社内のさまざまなデータを消失させないために、あたりまえとなったデータのバックアップ。オンプレミス型システムとクラウドサービスを導入するハイブリッド環境の採用が増えて、ますますデータ管理が複雑になるなか、メーカー各社はどのような販売網でビジネスを拡大するのか。商流の今を探る。(取材・文/佐相彰彦)
市場動向
●市場は安定成長を維持
IDC Japan
鈴木康介
リサーチマネージャー
国内バックアップソフト関連市場は安定成長を維持している。調査会社のIDC Japanによれば、国内データ保護/リカバリソフトウェア市場は、2016年が480億220万円(前年比6%増)。20年には、547億9700万円と予測している。これを踏まえて、15~20年のCAGR(年平均成長率)を3.9%と分析している。
大幅には伸びていないものの決して落ち込まない理由について、IDC Japanの鈴木康介・エンタープライズインフラストラクチャリサーチマネージャーは、「東日本大震災以後の1年半から2年くらいまでは大幅に伸びたものの、その後は落ち着いた成長率で推移している」と前置きしたうえで、「『データを保護する』ということについて、あたりまえになっているため」と捉えている。
今、ユーザー企業のなかで最も関心度が高いのは「攻めのIT」だという。生産性の向上という観点で、多くのユーザー企業では業務効率化に加えて、ビジネス自体を成長させるためのシステムを導入したいという意識が高まっている。そのなかで、「攻めのITを進めるうえで、バックアップ関連の製品・サービスを導入するというのが、自然の流れになっている」と鈴木リサーチマネージャーは説明する。バックアップ関連の製品・サービスに対するユーザー企業の関心は低いものの、システムを導入するうえで「データを失わない」のは大前提ということになる。
●ブランド力の高い製品・サービスが無難!?
ユーザー企業の攻めのITを導入するニーズが高まりつつあるなか、ITベンダーはニーズに対応した製品・サービスの提供に力を入れているが、「米国と比べて日本のユーザー企業は、バックアップをはじめとしたデータ保護に関する知識に長けているわけではないというのが事実」と鈴木リサーチマネージャーはいう。これはバックアップ関連に限ったことではないが、システムを構築して実稼働の段階に入ってもSIerなどがユーザー企業のエンジニアとしてシステムを動かすケースも多い。さらに、ユーザー企業のニーズにマッチするものの得意ではないバックアップ関連の製品・サービスを提供し、万が一、システム障害の発生時に対応できなかった場合、ユーザー企業からクレームが出てくる可能性がある。そのため、「売る側としては、どうしても無難なバックアップ関連の製品・サービスを提供する傾向がある」と鈴木リサーチマネージャーは指摘する。
売る側にとって得意とする製品・サービスの提供がトラブルを回避できるというわけだが、メーカー側のサポートがあれば問題を解消できるケースもありそうだ。メーカーごとに、サポートを含めた販社を支援する体制は異なっているからだ。加えて、販社にとって売るメリットにつながるプログラムや支援体制もさまざまである。そこで、この特集では主要メーカーのパートナープログラムにフォーカスして、現段階でどの領域に力を入れているのかを紹介する。
Arcserve Japan MSPパートナーを増やす
Arcserve Japan
小高 泰
統括部長
CA Technologiesから独立して3年目となるArcserve Japanは、「Arcserve」ブランドが国内市場で長い歴史をもち、販社経由でのビジネスが確立している。ディストリビュータを1次店としてリセラーからユーザー企業という既存の商流に加えて、新たに力を入れ始めているのがサービスプロバイダ経由でのビジネスで、「MSPパートナー」の拡大に積極的だ。そのため、既存の商流で提供しているものとは別のパートナープログラムを用意している。小高泰・営業統括部統括部長は、「バックアップサービスを低料金で提供したいというサービスプロバイダのニーズに応えた」としている。
サービスプロバイダ向けに「MSPプログラム」は、月額課金の簡単でわかりやすい料金体系で、利用した分だけ支払えばいいというのが強み。10単位のライセンスで、いくらでもArcserve Japanに請求が可能、最新バージョンをいつでもダウンロードして利用することもできる。月額料金には、インシデント数に制限なく利用できる24時間365日のサポートプログラム「プリファードサポート」も含まれる。これによって、66社のサービスプロバイダとパートナーシップを組んでいる。
