製品戦略 旺盛なR&D気質で技術を研ぐ
すでに製品ラインアップが充実

徐直軍・取締役副会長 法人向けICTソリューション事業は11年に本格始動したばかりだが、すでに豊富なラインアップを取り揃えている。ネットワーク関連ではルータやスイッチ、セキュリティ、クラウド/DC(データセンター)関連ではサーバーやストレージ、ユニファイドコミュニケーション(UC)関連ではビデオ会議システム、さらに、業界別ソリューションも提供している。
短期間でこれだけの製品ポートフォリオを完成できたのは、豊富な研究開発(R&D)投資があるからにほかならない。ファーウェイがグローバルで抱える約15万人の従業員のうち、約7万人はR&Dに従事。毎年、売上高の10%超がR&Dに投資されていて、13年度の投資額は、売上高の12.8%を占める307億元(5314億円)になっている。これは、富士通・NECの4.6%と比べても大きい比率だ。ファーウェイの2013年の国際特許の出願数は、世界3位の2094件に達する。
●ただのハードメーカーではない 今、とくに研究開発費を投入しているのが、クラウド/DCの分野だ。高性能のサーバーやストレージだけでなく、クラウド向けのソフトウェアも開発し、ソリューションとしての製品ラインアップ強化を急いでいる。例えば、中国国内で今最も提案に力を注いでいる商材の一つが、クラウド構成OS「FusionSphere」だ。CPUやストレージ、ネットワークのリソースを仮想化して、単一のプール上で集中管理できる。サーバーやストレージ、ネットワークを統合したインフラ基盤「FusionCube」上にこれを組み込み、クラウド環境を簡単に構築できるソリューションとして提供している。
クラウド/DC分野への強い意気込みは、今年9月に中国・上海で開催した「ファーウェイ・クラウド・コングレス(HCC)2014」からもみて取れる。基調講演で徐直軍・取締役副会長は、「クラウドにチャンスがあるとみて、法人向けICTビジネスに参入している」と述べ、今後もクラウド/DC関連の研究開発に力を注いでいくことを強調した。
同イベントには、約80か国から1万人のパートナーやユーザーが参加。新発表の分散型クラウドDCソリューション「Service Driven-Distributed Cloud Data Center(SD-DC2)」に関心が集まった。異なる仮想化プラットフォームで形成した複数のクラウドDCにある仮想マシンや仮想ストレージ、仮想ネットワークなどのITリソースを一つのプール上に抽象化して集め、仮想的なDCを形成。これによって、DC管理者は複数のDC上にある業務アプリケーションを一か所で効率よく運用・管理したり、ITリソースを従来以上に柔軟に共有・割り当てたりできる。
このように、ファーウェイはソリューションの開発に力を注いでいて、もはやハードウェアメーカーの域を超えているのである。
販売戦略 チャネル開拓に意欲、2014年は1000社を拡充
法人ビジネスの70%がチャネルビジネス

劉維明・パートナー・アライアンス担当プレジデント ファーウェイは、法人向けICTソリューション事業の重点地域を日本を含めた32か国に絞っていて、各国で市場潜在力の大きい業界から開拓していこうとしている。とくに、公共・エネルギー/電力・交通・金融の分野は、グローバル共通の重点分野だ。
13年度の法人向け事業の売上高に占める直販と間接販売の比率はおよそ3対7で、現在はパートナーとの連携ビジネスに力を注いでいる。単なるサーバーやストレージの物販ではなく、「Being Integrated戦略」として、ファーウェイ製品にパートナーの得意分野を組み合わせた付加価値の高いソリューションを提供するのが基本姿勢だ。
グローバルのパートナー企業数は約5000社。パートナーは、従来型の販売代理店と、ソリューションを共同開発したり、共同で営業活動を推進したりするソリューションパートナーの2種類に大別される。拡充に注力しているのはソリューションパートナーで、現在は約1000社。より包括的に協業ビジネスを推進する「戦略的パートナー」には、SAPやインテルなどのグローバルベンダーが名を連ねる。
●“イノベーション”が売り 14年度内には、さらにパートナーを1000社拡充する方針だ。劉維明・法人向けICTソリューション事業グループパートナー・アライアンス担当プレジデントは、「これによって、法人向けICTソリューション事業の成長を加速させ、法人全体の売上高を、今年度に35億ドルまで引き上げる」と意欲を示している。
では、他メーカーの製品を扱っているIT企業が、ファーウェイとパートナーシップを結ぶメリットはどこにあるのか。劉・パートナー・アライアンス担当プレジデントは、「一番のメリットは、イノベーションを提供できることだ」と強調する。最新の技術を取り込んだファーウェイ製品は、他メーカーと比べても先進性があり、ユーザーのIT環境にイノベーションをもたらすとしている。さらに、「品質が高く、アフターサービスが充実していることもポイントだ」と強調する。ファーウェイは、グローバルに16か所のR&D拠点、28か所にパートナーとの共同イノベーション・センターを設置している。各センターで、パートナーやユーザーの要望を柔軟に取り入れて、製品やサービスを改善できる体制を構築しているのだ。
日本市場をどう開拓するか 日本は高品質を証明するための重要市場
他国に出遅れ。だが焦らない

