松山ゆかりのITベンダーに聞く
いくら地域に特徴があっても、そこで活用されるITは、やはりITでしかない。ITベンダーに松山らしさを求めるのは無理がある。ただ、「地域を支えたい」「松山から世界を目指したい」など、取り組みにはそれぞれの特徴を見出すことができる。松山ゆかりのITベンダーに聞いた。
ユイ・システム工房
地域の企業とともに成長する

ユイ・システム工房
中谷恭治
代表取締役 「地元のよさを知るには、外に出たほうがいい」と、ユイ・システム工房の中谷恭治・代表取締役は、東京に事務所を構え、3年限定で若手社員に東京勤務を経験させている。地元出身者を積極的に採用しているが、地元にいたままでは松山のよさがわからないという考え方からだ。
ユイ・システム工房では、東京よりも地場企業の案件が多い。地場企業とのつき合いを考えると地元愛が欠かせない。「都心の企業と違って、地場の企業は撤退できない。手を抜かず、最後まで責任をもつ必要がある」と、中谷代表取締役は語る。このスタンスが評価され、業務システムやウェブシステム、モバイル向けアプリなど、地場企業のさまざまなニーズに応えている。
「当社のような規模だと、東京の案件では自分たちの仕事の全体像がみえにくい。地元の案件はそれがみえる範囲なので、社員のモチベーションが上がる」という。若手には社会人向けの大学院に行くことを推奨していて、学費は会社で負担している。現在も二人の社員が働きながら大学院に通っているという。
国内だけではない。「以前は、米国で起きたことが何年か後に日本にきていた。現在では、そのスパンがすごく短くなっている」として、米国留学も推奨している。ユイ・システム工房は、地元で活躍する若手を育て、IT化の推進で地域に貢献することを目指している。
アイサイト
松山発で世界を目指す

アイサイト
仙波克彦
代表取締役 2005年11月設立に松山で創業したアイサイトは、約10年で東京と大阪、広島に拠点をもち、香港にも進出するなど、着実に成長を続けている。主力事業はフィットネス・ヘルスケアソリューションとドキュメントソリューションで、パッケージ製品やクラウドサービスとして提供している。また、受託開発も創業時からの主力事業であり、パッケージ製品は受託開発をきっかけに製品化している。
「もともとは受託開発をメインとしていたが、企業の成長という観点では先がみえていた」と、アイサイトの仙波克彦・代表取締役がパッケージ製品に注力する背景を語る。
とはいえ、受託開発をベースにパッケージ化に取り組む企業は多い。そこで、アイサイトはマーケティングに注力することで業績を伸ばしたという。「MIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア)コンソーシアムに入会したことが転機。世界にソフトウェアを展開するという情熱や勢いを感じ、田舎でくすぶっていられないと思った。そして、製品をもっている以上はブランディングが大切だと知り、マーケティング活動を活発化させている」と仙波表取締役。現在注力しているのは、フィットネス・ヘルスケアソリューションである。「医療費の削減は社会的な課題であり、それには『予防』がキーワードになる。この方向性は間違っていない」として、フィットネス・ヘルスケアソリューションを国内に、そして世界へと展開していく考えだ。
サイボウズ
創業の地で開発とサポートを担う

サイボウズ
久保正明
カスタマー本部
カスタマーリレーション部
副部長 1997年8月に愛媛県松山市で創業したサイボウズ。98年11月に大阪市北区に移転するまで、本社の所在地は松山市内であった。その松山にサイボウズが戻ってきたのは、2008年3月。開発拠点としてスタートし、現在ではコールセンターも担っている。
当初は人材確保を目的に大阪、そして東京へと本社を移転させていったサイボウズだが、現在では人材のあり方がずいぶんと変わったようだ。サイボウズ松山オフィスの久保正明・カスタマー本部カスタマーリレーション部副部長は「人材の確保は簡単ではないが、最近ではUターンの採用が増えている。都市部は開発者として経験を積むにはいいが、住みやすさで地元に戻ってくる」という。創業時とは違い、サイボウズのブランド力が上がったことも、Uターン希望者を惹きつけている。
松山オフィスでは現在、86名の社員が働いている。松山におけるIT人材の受け皿となっているわけだが、営業担当が少ないこともあって、地場企業のIT化にはあまり貢献できていないという。「愛媛で情報共有の先進事例をつくりたいと考えている。とくに『kintone』を広めていきたい。セミナーなどでは、企業トップの方に興味をもっていただくも、情報システム部で止まってしまうことがある。松山にオフィスがあることを生かし、kintoneの相談や初期の構築などを個別に対応するなど、普及に努めたい」と久保副部長。事例をベースに松山オフィスでメニュー化し、地方展開の成功モデルにしたいと考えている。
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