<ベンダーにフォーカス>
「改善」による「回収」を提案
言葉やロードマップ、客先に合わせる
IBMやオラクルなどの外資系に限らず、大手の国産コンピュータメーカーも、情報システム部門以外への提案に取り組んでいる。まったく新しい動きなので、成功へのレシピはまだない。ポイントは、客先のビジネス改善を前面に押し出すこと。国内外で情シス以外の部門から注文を受けたNECと富士通のケーススタディを通じて、提案のモデルを探る。
【Case Study 1】NEC→東芝機械
●案件の概要 NECは、総合機械メーカーの東芝機械(静岡県沼津市)に、製造業向けM2M(マシン・トゥ・マシン)ソリューションを納入した。2012年10月に受注し、この夏にシステムの稼働を本格的に開始する。
機械の稼働情報や障害情報をM2Mプラットフォーム「CONNEXIVE」上で収集・分析して、機械の保守作業の効率化につなげる。さらに、東芝機械の客先が使用している部品・消耗品の状況も分析し、「そろそろ交換が必要」という提案ができるようにする。東芝機械の客先は、部品・消耗品を適正時期に交換することができ、製造ラインを止めずに済む。
●こうして受注につなげた 東芝機械は、コスト削減のために製造ラインの稼働率を向上することが急務で、データ分析・活用に対する意識が高いと分析。まずは提案の相手となるキーパーソン捜しに取り組んだ。そして、従来からパイプをもっていた情報システム部門からの紹介を受けて、東芝機械で製造を統括する技術部長にアプローチ。12年6月に提案を開始した。
次のステップとして、東芝機械の統括技術部長を中心として定期的に打ち合わせを行い、ビジネスプランを立案した。「レイヤー(デバイス、ネットワーク、データ活用)」と「フェーズ(検討、トライアル、商用開発、適用化)」の二つを軸にして、東芝機械で各フェーズに関わる担当者を集め、10人対10人のプロジェクトチームをつくった。打ち合わせでは、「クラウド」や「ネットワーク」といったIT用語をあたりまえのように使うのではなく、言葉をきちんと定義し、IT部門でない人でもわかるよう、意味をかみ砕いて説明した。
システムを導入すれば、機械の保守作業の効率化ができるほか、東芝機械の客先は部品・消耗品を適正なタイミングで交換ができると「お客様のお客様にいいことが生まれる」ことを訴求。その戦略が実を結び、統括技術部長が決定するかたちで、12年10月に注文を受けた。
●ここが勉強になった NEC
第一製造業ソリューション事業部 M2Mインテグレーション部
森田亮一 マネージャーの話
「提案のフェーズによって中心となる相手が変わり、全体として、技術に携わる側とビジネスに携わる側をうまくつなぐことに苦労した。ほかの案件での失敗によってわかってきたが、お客様で『つくる人』と『売る人』の乖離があると、なかなか受注に至らない。組織全体としてビジネスプランを描いて動くことが不可欠だ。
東芝機械の案件でも、もう少し早い段階から『売る人』を巻き込めばよかったと反省している。そうしていれば、もっと早く受注が決まったと思う。今後の提案活動で、組織をまたぐチーム形成に注力し、受注までの期間を短くしたいと考えている」
【Case Study 2】富士通→サウジアラビア工業用地公団
●案件の概要 サウジアラビア工業用地公団(MODON)は、富士通の環境管理システムを採用した。サウジアラビア商工省管轄のMODONは、2015年までに40工業団地の建設を進めており、排ガス削減など、環境改善の施策を喫緊の課題としている。富士通のシステムを使い、排出源大気や用水/排水をセンサで測定。MODON本部でデータを集中管理し、きめ細かく分析する。コンサルティングサービスも含めて提供し、団地内やその周辺での環境改善に取り組む。
●こうして受注につなげた 2010年11月、富士通のテクニカルコンピューティングソリューション事業本部の若手社員が、イベントで駐日サウジアラビア王国大使に営業をかけて、名刺を残したのが発端となった。その後、大使館とのパイプづくりに力を入れ、データ分析・活用ソリューションを提案。話が本国に伝わり、サウジアラビア商工大臣のタウフィーク・アル・ラビーア氏をはじめ、政府の幹部が富士通の技術ノウハウに高い関心を示すようになった。
富士電機や水環境エンジニアリング事業者のメタウォーターなどを入れたコンソーシアムを立ち上げ、現地への出張を繰り返す。12年11月、日本の学者が参加する環境シンポジウムの現地開催によって日本側の本気度をアピールし、13年3月に契約の締結にこぎ着けた。アル・ラビーア商工大臣が、トップダウンで導入を決断した模様だ。