サービスプロバイダ経由のビジネス拡大によって、全体の売り上げが30%増の成長と順調。なお、既存商流では主力製品「Arcserve UDP」が65%増の成長を記録している。
アクロニス・ジャパン 自社DCによるクラウド提供が強み
アクロニス・ジャパン
金野 隆
部長
自社データセンター(DC)によるクラウドサービスを強みにしているのがアクロニス・ジャパンだ。主力製品の「Acronis Backup」をディストリビュータからリセラーの商流でユーザー企業に提供しながら、オプションとして「Acronis Cloud Storage」を用意。このオプションは、簡単な手順を1回実行するだけでクラウドへのバックアップが可能で、ユーザー企業にとっては手軽にクラウドサービスを利用することができる製品だ。売る側にとっては、オンプレミス製品を提供したユーザー企業に対して、クラウドサービスも提案できるというのがメリットとなる。
DCをもっていることを武器に、サービスプロバイダやクラウドサービスを提供したいベンダー向けに「Acronis Backup Cloud」を提供。クラウドバックアップを自社ブランド化してサービスの提供が可能となる。このようにアクロニス・ジャパンではクラウド関連に力を入れており、「クラウドサービスを提供する2次店を多く獲得していきたい」(金野隆・エンタープライズマーケティング部部長)との考えを示している。クラウドサービスの1次店に関しては、ソフトウェアの提供で1次店とほぼ同じディストリビュータとパートナーシップを組んでいる。
ネットジャパン 小回りの利く支援で関係強化
ネットジャパン
佐藤尚吾
部長
バックアップソフトとして「ActiveImageProtector」シリーズをもち、その製品群をディストリビュータからリセラー経由で提供するビジネスが売り上げの5~6割を占めるネットジャパンは、それぞれの販社に対する手厚い支援が評価を得ている。佐藤尚吾・営業本部営業企画部部長は、「当社は、競合と比べると会社が小さい。小回りの利く支援で競合との差異化を図っている」としている。
案件の大中小にかかわらず、販社から要望があれば、全国のどこでも営業担当者が出向く。佐藤部長は、「さまざまなネットワークが売れるポイント」とかみ締める。ときには、新規の2次店になり得るSIerを支援しているケースもあるようだ。ネット・ジャパンの支援によってSIerが案件を獲得した場合も、「あくまでもディストリビュータを経由して製品を提供することを基本にしている」(佐藤部長)とのことだ。
ただ最近は、地方でさまざまな案件が出てきていることから「(ローカルキングなど)SIerを新規パートナーとして開拓していきたい」との考えを示している。とくに西日本で案件が増えており、その地域ならではの手法で案件を獲得するため、直接的にSIerとパートナーを組むケースがでてきているからだという。「シェアが低い当社としては、拡大に向けて、さまざまなパートナーシップを組む必要がある」と佐藤部長は説明する。
ヴィーム・ソフトウェア SMBを主力に顧客層を広げる
ヴィーム・ソフトウェア
佐藤昭知・マーケティング・マネージャー(写真左)と
吉田幸春・システムズ・エンジニアリング・マネージャー
ヴィーム・ソフトウェアは、2016年4月に日本市場へ本格的に参入。ディストリビュータとして100社、リセラーとして100社とパートナーシップを組んだ。現段階でSMBをユーザー企業として獲得しているが「SMBのうえの顧客層も獲得していく」と佐藤昭知・マーケティング・マネージャーは意気込んでいる。
具体的には、中規模もしくは大規模な企業を獲得できるパートナー20社を選定。佐藤マネージャーは、「さまざまな製品・サービスを提供するSIerを販売パートナーとし、当社の製品を組み合わせてソリューション化するように提案している」という。
国内市場では後発ということで、「単にバックアップ/リカバリの提案では、ユーザー企業が振り向かない」と佐藤マネージャーは捉えている。そこで、日本市場では「アベイラビリティ」の実現を前面に押し出して製品の拡販を図っている。このコンセプトを広めていきながら、仮想環境に強いバックアップソフトとしてアプローチしている。「SMB市場では仮想環境を構築するニーズが高まっており、まずはSMBを攻めた」(吉田幸春・システムズ・エンジニアリング・マネージャー)。今後1~2年は、2倍の成長を維持していく。
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