新戦略のポイント 過去最多の人員で手厚いパートナー支援
課題解決に向けてデルが進める新戦略は、過去にはない組織体制と内容になった。過去最多の人員を動員して、ダブルカウントを廃止し、直販で獲得した顧客をパートナーに譲るという大胆なものだ。
Point 1 組織と人
社長の傘下に入った専任組織
郡社長は、まず、ダブルカウントを廃止して、各事業部門の数値責任を明確に定めた。そのうえで、GCCを吸収するかたちでパートナーを経由した販売責任をもつ新組織「パートナー事業本部」を設置。GCCにいた従業員の倍のスタッフをパートナー事業本部に動員した。具体的な人数は公表していないが、デルのパートナービジネス組織で過去最多である。
パートナー事業本部を組織して新たに生まれた組織は図の通りだ。以前から敷いている製品・サービス別の組織と、顧客の業種・規模別で分けた営業組織を組み合わせたマトリクス体制である。以前の組織と比較して製品・サービス別組織に変更はない。営業組織にパートナー事業本部を組織し、加えて西日本エリアを専門に営業展開する新組織をつくったのが、今回の新しい動きだ。
図に表れない大きな変更点がある。それはパートナービジネスの専任組織のトップが変わったことだ。実は、GCCは日本法人のなかにあるものの、そのトップはアジアパシフィックジャパンを統括するシンガポール拠点の幹部。郡社長ではなかった。「組織がどうであろうと、日本のユーザーとパートナーに対する責任は私がもつ」と郡社長は言うが、前述したダブルカウントの状況で、日本法人の実績として評価されないGCCに対する郡社長の心情は、複雑だっただろう。何よりも、日本のビジネスを日本法人のトップが完全にコントロールできない状況は、健全とはいい難い。それを解消できた点は、今回の組織体制での大きなポイントだ。
Point 2 顧客の移管
数万社をパートナーに任せる
組織体制の変更に伴う新戦略では、郡社長による「顧客の移管」という決断が最大のポイントである。直販で何らかの製品を販売した実績がある既存顧客は、数万社になる。それをパートナー事業本部に移した。パートナーとパートナー事業本部のスタッフは、この数万社の顧客リストに対して営業をかける。すでに取引実績がある顧客だけに、メディアやイベントを通じて得たリード(見込み顧客情報)よりも、受注に結びつけることができる可能性は高い。デルは、この情報を武器に、パートナーとの蜜月関係の構築を図るわけだ。
当然、そうなれば不満をもつのが直販部門だ。同じ会社とはいえ、自ら開拓した顧客を他部門に取られることに納得できない営業担当者はいる。そこを説得するために、新たな評価基準を設けて、直販営業のスタッフのモチベーションを高める。
郡社長のインタビュー記事にもあるように、移管顧客数を最初は数千社と考えていたが、それを数万社に郡社長は一気に引き上げている。
また、周到に準備をして、5月に新たな布陣で動くはずだった計画を一旦見直し、3か月も遅らせて、新体制の本格稼働時期を8月にしている。5~7月に相当の議論がされていたと予想できる。一度決めた経営判断を覆すのにはかなりの勇気が必要だったはず。ここに、郡社長のパートナービジネスを伸ばすという決意を感じる。
Point 3 パートナー
既存パートナーを優先する
この数万社の顧客に提案活動を行うパートナーを、デルはどう構成していくのか。すでに、デルはパートナーを組織していて、デルから商品を直接調達するパートナーを20社程度に絞っている。新設したパートナー事業本部のトップを務めることになった渡邊義成・執行役員パートナー事業本部本部長兼西日本法人営業統括本部本部長の考えは固まっている。「既存のパートナーを優先する」。
デルのパートナーの数に対する考え方は、これまで揺れていた。パートナーの数を追い求めるときもあれば、厳選した少数のパートナーと深くつきあう戦略を進めていた時期もあった。今回は数万社の顧客移管という大胆な戦略を採るものの、これまでデルと深くつきあっているパートナーを優先するという戦略を明確にもっている。
具体的なパートナー企業を、今回は明かすことができないが、大手のディストリビュータやSIer、複写機メーカー、データセンター事業者など、バラエティに富んだ企業が名を連ねている。これらのパートナーは、マルチベンダーを謳っている企業が多い。渡邊執行役員の戦略は、既存パートナーにとってデルを売るメリットが大きくなるはずで、デルの販売ボリュームをどれほど増やすかが、今回の戦略の最初の試金石になる。
