大量データをビジネス拡大に生かそうと、IT投資を重視するようになったユーザー企業のマーケティング部門や開発部門。彼ら“非IT部門”が求める提案のポイントは何か。アナリスト、ITベンダーの現場営業、そしてユーザー企業のウェブ事業担当に実情を取材し、ITの新しい提案先を開拓するうえでのヒントを探った。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
非IT部門は予算が潤沢
高まる「データ活用」への関心
従来の情報システム部門への提案では、処理速度の速いサーバーや便利な機能を盛り込んだグループウェアなどの導入によって業務を効率化し、コストを削減することができることが訴求ポイントだった。一方、マーケティングや開発を手がける部門、すなわち情シス以外の部門に対する提案に求められるのは、IT導入による「価値」の創出だ。データ活用によって新しいサービスをつくり出し、売り上げの拡大につなげるビジネスプランの立案がポイントになる。
マーケティングの予算を使い、IT活用が進んでいるのは、ゲーム事業を展開する企業や流通・小売業などが中心になる。総合雑貨店「無印良品」を運営する良品計画のWEB事業部は、およそ1億円の予算をかけて、顧客データをマーケティングに活用するシステムを導入した。今年5月、モバイルアプリケーション「MUJI passport」の配信を開始し、アプリを通じてユーザーの情報を収集。キャンペーンなど、マーケティングに活用する。
このシステムの導入を担当した奥谷孝司・WEB事業部長は、「顧客データをきめ細かく把握し、ビジネス成長につなげたい」と意気込みを示す(以下にインタビューを掲載)。
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そもそも、ユーザー企業の非IT部門がIT活用に乗り出したのは、自社でリソースをもつことなく、ITを「利用」することができるクラウドコンピューティングの登場がきっかけとなっている。社内システムやソーシャルメディアに蓄積された大量情報を分析し、ビジネスの拡大に生かす「ビッグデータ」への注目が、マーケティングや開発部門のIT導入を後押ししている。
調査会社のガートナー ジャパンによると、2012年、ユーザー企業の間でビッグデータに対する認知度が高まった。しかし、「IT業界のはやり言葉として冷静にみている」という企業が多いのが実態だ(図1参照)。今後は、ITベンダーがデータ活用のビジネスメリットを訴え、関心度をいかに高めるかが課題になる。
●情報収集に熱心 
ガートナー ジャパン
川辺謙介
主席アナリスト リーマン・ショック以降、企業の多くはビジネスの改革を掲げて、マーケティングを重視するようになった。情シス部門の予算が縮小傾向にあるのに対して、マーケティングとそれにひもづく製品開発の予算は潤沢というのがその現れだ。そんな情勢にあって、ITベンダーは、新しい提案先を開拓しようと動きはじめている模様だ。
ガートナー ジャパンのリサーチ部門でCRM(顧客関係管理)の調査を担当する川辺謙介主席アナリストは、「ここ半年は、国産・外資系を問わず、ITベンダーから、新提案先の開拓を切り口とした調査依頼を相次いで受けている。大手メーカーだけでなく、中堅のシステムインテグレータも熱心で、『マーケ・開発はどんなニーズを抱えているか』と情報を求めてくる」そうだ。ITベンダーがマーケティング・開発部門への提案に取り組む本気度を肌で感じているという。
日立製作所や富士通の例にみられるように、マーケティングのプロ集団である広告代理店と提携するITベンダーは増えている。広告代理店のマーケティング戦略の立案に関するノウハウに、データ分析プラットフォームなどのITツールを組み合わせて、商材化を急いでいる(図2参照)。
●トップダウンが追い風 米国では「CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)」や「CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)」など、非IT予算を用いてIT導入を決断するユーザー企業の役員を提案窓口とする動きが、IBMやオラクルなど大手ITベンダーの注目を集めている。一方、米国と企業文化が異なる日本では、米国のCMOやCTOに相当する役職はまだ非常に少なく、ITベンダーは必死になって提案の相手を探している段階にある。
そんな状況にあって、追い風になるのは、日本企業に根づいているトップダウンの意思決定方式だ。NECの第一製造業ソリューション事業部 M2Mインテグレーション部でマネージャーを務める森田亮一氏は、「トップダウンでデータ活用の導入を決める担当役員をつかめば、受注につなげやすい」と、その有効性を明らかにする。
NECや富士通は、情シス部門以外への提案に力を入れており、受注の事例を積み上げている。案件の成功要因、今後に生かす反省点は何か。次項で分析する。
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