【Theme 3】クラウド
●「いじり倒せる」研究施設 SIerのクラウドビジネスも大きく様変わりしている。クラウドはAmazon Web Services(AWS)を筆頭に規模のメリットを追求するフェーズに入った。国内で純粋にDCを活用したクラウドサービスで価格優位性を打ち出すには、少なくとも2000ラック規模は必要だとされる。つまり、ユーザーが運用する小規模な電算室では、到底、クラウドの価格優位性に近づくことはできないだけでなく、プロフェッショナルであるSIerが運営する中規模DCでさえ、採算が合うかどうか怪しくなってくる。
組み込みソフト開発で国内屈指の実績をもつコアは、今年10月、ラック換算で80ラック相当で、ティア3以上相当の高規格DCを首都圏の自社敷地内に竣工した。追加で約60ラック分を拡張できるような構造になっているとはいえ、合計しても規模としては限界がある。建設にあたっては「外部のDCを借りる選択肢もあった」(コアグループのコアネットインタナショナル・桒山久美子データセンター推進部長)と、逡巡した様子がうかがえる。普通に考えれば、この規模ではコスト競争に勝てるわけがないからだ。
それでも自社での建設に踏み切った理由は、「新しい技術を開発すること」(吉原清彦社長)にある。コアグループは、強みとする組み込みソフト技術を発展させて、M2Mプラットフォーム「ReviveTally(リバイタリ)」の開発に力を入れている。モバイルやビッグデータとも関連づけた「組み込みに次ぐ主力サービス」(平光誠・情報サービス部長)に育て上げる計画だ。そのためには「基盤となるクラウド運用の技術はどうしても自社でもっておきたい」(大下智康・情報システム部長)という。M2Mやビッグデータ、モバイルといった中核技術を研究するために、自社で好きなように改造し、いじり倒せるITプラットフォームが不可欠だったわけだ。
コアは、自社DCで30年余りの長きにわたって、主に流通サービス業向けのVANサービスを運用してきた実績をもっている。クラウド時代、原則としてユーザーは“サービス”だけを受けるわけで、裏方の運用はITベンダーが担う。DC単体のコストで勝負にならなかったとしても、コアグループが強みとするM2Mやビッグデータなど付加価値の高いサービスと一体的に提供すれば「十分な競争力を保つことができる」(吉原社長)と踏んでいる。

コアが竣工したティア3以上相当の高規格最新鋭DCの外観
左からコアネットインタナショナルの大下智康部長、桒山久美子部長、吉原清彦社長、平光誠部長
左からKCCSの萩元大作課長、秋枝正治本部長、長澤宏起部長 ●「中核技術」は社内に蓄積 サービスと一体となったトータルな価値(あるいはコスト)で競争を挑むのは、コアだけではない。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)も、トータルコストに着目してクラウドサービスを構築・刷新しているSIerだ。KCCSは東京と京都にラック換算で総計700ラック規模のDCを運営しているものの、やはり規模の競争では見劣りがする。そこで打ち出したのが、独自に開発した管理運用システム「クラウドマネージャ」を活用したクラウドサービス「GreenOffice Unified Cloud」だ。
「Unified Cloud」の最大の特徴は、自社DCはもとより、ユーザーの社内にある電算室やAWSなども含めて統合的に管理できる点にある。ITシステムが従来の客先設置型からDCやAWSのようなパブリッククラウドへ移行している時期だからこそ「統合管理による運用コスト削減が求められている」(秋枝正治・プラットフォーム事業本部長)と狙いを話す。つまり、ITシステムを運用するプラットフォームが多様化すれば、それだけ運用が煩雑になり、ユーザーの運用コストが増す。KCCSは、マルチプラットフォームに対応した運用管理をサービスとして提供することで、「ユーザーが支払うトータルの運用コストを削減する」(萩元大作・エンタープライズサービス営業課長)というわけだ。
自社DCへのアウトソーシングやIaaS/PaaSのような単純なクラウドサービスだけでは規模のメリットが十分に生かせないが、マルチプラットフォームの統合運用で運用部分のコストを削減できれば、全体としての競争力が得られる。KCCSでは運用管理部分を独自に開発するとともに、自社クラウドの基盤部分についてはベンチャー企業のあくしゅ(axsh)の技術を採用。同社と「半ば共同開発するかたちで発展させてきた」(KCCSの長澤宏起・技術開発部長)という。DCというハードウェアの規模では優勢ではないものの、運用や半ば独自のクラウド基盤を構築することで中核技術を社内に蓄積。研究開発の要素も含みながら、技術の核心部分は自社で保有する姿勢を明確にしている。
クラウドの技術は日進月歩で進化しており、多様なプラットフォームの混在は今後も続く。KCCSは、こうした現状を踏まえたうえで、マルチプラットフォーム対応の統合運用サービスやクラウド基盤技術の強みを前面に押し出すことで差異化し、ビジネスを拡大していく戦略だ。
目立つ不採算案件――競争力の源泉をどこに求めるか
主要SIer50社の第2四半期業績を俯瞰すると、業界トップのNTTデータは国内で発生した不採算案件が大きな負担となって、利益は大幅減となった。ただし、受注高ベースではすべての事業セグメントで前年同期比増で推移。野村総合研究所(NRI)も市況改善の追い風もあって、増収増益を果たしている。
日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングスの第2四半期は、不採算案件の発生で利益を大きく減らした。その一方で、日本IBMはIBM主要商材を2014年1月からJBグループのイグアスをはじめとするVAD(付加価値ディストリビュータ)経由にすべて切り替える「商流変更」を実施する。JBグループの推計では、商流の変更によって国内VAD主要3社の売り上げは単純計算で150億円ほど増える見込みで、VAD各社の売上増に大きくプラスになるものと期待されている。
この特集では、主要SIerのグローバル、ソフトウェア開発、クラウドの三つの側面で主要各社の取り組みをレポートしてきた。主要SIerが中国に加えてASEANにも進出を加速している様子がより鮮明になるとともに、中国ではオフショアソフト開発の高度化が進行。また、クラウドでは、自社の付加価値をどこで出すかといった選定が着実に進んだ。コアは、M2Mやビッグデータの研究開発、またサービス拠点として自前で竣工した最新鋭高規格DCを強みと位置づけ、KCCSはマルチプラットフォーム統合運用サービスを独自に開発することでトータルコストの削減を果たす。規模の争いには正面から勝負を挑まないが、競争力の源泉となる部分は誰にも譲らない。こうした連携と取捨選択が求められているといえそうだ。