●ここが勉強になった 富士通
テクニカルコンピューティング
ソリューション事業本部 TC戦略室
中村精一 マネージャーの話
「日本とサウジアラビアの時間感覚の違いでプロジェクトが進んだり進まなかったりと大変だったが、お客様に合わせて現実的なロードマップで動くことの重要性を知った。また、現地の法制度などいろいろ勉強が必要なので、相当な覚悟を決めて提案に取り組むことを求められる。今回の案件を通じて、中東市場に親近感をもつようになった。MODONに提供したソリューションをパッケージ化し、周辺諸国にも提案していきたい」
<ユーザーにフォーカス>
良品計画
WEB事業部長 奥谷孝司 氏
「ITベンダーにマーケ感覚をもってもらいたい」

奥谷 孝司(おくたに たかし)
1997年に良品計画に入社。商品開発などに携わる。2010年、「無印良品ネットストア」の運営とソーシャルメディア活用を担当するWEB事業部の部長に就任。ITの導入に積極的に取り組む。 総合雑貨店「無印良品」を運営する良品計画(金井政明社長)は、今年5月、モバイルアプリケーション「MUJI passport」の配信を開始した。このアプリによって情報を収集し、ユーザーの行動パターンなどを見える化して、マーケティングに活用する。アプリのユーザーはすでに48万人に上り、好調なスタートを切った。年間予算の半分にあたる約1億円をかけてアプリシステムの導入を担当したWEB事業部長の奥谷孝司氏に、IT活用についてたずねた。
──導入したシステムは、どういう仕組みですか。 奥谷 店舗への来店を登録すると特典が付与される「チェックイン」機能を備え、買い物をしなくてもお客様の行動パターンがわかるシステムです。従来、お客様はどの店で何を買ったかはわかっていたけれども、行動半径については把握することができませんでした。今回のシステムを導入して、お客様の行動から、どのような人かを読み取り、キャンペーン開催といったマーケティング施策に生かしたい。
さらに、システムはFacebookなど、ソーシャルメディアとも連携しています。ソーシャルメディアで、例えば「無印良品のカレーは少し辛いけれど、おいしい」といったお客様の声を拾って、ニーズに合った製品開発に活用します。WEB事業部の年間予算は2億円。システム導入に1億円強とその半分を使っていますが、ITを活用してマーケティングの効率性を上げて、チラシ配布をやめるとか、ほかのところでコスト削減につなげます。
──どんな流れで導入を決断したのですか。 奥谷 2012年の8月に検討を開始し、およそ10か月でサービスインにこぎ着けました。1億円を超える投資ですから、導入は社長決裁。社長はもともと、クレジットカード情報をマーケティングに使う考えでしたが、私は今の時代では不十分と捉えて、アプリのシステムの導入を促しました。アプリ配信による情報収集によって、具体的にどういうマーケティング施策ができるかとか、どのくらいの売上拡大につながるかを数字で示し、効果をアピールすることによって、社長を説得しました。
苦労したのは、ITベンダーにこちらの要望を伝えることでした。チェックイン機能など、すべてを当社で考え、要望に合わせてベンダーに実現してもらいました。システムを使うマーケティング部隊は、文系の人が多い。だから、使いやすいインターフェースが欠かせません。要件定義とかシステム理論とか、そういうIT的な発想はマーケティングに通じない。ベッドを買ったお客様に、次にソファーをどう訴えるか。さくっと顧客データが出せて分析ができるインターフェースがほしいのです。
●文系のシステム利用者を意識して ──今後のIT提案に対し、何を求めておられますか。 奥谷 ITツールはたくさんありますが、使いにくかったり、機能がマーケティングのニーズに合致しなかったり……。システムを実際に利用する文系の人たちを意識して、分析ツールをつくってもらいたい。データの完璧な分析ができなくてもいいので、簡単に必要な情報を把握し、後はマーケティング担当の感性に任せる。そういうツールがあればいいなと思います。
これからITベンダーに求められるのは、マーケティングのセンスをもつことです。もちろん、われわれユーザー企業側も、ITの勉強をしなければなりません。マーケティングでは、お客様が中心になります。そして、お客様の要望や行動に合わせて、製品開発や出店の戦略を決めます。今回入れたシステムは、それらを支え、確実に売り上げの拡大に貢献しています。ベンダーとうまく連携し、ITをさらに駆使していきたいと考えています。