日商エレクトロニクス
市来裕教
マーケティング本部担当部長 ファーウェイの日本市場での法人ビジネスは、他国と比べて出遅れている。
華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン、閻力大代表取締役)では、法人向けICTソリューション事業部を12年に設置し、13年に本格的な営業を開始。まだ2年弱しか経験がないため、日本のユーザー・IT企業に対する認知度はそれほど向上していない。中国メーカーというだけで「価格は安いが、品質も値段相応」と想像している人は少なくないはずだ。
日本のパートナー企業は、日商エレクトロニクス、ユニアデックス、ビットサーフなどがあるが、総数は8社しかないのが現状。米国におよそ100社のパートナー企業を有していることと比較すれば、後れを取っているといわざるを得ない。
しかし、ファーウェイにとって日本は重点地域の位置づけだ。劉・パートナー・アライアンス担当プレジデントは、「日本は、グローバルで最も高い品質を求められる地域だ。逆に言えば、日本で品質を認められれば、グローバルで通用することになる」と説明する。「安かろう悪かろう」という先入観をもたれがちな中国資本の企業だからこそ、日本で受け入れられれば、技術力の高さを証明できるというわけだ。
ただ、「やみくもに日本のパートナーを増やすつもりはない」という。日本のユーザーの品質に対する高い要求に十分に応えるだけの技術力に富んだ企業と協業して、着実に実績を積み上げていく方針だ。そのため、14年度の新規パートナーの拡充は10~20社程度にとどめる予定。今年6月に発表した17年度の法人事業の売上高500億円という目標も、「現在、見直しているところ」(広報)と慎重だ。
●高品質×低コストが売り では日本の既存パートナーは、ファーウェイ製品をどのように扱っているのだろうか。
日商エレクトロニクスでは、PCIe SSDフラッシュストレージ「Tecal ES3000 PCIe SSD」やラック・サーバー「RH シリーズ」、データセンタースイッチ「CloudEngine シリーズ 」を中心に販売している。同社は、ヒューレット・パッカード(HP)など、他社のサーバーやストレージも扱っているが、「コストやスペック要件が厳しいなかで、今後、成長の余力が大きいOTT事業者(ネット企業)やDC事業者のサービス基盤向けのクラウドインフラを開拓するために、ファーウェイと協業した」と市来裕教・マーケティング本部担当部長は説明する。日商エレクトロニクスは、ファーウェイ製品の価格競争力や品質管理体制、研究開発に力を注ぐ気質を高く評価。販売開始から1年が経過したが、サイバーエージェントなど大手顧客の事例も出てきた。ユーザーの反応について、市来・マーケティング本部担当部長は、「大量導入のケースが多く、製品の高品質さが高く評価されている。競合の大手ベンダー製品と比較しても、不良や故障率の低さにお客様は驚いている」と説明する。

ビットサーフの岩永康徳・取締役(右)と営業部の立石昇氏 ビットアイルのグループ企業でSIを手がけるビットサーフは、今年9月にTecal ES3000 PCIe SSDの販売を開始。岩永康徳取締役は、「ファーウェイ製品には、『安かろう悪かろう』はあてはまらない。契約に先立って、深・本社を視察したが、生産ラインの品質管理体制の充実ぶりに感銘を受けた」と語る。営業部の立石昇氏は、「中国企業とあって、初めて提案するお客様は、確かに『安いが低品質』という先入観をもっているケースが多い。しかし、Tecal ES3000 PCIe SSDは、性能・コストパフォーマンスともに、他社製品と比べても30%程度すぐれていて、きちんと説明すれば納得していただける」と実感している。ビットサーフは、他社製品も取り扱っているが、今後はユーザーからの他社製品の要望がない限り、ファーウェイ製品を優先的に販売していく方針だ。
記者の眼
急成長を遂げているファーウェイ。グローバルの法人市場で、着実に存在感を高めつつある。積極的なR&D投資によって、製品ポートフォリオは今後も充実していくため、グローバルのパートナー企業も加速度的に増えていくことが予想される。グローバルの法人市場を席巻するのは時間の問題か。今の成長を維持し続ければ、中長期では、HPやデル、シスコシステムズといったグローバルベンダーに匹敵する存在になる可能性を秘めている。
日本市場の開拓は他国よりも遅れているが、既存パートナーが口を揃えるように、高品質で低コストの製品は魅力的だ。「安かろう悪かろう」のイメージを払しょくできれば、日本市場の開拓が進むだろう。富士通やNECといった国産メーカーにとって、ファーウェイは脅威となる可能性が高く、中国メーカーだからといって油断して、あぐらをかいていてはいけない。
※本文に記載した元の円換算値は、ファーウェイの決算期末である13年12月末時点の為替レートで計算