クラウドサービスの台頭は、企業内ITシステムを縮小に向かわせた。これによって、好ましくない影響を受けるのは運用保守ビジネスだ。運用ビジネスに関しては、システムの運用業務を外部に委託するユーザー企業が増える可能性が高く、オンサイト運用などビジネスが拡大する要素があるものの、保守ビジネスについてはハードウェアの単価下落につれてサービス料金も低下する傾向にある。このような状況にあって、保守・サポートを主力ビジネスに据えるITサービス会社は、海外市場の攻略のほか、新しいビジネスに着手している。(取材・文/佐相彰彦)
運用サービスが保守をカバー
市場は2%の微増で推移
国内のシステム運用保守サービス市場は、運用サービスがけん引して堅調に成長するという予測が出ている。調査会社の矢野経済研究所によれば、東日本大震災以降、事業継続対策を目的にデータセンター(DC)の利用が増加していることで運用サービスが伸びているという。2011年は、前年比102.8%の3兆5176億円。10~16年の年平均成長率は2.6%で推移し、16年には3兆9856億円に達すると予測している。
運用サービスが伸びる要因は、ユーザー企業が社内のシステム担当者を企画部門などの企業の成長に必要なIT業務にシフトしていく動きにある。間接業務であるシステム運用の業務は外部に委託する動きが顕著になっているのだ。また、システムを自社で管理するよりも、外部委託するほうがコスト削減につながるという意識も高まっている。さらに、仮想化環境の普及によってシステム運用業務が高度化・複雑化しているために、“専門家”であるITベンダーに委託したほうが効率的だと考えるユーザー企業が増加している。矢野経済研究所は、こうした背景から、ユーザー企業の社内システムを対象に運用を代行する「オンサイト運用サービス」が順調に成長すると分析している。運用サービス市場の10~16年の年平均成長率は5.4%で推移、16年には2兆3769億円まで達すると予測する。
別の観点からは、社内でシステムを所有しているよりも外部に任せたほうが効率的という考えで、今後はクラウドサービスを利用するユーザー企業が増えるとの見方もある。このような状況にあって、大きなダメージを被るのが保守ビジネスだ。保守サービス料金の多くはハードウェアの単価に連動して算出されるのだが、現在はただでさえハードウェアの単価が下落して保守サービス料金が低下している状況。また、仮想化技術の普及によって、サーバーやストレージ、ネットワークなどの統合が進んで保守の対象であるハードウェアの数も減少している。さらに、出張修理の「オンサイト保守サービス」は、データセンター(DC)利用の進展やクラウドサービスの普及によって今後も減少することが予想される。そのため、矢野経済研究所では保守サービス市場の10~16年の年平均成長率をマイナス0.8%で推移し、16年度に1兆6087億円まで下がると予測している。
保守・サポートをビジネスの主軸に据えるITサービス会社は、主力ビジネスの減少をカバーし、さらには新しい“柱”を築くために新しいビジネスを創出しようとしている。果たしてITサービス会社は、どのような取り組みを進めているのだろうか。
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