pureさん(IBMのPureSystems)の登場が及ぼす当社への影響は、ほぼゼロとみている」──。日本オラクルで製品事業統括のディレクターとして「Exaシリーズ」の販売を担当する首藤聡一郎氏は、IBMが新しいかたちの垂直統合型システムとして提唱する「PureSystems」を「Exaシリーズ」の競合製品とはみていないことを強調している。日本オラクルは、サーバーやストレージ、ソフトウェアで構成するデータベース(DB)マシン「Oracle Exadata Database Machine」をはじめとする「Exaシリーズ」を、主にオラクルDB製品の既存のユーザー企業に対して提案しており、金融の分野で採用が進むなど、導入事例を積み上げている。オラクルは、IBMに先行して市場開拓に着手したことや、既存のオラクル顧客をターゲットに据えることなどを踏まえて、「PureSystems」の発売による影響は受けない、と表面上は冷静さを保っている。 垂直統合型システムの企業ニーズについて調査を行っているIDC Japanの福冨里志リサーチマネージャーは、「PureSystemsの発売は、垂直統合型システム市場の勢力図に確実にインパクトを与える」との見解を示している。IDC Japanは、現時点で日本で最も認知率が高い垂直統合型システムは「Exaシリーズ」で、「PureSystems」の認知度はまだそれほど高くないとみているが、今後、日本IBMが本格的に販売活動を展開して市場開拓を推進すれば、他社の垂直統合型システムベンダーのビジネスにも影響が出るというわけだ。 オラクルの「Exaシリーズ」とIBMの「PureSystems」は、両方とも、統合型アーキテクチャーによってシステムの導入や運用にかかる時間とコストを大幅に削減することができる。それによって、比較的高額な導入費用を回収することができることを訴求ポイントとしている。一方、「Exaシリーズ」と「PureSystems」の最も大きな相違点は、ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客管理)など、システムの上で動く業務アプリケーションをユーザー企業にどのようなかたちで提供するかにある。 日本オラクルは、アプリケーションを垂直統合型システムの一部として自社製品に組み込んで提供することを方針に掲げている。直近の取り組みの一つとして、7月に既存のCRM製品に、米国本社が買収したアプリケーションベンダー数社の製品を追加した。買収でアプリケーションの品揃えを拡充し、CRMをはじめ、「Exaシリーズ」と統合して提供するアプリケーションのメニューを強化しているわけだ。 対して日本IBMは、「PureSystems」上で動くアプリケーションの開発をISV(独立系ソフトウェア開発会社)パートナーに任せ、自社ではアプリケーションを開発しない。同社は、アプリケーション開発の認定パートナーとのコミュニティサイト「IBM Pure Systems Centre」を開設しており、アップルが展開するようなアプリケーションマーケットプレイスの仕組みをつくっている。開発はパートナーに任せ、IBMとして、彼らがつくるアプリケーションを流通させるためのプラットフォームを用意するという戦略をとっているのだ。 日本IBMのシステム製品事業システムx事業部の東根作成英・事業戦略担当部長は、「アプリケーション開発をパートナーが行うかたちで、『PureSystems』を基盤とする全体のエコシステムを築いていく。極端にいえば、『PureSystems』にオラクルのアプリケーションを載せても大丈夫、ということだ」と、IBMらしいエコシステムづくりの取り組みを語る。また、日本オラクルの首藤ディレクターは、「当社は、ハードとソフトの単体での販売も継続するが、垂直統合型システム事業に莫大な投資をする。今後、『Exaシリーズ』を提案する営業部隊を強化し、ユーザー企業の経営層に向けた提案活動を拡大する」と、直接提供を重視して市場開拓を進める方針だ。 日本オラクルと日本IBMは、アプリケーション提供の仕方を差異化要因として、垂直統合型システムのビジネス拡大を全力で推進する。今年の秋以降、両雄が激突するのは必至だ。 表層深層 調査会社のIDC Japanは、7月19日、IBMが「PureApplication System」の出荷を開始する少し前のタイミングで、垂直統合型製品のユーザー動向調査の結果を公開した。この調査は、サーバー10台以上を導入している国内の企業に、垂直統合型製品に含まれるシステム構成要素(ハードウェアや仮想化プラットフォームからアプリケーションまで)の最適な範囲は何か、をたずねたものだ。 IDC Japanの調査で、全体の20%以上の企業は、ERPをはじめとする業務アプリケーションを含めた垂直統合型製品を求めていることが明らかになった。要するに、ユーザー企業はハードウェアのレイヤーからアプリケーションのレイヤーまでをフルにカバーする垂直統合型製品を望んでいる、ということだ。 IDC Japanの福冨里志リサーチマネージャーは、「企業の多くがアプリケーションを求めていることから考えると、あらゆる業務アプリケーションを統合して提供するというオラクルのやり方が、ユーザー企業にとって受け入れやすいことになる」という見解を述べる。 垂直統合型システムの市場は、オラクルなどの製品にけん引されて、ここ数年の間、少しずつかたちづくられてきた。今年5月にIBMが「Pure Systems」をグローバルで発表したことを契機に、市場が本格的に形成され、オラクルとIBMの間の競争が激しくなろうとしている。
ハードウェアとソフトウェアを統合し、情報システムをシンプルに構成する「垂直統合型システム」がIT業界で注目を浴びている。話題のきっかけとなったのは、日本IBMが今年5月に発表した「IBM PureSystems」だ。日本IBMは、5月にインフラストラクチャの「PureFlex System」を発売したのに続き、8月にはミドルウェアを統合したプラットフォーム「PureApplication System」の出荷を開始し、本腰を入れ始めた。一方、日本IBMに先行して垂直統合型システムの「Exaシリーズ」を展開してきた日本オラクルは、新たなライバルの登場を受けて、「Exaシリーズ」を手がける営業部隊の強化に取り組んでいる。(ゼンフ ミシャ)
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外部リンク
日本オラクル=http://www.oracle.com/jp/index.html
日本IBM=http://www.ibm.com/jp/ja/