「Gmail」「YouTube」などのサービスを展開するグーグル。それらが安定稼働するために自社で整えたプラットフォームを外部企業に向けて開放した「Google Cloud Platform」は、ビッグデータ解析やマシーンラーニングを強みとし、ユーザーからは高い評価を得ている。さらに今月、東京リージョンをついに開設、一層のビジネス拡大を目論む。グローバルで有力なパブリッククラウドサービスベンダーと評される同社の法人向けクラウドビジネスはこの先、国内IaaS/PaaS市場へも大きな影響を与えそうだ。(取材・文/前田幸慧)
インフラの強みを存分に生かしたサービスを提供
グーグルが法人向けクラウドビジネスを日本で本格的に開始したのは、2014年頃。アジアリージョン(台湾)の開設を契機に、PaaSの「Google App Engine」、IaaSの「Google Compute Engine」などを含むグーグルのインフラをそのままユーザーが利用できるGoogle Cloud Platformを発表した。当時、すでにGoogle App Engineを主体としたビジネスを展開していた同社だが、幅広くクラウドサービスのラインアップを整え、国内IaaS/PaaS市場へ打って出た。
Google Cloud Platform日本事業統括の塩入賢治氏は、Google Cloud Platformの特徴として、大きく3点を挙げる。

塩入賢治
Google Cloud Platform
日本事業統括 1点めは、豊富なコンピュート資源。「グーグルのサーバーは、特定のアプリケーション用に特化せず、すべてのサービスに対して同じ仕様のものを適用できる。ユーザーは、コンテナ技術によってサーバーリソースを必要な分だけあてがうことで効率的に利用して、経済的メリットを享受できる」。2点めは、独自のネットワーク。データセンター間はグーグル専用のケーブルでつながっており、最適なスピードで全世界のユーザーにコンテンツをデリバリできるという。3点めは、ネットワークやサーバー上に、グーグル独自のさまざまなソフトウェア技術が搭載されていること。「一つのアプリケーションからみたときに、分散されたコンピュート資源を透過的に一つのリソースとして使用できる。そういったソフトウェアの技術をさまざまなレイヤで開発し搭載している」と塩入氏は説明する。さらに、これらの技術を論文として発表・公開しており、オープンソースのコミュニティが全国で立ち上がっている。
このような特徴をもつインフラを活用したGoogle Cloud Platformは、ビッグデータとマシーンラーニングの分野を強みとする。ビッグデータサービスの一つである「BigQuery」では、サーバーレスのためユーザー側でインフラを管理する必要がなく、従量制でペタバイトクラスのデータ分析を瞬時に行うことが可能。POSデータやセンサデータの解析や、社内データウェアハウスの置き換えで利用されるケースが多いという。そのほか、構造化データへ変換する「Cloud Dataflow」や、HadoopとSparkのマネージドサービス「Cloud Dataproc」などを揃える。マシーンラーニングでは、機械学習モデルを構築できるプラットフォームの「Google Cloud Machine Learning(ML)」をはじめ、音声解析の「Google Cloud Speech API」や画像解析の「Google Cloud Vision API」といったサービスを提供。機械学習はグーグルのあらゆるサービスに組み込まれているため、精度は折り紙つき。「分単位の従量課金と継続利用で割引もあるフレキシブルな料金体系によって、大量のコンピュートノードを経済的に処理できることから、当社のインフラが生きてくる」と、塩入氏は強調する。

東京リージョン開設によって国内ビジネスの拡大に弾みをつける
Google Cloud Platformビジネスの開始当初はゲーム系のユーザーが中心だったが、最近ではメディアやウェブ系、SaaSプロバイダやエンタープライズのユーザーにも利用が広がっている。「マルチクラウド戦略をとる企業や、当社のネットワークにメリットを感じる企業、新サービスを始めるときにマシーンラーニングやコンテナ技術を利用したいという企業の導入が多い」(塩入氏)。パートナー数は現在「数十社程度」としているが声がけは多く、特定領域に特化したベンダーだけでなく、大手SIerがパートナーとして加わるようになったのも最近の傾向だ。
グーグルは、全世界で米国3か所、欧州1か所、アジア1か所の計5か所にリージョンを構える。そして今月、満を持して東京リージョンの開設を発表、正式に運用を開始した。これに伴うGoogle Cloud Platformビジネスへの影響と効果の予測については明らかにしなかったが、塩入氏は、「これまで、日本にデータセンターを開設してほしいという要望が非常に多く寄せられていた」といい、国内でのデータ保有や、台湾と比較してより低いレイテンシを実現したことで得られるビジネスチャンスに期待を寄せている。
一方、グローバルでは、17年末までにあと8リージョンの開設を計画している。グーグルの法人向けクラウドビジネスがIaaS/PaaS市場においてどこまで存在感を示せるか、今後に注目だ。