各社の進出が相次ぐMVNO支援ビジネス
MVNO市場が熱を帯びたことで、自社で通信事業を提供するだけでなく、MVNO事業に進出する他社を支援するビジネスも活況を呈している。自社の強みをMVNO市場に振り向け、新たなビジネスを創出している企業の例を紹介する。
KCCS
100回線以下でもMVNO事業に参入可能

KCCS
高田直幸
部長 京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、2002年から「KWINS」のサービス名でデータ通信サービスを提供しているMVNOの先駆者的存在だ。
現在は3G/LTE、WiMAX、PHSを活用してユーザー企業向けにMVNOサービスを提供しているほか、WiMAX回線についてはMVNO事業者向けの卸提供も行っており、MVNO事業者かつ「MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)」事業者となっている。
MVNEの役割は、流通業界におけるディストリビューターのそれに近い。MVNO参入を希望する企業がMNOから回線の卸提供を受けるには、一定のユーザー数が見込めるだけでなく、膨大な申請書類などの用意が必要となるため、例えば中小のSIerが自社のサービスとして通信回線を提供したいと考えても容易には実現できない。MVNEは、MNOから調達した通信回線を小分けにして複数のMVNOに卸売りし、課金システムの構築・運用などを行うほか、必要に応じて端末の調達やコンサルティングなども提供する。MVNEを介することで、大手携帯電話事業者と直接取引するだけの事業規模が見込めない企業や、通信サービスのノウハウをもたない企業でも、MVNO事業に参入することができるようになる。
KCCSの高田直幸・ネットワークソリューション事業部ネットワークソリューション部部長は「機器の監視や遠隔サポートなどでモバイル回線が必要というSIerが、その都度通信事業者から調達するのは煩雑なので、自社でMVNOを始めてしまうというケースも増えている」と話す。通信事業への進出というと多数のユーザーがいてはじめて成立するように思われるが、実際には同社のMVNEサービスを利用してMVNOになった事業者のなかには、100以下のユーザー数で通信事業を開始した例もあるという。
ユーザー数が少ないと1回線あたりの運用コストが高くつくため、通信サービス自体で利益を上げるのは難しくなる。
しかし、例えば機器に付帯する監視・運用サービスとしてユーザーに提供するのであれば、機器販売の利益や保守料を原資として、MVNOを運営できる。さらに、KCCSがMVNEとして提供するWiMAX回線は、管理画面を通じた遠隔操作で簡単に開通・解約処理を行えるので、MNOの専用端末を操作してSIMカードに情報を書き込むといった手間がなく、運用も簡便に行えるのが特徴という。
ヤマトシステム開発
物流やキッティングでMVNOを支援
「宅急便」のヤマトグループ傘下のユーザー系SIer・ヤマトシステム開発は、物流とITの両方に強みがあることを生かし、納入された端末の検品、端末のキッティング、SIMカードの登録、端末とSIMカードの発送といった、MVNO事業で必要となる物流関連のバックエンド業務全般を「MVNO支援プラットフォーム」として商品化している。すでに大手MVNO事業者が同社のサービスを利用して業務効率化を実現しているという。
同社セットアップ・ロジソリューションカンパニーの宗像清三マネージャーは「当社では1996年より携帯電話のROMの書き込み、発送業務を手がけている」と話し、携帯電話に始まり、ブロードバンド回線のモデムやCATVチューナーなど、さまざまな通信機器のキッティングを正確・迅速に行うノウハウを積み重ねてきたと説明する。昨年10月からは、ウェブ経由で本人確認書類を送信する形態の本人確認業務も代行し、MVNOの作業負担を減らしつつ、申し込み受付から利用開始までのリードタイムの短縮を実現した。

ヤマトシステム開発
井上誠プレジデント(左)と宗像清三マネージャー 同カンパニーの井上誠プレジデントは「ヤマトグループでは、物流をコストでなく価値創造の手段とする『バリュー・ネットワーキング』構想を打ち出しており、グループ内連携を強化している」とし、MVNO向けでもグループ他企業のリソースを活用し、より包括的な支援を可能にしているという。例えば、ヤマトマルチメンテナンスソリューションズが手がける通販ショップ向け延長保証サービスを応用し、「クロネコケータイ安心保証」としてMVNOに提供。端末故障時の代替機提供など、MVNOでも大手携帯電話事業者並みの保証サービスが可能となる。そのほかに、海外から調達するスマートフォンの通関手続き・検品代行などもMVNO支援プラットフォームのメニューとして用意している。
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