マンションの売り方に酷似
中身を見せてわくわくさせる
東日本大震災を大きなきっかけとして、この2年、DC業界は活況を呈してきた。ユーザー企業が社内システムをDCに移設するなど、DCサービスの需要が高まっただけでなく、これまで首都圏に集中していたDCが全国各地へ分散する動きも目立ってきた。そんな状況にあって、とくにDCを専業とするベンダーは、郊外型DCの展開に力を入れている。郊外型DCを運営するさくらインターネット(北海道・石狩DC)とIDCフロンティア(福島県・白河DC)の取り組みを中心に、DCサービスの売り方を探る。
●お客様を見学に連れて行く 「こんな僻地に私がDCを建てるわけはないだろう」──。新しいDCの建設地を探し、札幌市に隣接する石狩市に足を運んださくらインターネットの田中邦裕社長がそうつぶやいたというエピソードが伝えられている。しかし、周辺のインフラが整っており、市が積極的に支援することを知った田中社長は、思い切ってDCを石狩市に建設することを決断した。
「郊外型DCは、現地で実物を見なければ、イメージが湧いてこない」。さくらインターネット営業部 ソリューション営業チームの渡邉光一郎セールスアナリストは、「大型案件であれば、お客様を必ず一回は石狩DCに連れて行く」と、“見学ツアー”を開催する取り組みを語る。飛行機に乗ると1時間ほどで札幌に着くなど、北海道が遠いというイメージを払拭し、設備を自分の目で見てもらうのが狙いだ。

さくらインターネット
渡邉光一郎
セールスアナリスト 同社は、月1~2回の頻度で、ユーザー企業の担当者と一緒に石狩DCを訪れ、現地で外気を取り入れる空調システムなどをアピールする。「センターの巨大さに衝撃を受けて、現地に足を運んだ後に注文を決めるお客様が少なくない」(渡邉セールスアナリスト)と、実地見学に手応えを感じているようだ。
12年10月に白河DCの1号棟を稼働開始したIDCフロンティアも現地派だ。「定期的にお客様を連れて、白河DCの訪問を行っている」(ビジネス開発本部の伴忠章本部長)という。そして、DCサービスの販売はマンションの販売に似ていると続ける。「お客様に中身を見てもらい、カーテンはこうするとか、カーペットの色はベージュがいいとか、使い方をイメージしていただくのがポイント」と販売のコツを述べる。
●ビジネス改善を提案する IDCフロンティアは「箱がすごい」と訴えるだけでは提案が進まないとみて、DCを利用することでどの程度ビジネスを改善できるかのプランを提案して、受注を狙っている。今年4月に、従来型の“箱売り”を手がける営業チームに加え、ユーザー企業のニーズを吸収してDC活用のパターン化に反映する部隊を新設した。現在はまだパターンを模索中だが、早期にかたちにして、提案活動に生かす考えだ。
ユーザー企業にビジネス改善を提案するうえでは、DCの複数のコンポーネントを組み合わせることが重要だ。IDCフロンティアの伴本部長は、「コアとなるラックのほかに、将来のビジネス拡大に備えた柔軟なネットワーク設計や、『入館不要』というような管理作業の削減などをセットとして提案することがカギを握る」と説明。こういう提案方法が実を結び、ECサイトやウェブサービスの運営者を中心にDCのユーザーを増やしているという。

IDCフロンティア
ビジネス開発本部
伴忠章本部長 付加価値の提供を追求するIDCフロンティアに対して、さくらインターネットは「低価格・低付加価値」を徹底している。高品質ながらシンプルな物を安く提供し、価格で差異化を図るという戦略だ。一方、IDCフロンティアの伴本部長は、「当社は価格では勝てない」と認めて「だからこそ、高付加価値を重視する戦略をとっている」と語る。
低価格で勝負するか、それとも、高付加価値にこだわるか。各社がそれぞれの戦略を展開していることがDCサービスのバラエティにつながり、自社にぴったりのDCを選びたいと思うユーザーにとっては有利な状況になっている。
●そしてSIerが“料理”する DCの「ユーザー」は、必ずしもエンドユーザーとは限らない。その間にいるSIerも、DCの重要な利用者だ。
さくらインターネットは、石狩DCを「業務用スーパーのようなもの」(渡邉セールスアナリスト)と捉えている。サーバーやOS(基本ソフト)といった“材料”をSIerに提供して、SIerが自社のPaaS/SaaSパッケージを付け加えながら“料理”して、エンドユーザーに提供する──。直販に加えて、そうしたパートナー販売のモデルを展開している。
DCはSIerにとって、多様なかたちでビジネス化することができる領域だ。自社で設備を用意しなくても、DC専業のベンダーと組めば、DCサービスの提供が可能になる。ポイントは売り方だ。DCはこれまでのIT商材と大きく異なるからこそ、もうひと踏ん張りして営業の方法を磨き、ユーザーの心をつかむ提案をして受注を獲得したい。
石狩DCは誰のもの!? ~複雑な販売構造を解剖