特別インタビュー 不退転のパートナー事業に挑む17年目のベテラン
渡邊義成(わたなべ・よしなり) 執行役員パートナー事業本部本部長
PROFILE
生命保険会社に勤務した後、1998年にデル入社、今年で17年目。ほぼ一貫して直販営業部門に属してきた。今年度期首から、現職の執行役員パートナー事業本部本部長兼西日本法人営業統括本部本部長。デルに勤め続ける理由は、オープンで合理的なカルチャーと「やる気がある人間にはチャンスを与える環境だから」だという。
パートナービジネスを統括する新部門「パートナー事業本部」のトップに郡信一郎社長が選んだのは、デル歴17年で直販経験が長い渡邊義成氏。ダイレクトビジネスのノウハウを、パートナービジネスでどう生かすか。
──郡社長が全売上高の半分をパートナービジネスで稼ぐという目標を掲げた。 渡邊 まずは既存パートナーの「デル占有率」を高める。パートナーは、複数のメーカーと取引しているなかで、どのメーカーの製品がすぐれているか、どのメーカーのサポートが充実しているかを厳しくみている。ライバルよりも価値を感じてもらい、少しでもデル製品を取り扱ってもらうようにする。
──パートナーの数は増やすのか、それとも減らすのか。 渡邊 当面、パートナーの数を増やすつもりも減らすつもりもない。今は既存パートナーのデル占有率を上げるほうが先決だ。
──具体的な施策は? 渡邊 近道はないはず。厳選したパートナーの今のビジネス状況と、その先にいるお客様のニーズをしっかりと聞き取る。そして、デルが支援できることをパートナーごとに定めて、必要な支援を行う。GCCが抱えていた課題は、パートナーとお客様の満足度を上げるためのオポチュニティ。寄せられた要望に一つひとつ応えていく。
──パートナービジネスを強化する目的は、幅広い顧客にアプローチするため。そうなると、東京と大阪にしか営業拠点がないデルにとって、パートナーの力を借りたいエリアは地方になる。 渡邊 地方のIT市場の掘り起こしは重点施策。伸びしろは東名阪よりも地方のほうがあるかもしれない。全国に拠点がある全国系SIerと、各都道府県に存在する地場SIerとの連携が欠かせない。
──直販の経験でパートナービジネスに応用できることは何か。 渡邊 ライバルに圧倒的に勝っていると自負しているのが、インサイドセールス力。社内のスタッフが電話やメール、ウェブを使ってアプローチし、受注に結びつける手法は独特のノウハウが必要で、ここはデルの強み。このノウハウは、パートナーのビジネスにも応用できる。
郡社長に聞く人選 のポイント 「デルを熟知する人材が適任と判断した」
大きな変化が必要になるなかで、「何を変えるべきか」「変えるためには社内の誰と話をすればいいか」「それにはどの程度の時間がかかるのか」を短時間で的確に把握するためには、デルを熟知していなければならない。そう考えると、デルでのキャリアが長い渡邊は適任だ。直販の経験しかないことを指摘するかもしれないが、今年から担当している西日本エリアの法人営業ビジネスで、渡邊が指揮して試験的にエリアを限定したパートナーとの協業施策を手がけた。経験はある。
GCCを率いた前任者は、外部から招き入れた。過去にはない成功を得るためには、これまでとは違うやり方が必要だというのが私の持論。外の企業から引き抜くのではなく、デルでの経験が長いスタッフに任せようと最初から考えていた。(談)記者の眼
デルのパートナービジネスをスタート時の約7年前から取材してきた。振り返ると、デルのチャネル戦略は「紆余曲折」そのもの。過去に進めた施策をやめたこともあるし、かつてのパートナー事業のトップは、もうすでにデルを去っている。今回の新戦略は、正直にいえば、聞くまで疑心暗鬼だった。しかし、組織体制と内容を聞き、過去とは明らかに違うと断言できる。奏功するかどうかはわからないが、決意は感じる。デルのライバルメーカー製品の販売に強いパートナーに、デルの新戦略の評価を聞いた。「具体的な話になるので匿名でもコメントしたくない」。もう話が動いていると読んだ。今回のデルの決意に対して、主要SIerはどう動くか。デルの取材はまだ続きそうだ。(鈎)