長野県佐久市は、ITホールディングスグループのTISが開発したスマートフォン向けのコンテンツ配信サービス「SkyWare(スカイウェア)」を採用した。GPS(全地球測位システム)とAR(拡張現実)機能を活用したもので、佐久市は来訪する観光客向けにサービスを提供して観光名所へ誘導。地域の観光産業の活性化につなげるのが狙いだ。スマートフォンに表示される地図と、観光情報をリンクしたARの組み合わせで、使い勝手の大幅な向上を実現した。
長野県佐久市
ユーザー概要:佐久市観光課では、観光客向けに五街道の一つである「中山道」を中核とした観光イベントに力を入れている。TISの「SkyWare」を活用し、宿場町の観光をより楽しんでもらえる環境を整えた。
サービス提供会社:TIS(ITホールディングスグループ)
サービス名:SkyWare(スカイウェア)
SkyWareのシステム概要
 |
| TIS 渋澤稔 信濃産業システム1部主任 |
佐久市は、江戸時代には中山道の宿場として栄えるなど、観光資源に恵まれた自然豊かな地域である。ただ、このところ観光客全体の8割余りが40歳代後半から上の年齢層で占められ、観光客の高齢化がたびたび課題として挙げられていた。2011年夏は、首都圏の電力事情の悪化を受け、高原に涼を求める観光客で賑わったものの、「それでも、中長期の視点でみれば、若い観光客をより多く呼び込み、さらにはこれまでの層にも楽しんでもらう新しい仕掛けが欠かせない」(佐久市観光課観光係の木内琢磨氏)と、頭を悩ませていた。
そこで、TISが佐久市に提案したのが、スマートフォンのGPSとAR機能を活用したコンテンツ配信サービス「SkyWare」だった。これは、ここ数年、急速に普及が進んでいるiPhoneやAndroidスマートフォンが備えているGPS機能付きの地図とAR技術と観光情報のコンテンツを組み合わせたもので、観光客がスマートフォンのカメラで実際の観光ルートを写すと、関連する観光情報のコンテンツが画面上に浮かび上がる仕組み。佐久市は、名所の一つである中山道沿いの宿場町の観光情報を中心としたコンテンツを、2011年10月に「SkyWare」に掲載した。中山道に来た観光客は、目の前の風景をスマートフォンのカメラで写せば、すぐに関連情報が取り出せるようになった。
 |
| 佐久市観光課観光係 木内琢磨氏 |
スマートデバイス向けのARサービスとしては、頓智ドットの「Sekai Camera」が有名だが、「SkyWare」は、地図上に関連コンテンツを配置したナビゲーション機能と融合させた点が新しい。TISの渋澤稔・信濃産業システム1部主任は「観光産業の振興という事業目的での使用に耐えられる設計にしてあることが『SkyWare』の強み」と話す。今回のケースでは、佐久市側が推奨する観光ルートに観光客を効率よく誘導し、さらに観光名所への理解を深めてもらうコンテンツづくりに力を入れた。ただ漫然とコンテンツを並べるのではなく、観光客により楽しんでもらう仕掛けや能動性が「SkyWare」の強みというわけだ。
佐久市観光課では、これまで8種類の紙のパンフレットを制作して配布してきたが、紙ベースでは新規の観光客を呼び込むのに限界がある。制作コストの削減にも効果があるので、「『SkyWare』の採用を機に、スマートデバイスやTwitterなど、ソーシャルサービスの活用をより積極的に進める」(佐久市観光課の木内氏)という考えを示している。
「SkyWare」には、写真や映像も掲載できるので、佐久市では中山道に伝わる小唄や、音声による案内と連動した挿絵など、これまでの紙ベースでは難しかった表現もふんだんに盛り込んだ。コンテンツは佐久市の担当者が自分で作業して掲載できる。古いタイプの公式ホームページでにありがちの業者を通じなければコンテンツを更新できない不便さはない。その分、コストも安く抑えられる。佐久市では、来年度以降も「SkyWare」を活用していく予定で、観光客の呼び込みにより一層力を入れていく。(安藤章司)
3つのpoint
・事業やビジネス目的での使用に耐えられる設計である
・スマホを使いこなすユーザー層の利便性が大幅アップ
・マルチメディアコンテンツを担当者自身で更新できる