一見すると、ITとは無縁に思えるロボット。だが、一部の大手ITベンダーやITベンチャーが自らロボットを開発したり、ロボットを用いたビジネスを企画したりと活発な動きをみせている。今回は、無人飛行型ロボット、対話型コミュニケーションロボット、そして産業系ロボットを取り上げ、その主な動向を詳説する。ロボットには、ITと結びつくことで生まれるビジネスがきっとある。(取材・文/木村剛士)
ドローンの可能性
法規制は気になるも利用範囲広く
2014年に話題をさらった無人飛行型ロボット「ドローン」。これをITと組み合わせてビジネス展開しようとする動きが出てきた。自社IT製品との連携を模索したり、運用・保守サービスの提供を目論んでいたり。法律の規制など、企業や個人が自由に利用するためには、越えなければならないハードルがあるが、ビッグビジネスを生み出す可能性を秘めている。

NECネッツエスアイが自社イベントで参考出品したドローン ●用途の幅広さに注目 ドローンの商用利用範囲は幅広い。筆頭は撮影用だ。ドローンにカメラを搭載して、これまで人手を介して撮影していた映像や、人間では困難な場所の撮影をドローンが行う。集まったデータを格納するストレージ機器やクラウド、それを分析するビッグデータソリューション……。ITベンダーにとっては、ドローンが撮影した映像データをネタに、ビジネスが広がる。
撮影用以外では、荷物の運搬や農薬散布といった農業支援、建築サポート、マーケティングといった分野での利用も想定できる。運搬用では、アマゾン・ドット・コムがネット通販で受け付けた商品をドローンを使って配送するサービスを発表したことで有名。また、マーケティングでは、ロシアでドローンを広告媒体として利用したユニークな事例がある。ドローンに広告を貼り付けて昼食時にオフィス街で飛ばしたという。このケースを応用してみると、ドローンにモニタを装着すれば「空飛ぶデジタルサイネージ」として使えそうだ。
●ウェブ会議システムと融合 ウェブ会議システムを提供するブイキューブは、今年1月26日、ロボット開発をビジネスとするRapyuta Robotics(ラピュータ)に出資したことを発表した。
ラピュータは、留学生が2014年7月に設立した企業で、本社を東京・新宿に置く異色のベンチャー。ロボット工学の研究で有名なスイスのチューリッヒ工科大学から優秀な人材を集め、ドローンの制御に必要なソフトウェアを開発している。ブイキューブがラピュータに出資を決めたのは、ドローンとウェブ会議を連携させることによるウェブ会議ビジネスの新たなチャンスを生みだそうとしているからだ。
ブイキューブは、今回の資本提携を機に、ラピュータのソフトを自社製品と連携させる。発売時期は未定だが、ウェブ会議とドローンをセットにし、ドローンで撮影した映像をリアルタイムにウェブ会議のシステムで確認できるソリューションを投入する計画だ。各地域の市町村をはじめ、インフラ設備の監視・管理を手がける公共機関や民間企業をまずはターゲットに売り込む作戦。ドローンとの連携という斬新な取り組みによって、ウェブ会議の販売を促す狙いだ。
ラピュータに関心をもつ企業はほかにもあり、今回、ブイキューブのほか、メディア企業と投資会社などが出資に関心を示した。ラピュータは、合計4社を引受先とする第三者割当増資を実行。総額3億5100万円の資金調達に成功した。設立して1年にも満たないベンチャーが資本金も含めて合計約6億円を手にしたことになる。ラピュータ、ドローンに対する関心の高さがうかがえる。
●従前のSIビジネスをドローンで 年商約2700億円(2014年3月期)の、NECグループ最大規模のSI子会社、NECネッツエスアイも、水面下でドローンをビジネスにつなげようとしている。
2月10日、東京・丸の内で開いた自社イベント「Customer’s Fair 2015」の会場にドローンを参考出品した。正式には商品化を発表していないが、NECネッツエスアイはドローンを開発できるメーカーと手を組んで、機体を販売するほか、利用方法のトレーニングや保守サービス、ドローンに取り付けたカメラ映像の編集・保管サービスをセットにして販売しようと目論んでいる。コンピュータを販売して、それにソフトや保守・運用サービスを組み合わせて提供する典型的なSIビジネスモデルを、ドローンに移植しようというわけだ。
●目が離せない法律の動き ドローンのような無人の飛行ロボットを日本で自由に飛ばすことには、賛否両論がある。現在、無人型の飛行ロボットを公共の場で飛ばすことは、法律上はグレーゾーンにある。今後、普及が進めば安全面、プライバシーの面で問題が生まれるのは必至だ。だから、早いうちに航空法や道路交通法を見直して、ドローンの利用を規制したほうがいいという声が高まっている。その一方で、安倍政権は、ロボット産業を一大産業に育てようとしていて、企業や個人が可能な限り自由に利用しやすくするための柔軟な法制度にするべきという意見もある。
この法律問題の決着は、安倍首相が主導する「ロボット革命実現会議」で議論する。ドローンを生かすも殺すも法律の動向に左右されるので、この会議の動向からは目が離せない。
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