強まる不透明感
解決の糸口はどこに
日中の政治摩擦によって、中国での日系ユーザー企業向けビジネスや、中国地場市場への進出は不透明感が高まっている。日系SIerにとってどの程度のインパクトがあるのか、どこに解決の糸口があるのかを探った。
●激動する政治・経済 日中の主な情報サービスビジネスのうち、(1)対日オフショアソフト開発は、前項で触れたように政治摩擦の影響はほとんど受けないとみられる。問題は、(2)中国での日系ユーザー企業向けビジネスと(3)日本のSIerの中国地場市場でのビジネスだ。現段階では、大手日系ユーザー企業で中国ビジネスを大幅に縮小させる、あるいは撤退するという動きは表面上はみられない。ただし、中国の消費者による日本製品の不買運動が長引き、日系企業の業績が落ち込むような状態が続くとなれば、状況が変わってくる危険性はある。日系ユーザー企業の業績が思うように伸びなければ、中国におけるIT投資も頭打ちになることが懸念される。
だが、日中間の政治摩擦は今に始まった話ではなく、また、中国の政治は「時計の振り子」のように、大きく振れる特性をもっている。中国の改革開放の30年余りの期間をみても、六四天安門事件や激しさを増す反日デモ、厳しいネット規制などの政治施策と、高度成長を推し進めようとする経済施策のせめぎ合いが続いてきた。中国ビジネスは、激動の政治・経済を常に前提としてきたものであり、反日デモや不買運動が起こったからといって、そのたびにいちいち撤退を検討していては、中国ビジネスは到底成り立たない。政治摩擦で日系企業のビジネスは鈍化せざるを得ないかもしれないが、これを織り込んだうえで中国でのビジネスのアプローチ方法やリスクヘッジ、中長期的なビジネスの採算性を見極めていく必要がある。
反日デモ参加者の一部に破壊された中国・深センの日本料理店。9月下旬、日本人ビジネスマンが撮影したもので、店の入り口は中国国旗で覆われ、横断幕には「中国を支持する! 中国は必ず勝つ!」と書かれている 日系ユーザー企業向けのビジネスは、中国特有のリスクを加味したうえで、日系ユーザーのリスクを少しでも減らすための事業継続管理(BCP)や情報セキュリティに重点を置いた提案が日系SIerには求められている。
●インパクトは「限定的」 
北京アウトソーシング
サービス企業協会(BASS)
曲玲年理事長 (3)の日系SIerの中国地場市場向けのビジネスについては、結論からいえば「影響は限定的」(日系大手SIerの幹部)である。理由は簡単で、多くのSIerにとっては、グループ経営全体に打撃を与えるほど中国地場向けビジネスが大きくないからだ。残念ながら、それが実態だ。
日系SIerの海外地場市場に向けたビジネスは緒に就いたばかり。経験不足なうえに、多くの日系SIerが進出する中国で反日感情が高まることは、海外地場向けビジネスの出端をくじかれるかたちになる恐れがある。だが、これらは海外ビジネスにつきまとうリスクの一つであるという捉え方もできる。中国/ASEANの成長市場のどこへ行こうとも、政情不安とまでいかなくても、それなりのリスクは覚悟しなければならないだろう。むしろ、ある程度のリスクを受け入れたうえで、最終的に事業拡大につなげられるよう工夫をしていく必要がある。
中国情報サービス業界きっての知日派として知られる北京アウトソーシングサービス企業協会(BASS)の曲玲年理事長は、「中国で日系スーパーや日本料理店を破壊する行為は、同じ中国人としてまったく理解できない」と前置きしたうえで、「今回の日中間の政治摩擦は過去の摩擦と大同小異、本質は同じ。日中情報サービス産業の結びつきの強さを考えれば、中長期的なスパンで、何か抜本的に双方の事業計画を見直さなければならない状況にはない」と、中国側からみれば今の日中関係はこれまでの延長線上にあり、むしろ“平常運転”だと分析する。
むろん、政治摩擦などないに越したことはないが、摩擦があっても日本と中国の経済は、もはやお互いをなくしては成り立たないほど密接につながっている。日系SIerは、さまざまな障害を乗り越えて、中国でのビジネスをこれまで通り模索していく必要があり、政治摩擦を業績不振の口実にはできない状況だ。
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