さくらインターネット
臼井宏典
シニアコンサルタント 2011年11月に開所した石狩DCは、双日グループのDC戦略の基盤をなしている。石狩DCを建設し、保有しているのは、DC専業のさくらインターネットだ。30億円以上を投資し、北海道初の大型DCとして開設した。
拡張性にすぐれた石狩DCは、最大4000ラックまでの増設に対応する。さくらインターネットは、建設当時、10年のスパンで全4000ラックが埋まる見込みを立てたが、現時点ですでに500ラックが埋まっている。見込みよりも早く、販売が進んでいるようだ。
好調な販売の背景には、数社のITベンダーが石狩DCを利用し、各社でサービス提供を行う複雑な構造がある。まずはオーナーのさくらインターネット。レンタルサーバーや専用サーバー、ハウジングといったサービスを提供する。さらに、同じ双日グループで、ネットワーク構築などを手がける日商エレクトロニクス(日商エレ)に石狩DCの一部を提供している。
日商エレは石狩DC内で独自に空調やラックなどの設備を設計し、12年9月、ハウジングなどのサービス提供を開始した。さくらインターネットが弱みとする大企業/SIerをターゲットに据え、グループ会社のエヌシーアイの営業部隊を活用して提案を進めている。
ここまでは、双日グループとしての販売構造だ。これに加えて、日商エレ/エヌシーアイは、グループ外のベンダーとの提携にも取り組んでいる。今年初めに、中堅・中小企業(SMB)に強い大塚商会と提携した。大塚商会は、2月、日商エレの石狩DC設備を利用して、DR(災害時のシステム復旧)などのサービス提供を開始した。SMB(中堅・中小企業)を中心に展開していく。
「大塚商会のサービス展開は、当社は意識しない。全幅の信頼を置いている」。さくらインターネット営業部 ソリューション営業チームの臼井宏典シニアコンサルタントは語る。
さくらインターネットは、提携先に販売を任せることで、自社の営業リソースを使わずに済む。一方、大塚商会は、建物の建設や設備設計に投資することなく、販売会社としての強みを生かして需要の旺盛なDCサービスを提供することができるのだ。両社は石狩DCで、win-winの関係を築いている。
DC業界には、少なくともセンターの30%を埋めなければ黒字化できない、という法則がある。大幅な先行投資を行ったさくらインターネットは、日商エレや大塚商会が絡む販売構造を構築することによって、一日も早く石狩DCを埋めようと活発な動きをみせている。
提案の悩みはトップ営業に聞け!
DCサービス担当の3氏がアドバイス
●もっとお客様の信頼を得たい方に――三井情報 永尾旭さん 「お客様のシステムをDCで構築するサービスの提案は、信頼を勝ち取ることができるかどうかが一番の決め手になる。お客様の不安を払拭するために、DC利用のいい点も悪い点も包み隠さずに説明し、先行事例も必ず紹介する。ユーザー視点に立って、お客様の不安や悩みを想定しながら商談を進めよう」
●現地見学が実現しにくい方に――エヌシーアイ 寒川貴志さん 「DCサービスは目に見えない商材だからこそ、提案する際は、訴えたい内容をわかりやすく伝える。使う側の立場に立って活用シーンを具体的に描きながら、導入を決断するための材料を提供することがポイントとなる。『自分の家族にも伝わるくらい、わかりやすい提案を目指せ』ということをアドバイスしたい」
●値引きを要求されることが心配の方に――京セラ コミュニケーションシステム 萩元大作さん 「上司からもらったアドバイスを伝えたい。『値引き交渉など、先方の要望をまともに受けてはいけない。自社のビジネスを守ることを第一に考えて、お客様と対等に接することを意識せよ』というアドバイスだ。商談を通じて、めげずに自社の立場を守り、受注につなげることが重要だと思う」