【課題】
適したデバイスが少ない
構築までに時間がかかる

NTTコムウェア
岸本一成 担当課長 では、AR関連ビジネスに死角はないのか。市場の伸びは期待できるが、現状ではいくつかの課題が浮き彫りになっているようだ。
NTTコムウェアの岸本担当課長は、「ARの認知度が高まってきてはいるが、まだまだサービス利用者にとってあたりまえになっているとはいえない」と、一般化していないことをネックとして挙げている。そういう事情から、ユーザー企業が長期的にサービスを導入することが少ないという。「ARサービスを単発で導入しているユーザー企業が少なくない。したがって、いかに多くのユーザー企業を確保するかが、ビジネスの成否を決するカギとなる」としている。

TIS
西部一英 室長 TISの西部室長は、「ARに適したデバイスはスマートデバイスだといわれるが、はたして最適なのかどうかは不明だ」と指摘する。同社の「SkyWare」は位置情報をベースにしてサービス利用者に対してARによる情報を提供するわけだが、「なかには、特定の場所に向けてスマートフォンをかざすという行為に抵抗を感じる利用者もいるのではないか」と分析する。また、地方自治体や観光協会など、「メインのユーザー企業・団体はコンシューマ向けにサービスを提供するためにARを採用している。『SkyWare』のビジネス領域を広げるためには、『SkyWare』の機能を拡張する必要がある」と考えている。

キヤノン
ITソリューションズ
新井三鉉 事業部長 ARのシステムを提供しているキヤノンITソリューションズは、「ユーザー企業がシステムの稼働を開始するまでに時間がかかってしまう」(新井事業部長)ことをネックとして挙げる。また、MRシステムを導入することによって、ユーザー企業の業務自体が抜本的に変わる可能性が高い。「これまでのワークスタイルを変革するためのコンサルティングも必要」ということも手間と時間がかかる要因になっている。「ユーザー企業にとって、簡単に導入できるシステムを提供していかなければならない」と認めている。
【今後】
ARと別のシステムを組み合わせる
低価格のパッケージ化の提供も
前項では、AR関連ビジネスを拡大するうえでの課題について触れたが、主要ITベンダー各社は、課題を解決するために強化策を講じようとしている。
TISでは、「SkyWare」のビジネス領域を広げるため、「ARで法人ユーザーが業務を改善できるソリューションを提供する」(西部室長)という。例を挙げれば、スマートデバイスを活用してメンテナンス業務の品質と効率性の向上を追求したサービス「EXMAINTE」の提供を今年5月に開始している。このサービスは、ユーザー企業が紙のマニュアルではわかりにくい作業内容を動画や画像で閲覧できるようにすることによって点検・手順の手違いやミスを減らすというもの。スマートデバイスを用いて、作業員がオンラインで作業報告することができるだけでなく、作業を統括する管理者が現場からの報告をリアルタイムに収集して適切に作業を指示することも可能となる。
現在、マニュアルに関しては、スマートデバイスで専用のウェブサイトにアクセスして収集するか、あらかじめダウンロードする必要があるが、ARによってスマートデバイスをかざせば作業する現場が把握できる機能もオプションで提供している。この機能は、「工事の作業現場以外にも、自動販売機の設置を行う飲料メーカーの営業担当者の支援ツールなどにも使える」とみている。
NTTコムウェアは、「ユーザー企業からマーケティングの側面で利用者を分析したいとの声が上がっている。このような使い方が広まれば、さまざまな業種でユーザー企業が増えていく」(岸本担当課長)とみている。こうした動きに対応するために、今年4月からAR関連に特化したチームを編成し、ソリューションの創造を進めている。
キヤノンITソリューションズでは、「現段階でMRシステムを導入しているのは大企業が中心だが、値ごろ感のあるシステムを提供すればユーザー企業のすそ野が広がる」(新井事業部長)とみて、これまでの導入実績をもとに、「デザイン」「モデリング」「生産準備」「販売プロモーション」という4種類をテーマにして、パッケージでの提供を進めようとしている。パッケージ化によって、構築に時間がかかるという課題が解消されるだけでなく、販路も広がると判断。現在、販社はグループ会社のキヤノンマーケティングジャパンを含めて4社を獲得している。新井事業部長は、「年商1000億円未満のユーザー企業にアプローチをかける」との方針を示している。
記者の眼
TISでは、AR関連ビジネスの売上高が昨年度(2013年3月期)に前年度比50%増の成長ぶりをみせている。今後、ユーザー企業によるARの用途が拡大することを踏まえて、「今年度と来年度は、それぞれ2倍の成長を見込んでいる。15年度は、4~5倍は成長する可能性もある」(西部室長)と試算する。NTTコムウェアでは、「最低でも市場の伸びと同程度、もしくはそれ以上は伸びる」(岸本担当課長)としている。キヤノンITソリューションズは、「倍々で伸びることは確か」(新井事業部長)という。主要各社とも、AR関連が現段階でビジネスが実を結んでおり、大きなビジネスへと変貌すると捉えている。
ただ、「ARが登場した頃に比べると、サービス利用者に与えるインパクトが弱くなっている」という課題がある。サービスを提供するユーザー企業にとっては、いかに質の高いコンテンツを提供するかがカギを握ることになる。今後はITベンダー側としてもサービス利用者に適したコンテンツをユーザー企業とともに模索していくことが重要になってくるだろう。
また、現段階では直販がメインだが、サービス利用者を分析するマーケティング、法人による業務利用など、ユーザー企業にAR関連のシステム・サービスを導入する要望が広がってくれば、さまざなシステムやサービスと連携する必要性が出てくる可能性が高く、ほかのITベンダーとのアライアンスもポイントになってくる。