既存のITベンダーが取り組むフィンテック
法人向けビジネスに不慣れなフィンテック・ベンチャーと金融機関を結びつけることで、既存のITベンダーもフィンテック市場の主要プレイヤーとしての役割を果たすことが期待されている。先進ベンダーの具体的な取り組みを紹介する。
NTTデータ
オープンイノベーションで新ビジネスをものにする
ベンチャーとユーザーのマッチングの場を

残間光太朗
室長 NTTデータは、イノベーティブなベンチャー企業と連携して、ユーザーの新しいビジネス創出を支援するスキームを自社で整備している。2014年4月に設置したオープンイノベーション事業創発室が司令塔の役割を担うが、「マイナンバー」「ビッグデータ」「次世代金融ITサービス」「次世代社会基盤サービス」の四つの重点分野別に立ち上げたワーキンググループ、その下部組織のさらに細分化されたサブワーキンググループが実働部隊を担う。フィンテックは、次世代金融ITサービスの一つとして位置づけられていて、とくに活発にプロジェクトが動いているという。
具体的な活動としては、同社の本社がある豊洲からのイノベーション発信を目指し、月1回のペースで、「豊洲の港から」というフォーラムを開いている。NTTデータが決めたテーマに沿ってベンチャーが5~6社プレゼンをし、それをもとに同社担当者と公開でディスカッションする。残間光太朗・イノベーション推進部オープンイノベーション事業創発室室長は、「当社のお客様がそれを聴講し、気になったものがあれば、当社、お客様、ベンチャーの3者が連携してPOCなどを検討するといったかたちで、一種の商談の場として機能している」と説明する。昨年度だけで、マッチング件数が22件、うち2件は事業化に至っている。
さらに、半年に1回、ベンチャーを対象に「オープンイノベーションコンテスト」を開いている。この“お題”も、NTTデータが直近で育成に力を入れたいいくつかの新規ソリューションを指定するかたちで、事業化を強く意識したものになっている。これまで2回開催されているが、最優秀賞を獲得したのは、第1回がマネーフォワード、第2回がバンクガードで、いずれもフィンテック領域のベンチャー企業であるのは象徴的だ。また、第1回コンテストでは、マネーフォワードの競合であるfreeeも優秀賞を獲得している。
マネーフォワードやfreeeとは、すでに具体的な協業成果が世に出ていて、両社の家計簿アプリやクラウド会計サービスと、NTTデータが金融機関に提供する共同利用型の個人向けインターネットバンキングサービス「AnserParaSOL」を接続するAPI連携サービスを、今年度中に提供する。
また、NTTデータは今年7月、個別の大企業とベンチャー企業との協業支援サービス「Digital Corporate Accelerate Program(DCAP)」を始めたが、みずほ銀行がこのファーストユーザーになった。そして、みずほ銀行はマネーフォワードとの協業も発表したばかりだ。マネーフォワードの法人向けクラウド型請求書一括管理ソフトの自動入金消込機能のなかで、みずほ銀行が提供する入金管理サービスの情報を自動で取得し、入金予定の請求データと照合できるようにしている。こうした協業の環境づくりにもNTTデータが一役買ったといえそうだ。
TIS
先端のAPIテクノロジーを武器に攻める
アイデアソン、ハッカソンで活用事例

寺本英生
副事業部長 新規ビジネス創出そのものを支援するスキームを用意したNTTデータに対して、よりテクニカルなアプローチでフィンテック市場を攻めようとしているのがTISだ。金融機関の既存のバックエンドシステムと、フィンテック系の外部アプリケーションを連携させることで新たな価値をもつサービスを実現するのがSIerの役割であるという認識は、TISも同様だが、そのためにはAPI活用がキーになるとみて、API管理ソリューションのトップベンダーである米アピジーとリセラー契約を結んだ。

アピジー
清水岳之氏 アピジー製品は、米国では金融業企業が自社決済システムのAPIを公開して、パートナー企業がモバイル決済対応アプリを開発するケースなどで使われている例があり、セキュリティを担保したうえで、バックエンドとフロントエンドの性質が異なるシステムをスムーズに連携させることができるのが、大きな特徴だという。寺本英生・金融第2事業本部金融ソリューション事業部副事業部長は、「アピジーとの協業は、金融系の分野に絞っているわけではないが、API活用のニーズがフィンテックで急激に盛り上がってきた感がある。具体的に、フィンテックソリューション構築のためのアイデアソン、ハッカソンで使ったりという話も進んでいる」と、手応えを語る。
一方、日本市場を担当するアピジーの清水岳之氏は、「米国でも、フィンテック分野でAPI管理ソリューションのニーズは非常に高まっている。金融分野で豊富な実績をもつTISと日本市場で協業できることは、当社にとっても新しい市場を開拓する大きなきっかけになる」と期待を寄せる。
日本IBM
「APIエコノミー」の主導権を握る
Bluemixをフル活用

エクマン・ラスムス
シニアクラウド
アドバイザー フィンテックへの参入を表明した日本IBMは、SI専業ベンダーに比べてより幅広いポートフォリオを生かしたサービスを提供していく。金融機関の顧客向けには、フィンテックの新しいサービスの構築を支援する「FinTechプログラム」を提供するほか、同社のPaaS「Bluemix」上に、サードパーティーのさまざまなフィンテックアプリケーションと金融機関の既存システムをスピーディーかつ柔軟、安全、低コストに連携させるためのAPIを揃えていく方針だ。
FinTechプログラムは、フィンテックの最新動向などを学ぶ「ワークショップ」、Bluemixも活用しながらアジャイル方式でソリューションのアイデアを育てていく「ハッカソンサポート」、顧客のアイデアをかたちにし、プロトタイプアプリの設計開発・評価などを行う「デザイン・ラボ」、本番のモバイルアプリやAPI開発、運用・保守の「導入・運用サービス」の四つの個別サービスからなる。これらは順番に利用しなければならないわけではなく、顧客のニーズに合わせて選択できる。
一方で、前項に登場したマネーツリーのサービス基盤「MT LINK」とBluemixをAPIで連携させるとも発表している。エクマン・ラスムス・クラウド事業統括シニアクラウドアドバイザーは、「APIでさまざまなサービスやデータを解放することが新たな経済を生んでいて、IBMはこれをAPIエコノミーと呼んでいる。フィンテックはAPIエコノミーと相性がよく、セキュアでオープンなプラットフォームであるBluemix(OSSのCloud Foundryがベース)に、さまざまなAPIを揃えていきたい。マネーツリーだけでなく、freeeなどすでに日本のフィンテックアプリのAPIもいくつか提供し始めている。IBMは、自社のケイパビリティをフルに活用してフィンテックに取り組んでいる」と力を込める。
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