キーパーソンに聞く
大手の下請けよりも
愛媛の発展を支える

赤松民康
会長
(エイ・ビー・エム
代表取締役) 1991年10月設立の愛媛県情報サービス産業協議会(愛情協、あいじょうきょう)は、31社の正会員企業と4社の賛助会員企業により構成されている。愛情協の会員企業は、いずれもIT化で地域の発展に貢献してきている。その愛情協で約10年間、会長を務める赤松民康氏に愛媛のIT事情について聞いた。
──会長に就任してから約10年とのことですが、振り返ってみると、どのような10年でしたか。 愛情協ではなく、私が代表を務めるエイ・ビー・エムでお話しさせていただくと、いいことはたくさんありましたが、いいことばかりでもなかったですね。
以前は受託開発を主軸に置いていましたが、開発の総予算がだんだん小規模になってきました。仕事内容は変わらないのに、総額が半分から3分の1くらいになって、利益率が下がった。エンドユーザーが安いところの発注するようになって、その影響を受けました。そのときにパッケージに切り替えるなどの対応も考えられましたが、なかなか受託開発から抜け出せなかったのです。
とくに中小企業向けにはパッケージを提案すべきですが、独自のものをやりたいという気持ちが強かったのです。最近では、パッケージ販売にシフトしています。
──パッケージ販売にシフトすることで、システム開発はどうなるのでしょう。 もちろん、開発案件は今後もあると思いますし、続けていきます。ただ、システム開発のあり方は変わっていくと思っています。
もう8年ほど前になりますが、上海に視察に行ったときに衝撃を受けました。業務システムを日本の大手ITベンダーの3分の1でシステムを開発するという。それは、人件費だけじゃないのです。5年間という期間限定での使用を前提とした開発で、5年動くことだけに注力し、ドキュメントも用意しない。5年以降のメンテナンスは考えない。それで開発コストを抑えるのです。
日本で同様の開発をするのは難しいかもしれませんが、高コスト体質はいずれ見直されるようになると思います。
──中国の人件費が高騰し、オフショアからニアショアへという動きがありますが、愛媛はどうですか。 愛媛の人件費は安いと思いますが、全国で比較すると、もっと安い地域があるでしょうね。都市部にエンジニアを派遣したり、下請けをしたりする企業もありますが、あまり多くはないと思います。
とくに単発の仕事は、あまり受けたくない。そのために要員を抱えても、開発が終わったら、次の仕事をいただける保証がありませんから。結局、都合のいいように使われてしまいます。下請けをするにも、継続的なつき合いができる企業との取引を意識しています。
──多くのSIerがリーマン・ショックの影響を受けました。とくに、派遣や下請けを主な事業としている企業は、その時の反省から、元請けを目指したり、パッケージやサービスの開発に切り替えたりしています。愛媛では、リーマン・ショックでどのような影響がありましたか。 リーマン・ショックの影響は、とくになかったですね。会員企業の多くは2000年頃にITバブル崩壊を経験していますから、そこで学んだのです。多くの会員企業が、地元企業や公共団体の仕事を受けているということもあるでしょう。地元企業や公共団体は、リーマン・ショックだからといって、急に仕事を引き上げるようなことはしません。逆に景気がよくなっても、仕事が増えたりしませんが。
現在は景気がいいと言われていますが、それも愛媛までくるのはこれからだと思います。ただ、不況はほぼ同時にやってくる。それに対する準備はできていると思います。
──IT業界は人手不足が深刻ですが、愛媛も同様ですか。 人手不足は深刻です。どこにも人材がいない。愛情協としては、若手技術者の交流会を実施したり、人材育成の事業を充実させたりしています。
また、最近では会社の後継者問題が出てきています。IT業界も歴史がありますから、創業者が高齢になりつつあります。そうした企業の後継者をどうするか、後継者がいない場合は事業継続をどう考えるかなどを議論しています。
地域のIT企業は地域の仕事を請け負っていますから、撤退が許されません。何らかのかたちで事業を継続しなければならない。愛情協では、そのための議論も行っています。
愛媛には、ある程度の規模のIT市場があります。Uターンして愛媛でITベンチャーを起業する若者も出てきています。愛情協としては、今後も愛媛の企業をITで支えながら、地域を盛り上げていきたいと考えています。