AIによって業務の自動化/効率化が加速
働き方改革の具体的な取り組みというと、現在、オフィス以外の自宅や外出先でも仕事ができるリモートワーク/テレワークの導入が目立つ。働く場所にポイントを置いた働き方改革だ。近年ではこれに加えて引き合いが急増しているのがAI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセスオートメーション)を活用した、業務の自動化/効率化の領域。就業人口の減少分をソフトウェアのロボットに肩代わりしてもらう──、そんな世界がすぐそこまで来ている。(取材・文/安藤章司・山下彰子)
日立ソリューションズ
定型/非定型のいずれの業務も自動化へ
日立ソリューションズは、働き方改革のIT商材を大きく二つのフェーズに分けて捉えている。一つめのフェーズは「社員の柔軟な働き方」だ。業務アプリケーションのクラウド化や、VDI(仮想デスクトップ)などを使って自宅や外出先でも仕事ができる選択肢を揃える。まずは社員に働き方の選択肢を用意することで、「ダイバーシティ(多様な人材)を受け入れる土壌ができる」とみている。
小倉文寿
グループマネージャ
ダイバーシティのなかでも女性活躍の推進は重要で、能力がある女性が管理職の打診を辞退したり、一般職を希望したりする状態では、優秀な人材の絶対数を確保できない。育児や子育て、共働きの現状を踏まえて、能力のある女性が「ワークライフバランスを保ちながら、仕事で自分の能力を発揮できる」と思えるような環境づくりが大切になってくる。
こうした環境や土壌を踏まえた次のステップとして、「組織の生産性の向上」を日立ソリューションズでは強くユーザー企業に推奨している。ダイバーシティや女性活躍、男性育児休暇、介護との両立などを推し進めるのに加えて、業務効率化による生産性向上、ひいては売り上げや利益の拡大をより確実に実現していくためだ。
業務を反復作業の多い「定型」と、情報探索やマッチングなどの「非定型」の二つに分けて、前者はRPAによる自動化、後者はAIチャットボットによる支援によって生産性を高めるアプローチを打ち出す。今年7月に米RPAベンダーのオートメーション・エニウェアを国内企業で初めて代理店契約を結ぶとともに、業務支援用のチャットボット「AIアシスタントサービス」を始めたところ、ユーザー企業からの引き合いが急増。とりわけRPAへの関心度は高く「毎月100件ベースの新規問い合わせがきている」(小倉文寿・デジタルイノベーション部グループマネージャ)と手応えを感じている。
北林拓丈
グループマネージャ
AIアシスタントサービスは、情報探索や日報作成、スケジュール調整といった、従来は社員が手作業で行っていた非定型系の業務を自動化するもの。前述のRPAと業務アプリケーションを連携させることで、「さまざまな業務をAIアシスタントサービスで支援できるようにしている」(北林拓丈・ワークスタイル変革ソリューション部グループマネージャ)という。
AIアシスタントサービスはマイクロソフトのSkype(スカイプ)をベースに構築したもので、スマートフォンやタブレット端末などさまざまな端末で操作することが可能。営業現場や建設現場、接客現場といった現場系の業務でも、手元の端末からさまざまな業務を、AIアシスタントサービスとの対話を通じて自動化。現場業務が終わってからオフィスに戻り、パソコンに向かって夜遅くまで残務処理する時間をなくし、結果として生産性を高めることを狙いとしている。日立ソリューションズでは、RPAを向こう3年間累計で100社程度、AIアシスタントサービスは同50社程度への納入を目指している。
こうした取り組みによって働き方改革ITビジネスの関連売上高を昨年度の80億円から、2020年度には150億円へと拡大させていく方針を示している。
SCSK
ていねいにデータを集めて最適解を導き出す
SCSKは、自ら働き方改革を実践しているSIerとして知られる。昨年度(2017年3月期)の有給休暇取得率は95.3%、平均月間残業時間17時間47分。業績は旧住商情報システムと旧CSKの合併後5期連続で増収増益を達成している。経済産業省と東京証券取引所が共同で選定を行っている「なでしこ銘柄」「健康経営銘柄」に3年連続で選定されるとともに、厚生労働省の「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」でも大企業部門・最優秀賞(厚生労働大臣賞)を受賞するなど評価も高い。
実績豊富なSCSKが打ち出す働き方改革ITビジネスは、マイクロソフトの「Office 365」をベースに、最適な働き方を分析するサービスである。クラウドサービスのOffice 365は、どこにいても使えるため、働く場所をオフィスに限定させない効果が高い。それは、顔を合わせる時間が減ること意味しており、同僚や部下がどの程度の時間働いて、生産性はどうなのかといったことがわかりにくくなる。
そこで、SCSKではOffice 365に含まれている表計算やメールソフトなどの利用状況を通じて、実質的な勤務時間はもとより、「成果を挙げている人/部門」と、「そうでない人/部門」を比較。原因や改善に向けた道筋を分析する「働き方の可視化・分析支援サービス」を、今年度から本格的に販売を始めた。例えば、意思決定のスピードを速める場合、意思決定に至るまでの経緯やメールのやりとり、会議の回数などを総合的に分析。どう改善すれば意思決定のスピードを速められるのかを提案するといったサービス内容だ。
