バズワードとしての盛り上がりは収まりつつあり、エンタープライズIT分野での商用化、実用化の芽も育ってきたブロックチェーンだが、まだまだ捉えどころのない技術だと感じている人も少なくないかもしれない。そんななか、経済産業省は3月29日、「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸ver1.0」を発表した。既存の情報システムとブロックチェーンを活用したシステムを適切に比較できる基準を見出そうというコンセプトのもと、策定したものだ。ブロックチェーンが社会に与える影響は、既存の情報システムがカバーしている範囲にとどまらないにしても、まずはその技術的特性を理解する第一歩として、参考にすべき内容といえそうだ。エンタープライズIT市場の住人が、ブロックチェーンについて「いま知っておくべきこと」がここにある。(取材・文/本多和幸)
経産省
ブロックチェーン活用システムの「評価軸ver1.0」を策定
従来システムとの適切な比較・評価を可能に
●ブロックチェーンへの過度な期待や誤解に危惧
経済産業省は3月29日、「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸ver1.0」を発表した。経済産業省は、これまでもブロックチェーンの可能性については調査事業を行っており、2015年度には、「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」で、関連市場規模を67兆円と見積もるなど、その経済的・社会的可能性の大きさを指摘している。
一方で、こうした調査を通じて、ブロックチェーンの普及に向けた課題も整理してきた。今回の「評価軸ver1.0」策定にあたって公表した調査レポートでは、「既存のシステム評価手法を単純にブロックチェーン技術を活用したシステムの評価に用いると、ブロックチェーン技術の特性を効果的に表現できず、結果として当該技術の活用を妨げる可能性もある」としている。また、ブロックチェーンの特性を踏まえたうえで、システムを評価する基準(評価軸)が整備されていないことで、「ブロックチェーンやブロックチェーンを活用したシステムに対する不安感だけでなく、過度な期待や誤解が生じており、結果的に適切な導入が進まないという現象が生じつつある」と現状を分析している。
評価軸ver1.0は、まさにこうした課題を解決するために策定したものといえる。国内外の文献や、各種実証実験などのユースケースの最新動向を調査したうえで、国内の有識者による「有識者検討委員会」を設置し、最終的に評価軸の案をまとめた。
●まずは既存の情報システムでのブロックチェーン活用を想定
ブロックチェーンについて簡単におさらいすると、ビットコインとともに生まれたP2P方式のデータ処理基盤技術で、ネットワーク内のすべてのトランザクションを記録するデータベースのような役割をもつ。ネットワークに参加しているすべてのノードが同じデータを共有し、中央管理者なしでノード間の自律的な合意形成を行うことができる。データ構造としては、「ブロック」というデータの塊に、複数のトランザクションデータと、一つ前に生成されたブロックのハッシュ値などを格納している(図参照、ナンスはプルーフ・オブ・ワーク型の合意形成アルゴリズムを採用した場合などに必要になる)。新しいブロックを生成するたびに、ブロックがハッシュ値によって鎖のようにつながっていくことが、ブロックチェーンと呼ばれる所以だ。
ブロックチェーンの非中央集権的な性質は、中央集権的な仕組み・社会制度に支えられた、現代の多くの社会インフラそのものに破壊的な変革をもたらすという指摘もある。ただ、そこまで大上段に振りかぶらなくても、単純に情報システムの観点からみて、ブロックチェーンには、「改ざんが極めて困難」で、「実質ゼロダウンタイム」のシステムを「安価」に構築できる可能性がある。評価軸ver1.0のコンセプトは、まずはこうしたメリットを享受できるユースケースを手近なところから増やすべく、ブロックチェーンを活用したシステムを、既存の情報システムと比較できるかたちで評価する基準(軸)をつくろうというものだ。
レポートのなかでは、ブロックチェーンを使ったシステムが従来システムと同じ基準で評価できない大きな要因について、「国内外でブロックチェーンを採用したシステムの品質に関する議論そのものが未着手であることに加え、複数ノードによるコンセンサス方式、ネットワーク帯域やノード数など、ブロックチェーンの仕組みに由来する、評価項目間のトレードオフ関係が存在すること」を挙げている。そこで、評価軸ver1.0では、評価項目の大項目として、「品質」「保守・運用」「コスト」を定め、品質についてはISO/IEC25010(システム・ソフトウェア品質の国際規格)から、保守・運用についてはIPAが整理した既存のシステム評価方法から、ブロックチェーンの特性と関連性の深い項目を抜粋。コストについては、システムベンダーが費用認識すべきコスト項目を独自に整理。こうして抽出した小項目32項目(次頁図参照)について、ブロックチェーンの性質を踏まえて、評価を行う際に留意すべきことを整理した。
結果として、既存システムをブロックチェーンを活用したシステムに置き換える場合の比較評価や、実証実験結果の評価にも活用できるものに仕上がったという。捉えどころのないブロックチェーンも、まずは既存の情報システムのどこかに使ってみようという人にとっては、この評価軸ver1.0が大きな後押しになるのではないだろうか。ブロックチェーンの真に革新的な用途も、その先にみえてくるのかもしれない。
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