高橋俊之理事(左)と佐藤利宏部長
高橋俊之・理事基盤インテグレーション事業本部副本部長は、「Office 365やビデオチャットのSkypeを使えば、場所にとらわれない働き方を実現できる。当社ではもう一歩踏み込んで、生産性を高めるにはどうしたらいいのかの分析や改善提案に力を入れている」と話す。
ここ数年来の働き方改革の盛り上がりが追い風となって、SCSKのOffice 365関連のビジネスは活気づいている。Office 365には、もともと目標達成に向けて手際よく仕事を進めるように時間配分するために「MyAnalytics(マイアナリティクス)」の機能があるが、SCSKではさらに深い分析サービスを始めたことが他社との差異化につながり、今年度上期(4-9月期)の関連ビジネスへの引き合い件数は、「昨年度1年間に匹敵する件数」(佐藤利宏・製造基盤インテグレーション部長)に達しているという。
さらに営業支援や顧客管理系を中心にクラウド型のDynamics 365への引き合いも増える派生効果も出始めている。働き方改革ITビジネスは、業務アプリケーションのクラウド/SaaS型へのシフトを一段と進めるとともに、オンラインでの利用状況を詳しく分析することで、残業時間をなくしたり、生産性の向上につなげる動きがより活発化しそうだ。
日本ユニシス
BPRで抜本改革、「改善」では不十分
日本ユニシスは、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のアプローチで、ユーザー企業の働き方改革に取り組んでいる。
森隆大朗室長(左)、長澤良樹室長
わかりやすいよう、情報サービス業界を例に挙げてみる。ユーザーからRFP(提案依頼書)を受け取って、提案書をまとめるまで1週間かかっていたとする。これをBPRによって大幅短縮させるアプローチだ。SEや知見のあるメンバーのスケジュールを調整して提案書を作成。上長の承認まで自動化する。長澤良樹・サービス販売企画部企画一室長は、「働き方改革は、大胆なビジネスプロセスの変革を伴ってこそ実効性が増す」と捉えている。
これまでは、営業マンRFPをオフィスに持ち帰って、先輩にRFPの内容に必要なスキルをもった人が誰かを聞き、内線電話をかけて打診する。しかし出張中で連絡が取れず──。といった作業に時間がとられていたとする。これをチャットボットとAI、RPAなどを組み合わせて自動化。営業担当者はオフィスに戻ることなく、手元のスマートフォンからRFPの内容を伝えるだけで、後はAIが自動的にメンバーをアサインしてくれる。営業担当者はそのまま帰宅してもいいし、時間があるなら他の顧客を訪問することも可能になる。
「働き方改革はあくまでも“改革”であるべき。“改善”レベルにとどまるべきではない」(森隆大朗・サービス販売企画部AI企画室長)とし、最新のITを駆使してBPRを提案していく。ディープラーニングをはじめとするAIの進化は目覚ましく、「10年前では不可能だったBPRが、今だったら実現可能になっていることが多い」と、働き方改革をテコに関連ビジネスの拡大に力を入れる。
野村総合研究所
人的リソースは価値が高い領域に集中
野村総合研究所(NRI)は、就業者数が減っていく過程で、仕事の多くがAIやロボットに代替されていくとみている。人手不足が大きな経営課題となるのはむしろ短期的で、向こう10から20年の中長期でみれば、日本の労働人口の約49%が就いている職業がAI/ロボットで代替可能と推計。それだけにAI活用には積極的で、自然言語処理技術を駆使した対話型AI「TRAINA(トレイナ)」を使った提案に力を入れている。
今年7月には、サッポロホールディングスと共同でTRAINAを活用した実証実験の結果を発表。サッポログループの社員から、グループ本社機能分担会社のサッポログループマネジメントへの問い合わせ対応業務の実に45%が人手を介さずにAIで回答可能であることが確認できた。
大石将士
主任システムアナリスト
従来のメールや電話による対応業務は、「複雑な問い合わせに対応する業務の負荷が高い」ことや、利用者にとって「回答待ちの時間が発生」したり、「申請手続きが煩雑でわかりにくい」などの課題があった。AIを活用すれば半分近くまで自動化できることが実証できたわけだ。これによって社内業務のオーバーヘッドロスの削減に役立てたり、「自動化によって生まれた人的リソースを、人でしかできない業務に割り振ることで労働の価値を高められる」(大石将士・産業システム事業一部主任システムアナリスト)と話す。
この上期(4-9月期)、TRAINAへの引き合いは前年同期比でほぼ倍増しており、AIによる自動化、効率化のニーズは拡大している。人手不足を経営課題にしてしまうのではなく、むしろAIを積極的に活用することで人手不足の環境に適応したほうが、「将来に向けた競争力の強化、成長へとつながる可能性が高い」としている。
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