導入から運用までの時間を削減し効率化
ITを活用して働き方改革を実現しようとすると、残業抑制ソリューションや業務支援ソリューションなどに注目が集まりがちだが、ICTの導入も効果的だ。テレワークで活用するモバイルPCやウェブカメラなど、ユーザーが直接利用する機器もあるが、最近話題のハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)も働き方改革に貢献できる可能性を多く秘めている。(取材・文/山下彰子)
システム管理者の
運用負荷を軽減
HCIは、サーバーとストレージを一つのきょう体にまとめたもの。HCI誕生の背景には、CPUの高性能化がある。これまでサーバーとストレージを分離し、それぞれで処理を行うことで、全体的な処理の効率化を高めていた。逆にいえば、サーバー側のCPUに、ストレージまで管理する余裕がなかったのだ。しかし、年々CPUの性能は上がり、処理能力の余裕が出てきた。この余裕分でストレージを管理しているのがHCIだ。なお、HCIでストレージを管理するソフトウェアがソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)である。
HCIは、ハイパーバイザー、ストレージ、SDSが、すでに一つのきょう体に組み込まれた状態で販売される。そのため、従来のインフラストラクチャのように、サーバーとストレージを接続する必要も、ハイパーバイザー、SDSをインストールする必要もない。この一体化している点が、導入しやすい、管理しやすいといわれるゆえんだ。
この導入と管理のしやすさが、顧客のシステム管理者の作業時間を短縮し、負荷を下げることに貢献している。現在、顧客の社内システムは年々増え続けている。しかし、労働力人口が減少し、人手不足となっている今、システム管理者を増やすことは難しい。そのため、システム管理者一人当たりの負担は増加し、長時間労働の温床になりかねない状況にある。インフラ運用負荷を軽減するためにクラウドを導入する企業もあるが、コンプライアンス的にデータをクラウドに移行しにくい顧客もいる。そうした顧客にクラウドと同等の運用と管理のしやすさを提供するインフラとして注目されているのがHCIだ。
また、HCIのメリットとしては、ストレージの増設がしやすい点にある。IoT、AIとビッグデータを扱う時代に入り、顧客が抱えるデータ容量は年々膨らみ続けている。従来のインフラの場合、データ容量を増やすために、ディスク・アレイを追加する必要がある。サーバーとの接続が必要になり、増量作業に時間がかかる。
一方、HCIの場合、空のドライブスロットにストレージを差し込む程度で作業は完了する。ほとんどのHCIはフロントからストレージにアクセスできるように設計されており、ストレージの交換も簡単だ。手間も作業時間もそれほどかからないので、システム管理者の負担を大幅に軽減できる。
EMCジャパン
三邉祥一
コンバージドプラットフォーム&
ソリューション事業本部
vArchitect シニアマネージャー
Dell EMCのHCIを担当するEMCジャパンの三邉祥一・コンバージドプラットフォーム&ソリューション事業本部vArchitect シニアマネージャーは、「お客様がシンプルに運用できることを重要視してHCIを開発している。運用の負荷を軽減することで、インフラを使うことで得られるアウトプットに、より多く時間を割いてほしい」と話す。
具体的な例として、「Dell EMC XCシリーズ」を取り上げ、「これまでアップデートはサービスに支障のない週末や夜間などに実施していた。しかしDell EMC XCシリーズが採用しているニュータニックスのAcropolisはワンクリックですべてのアップデートがかかる。例えば、昼の休憩時間にアップデートを実行することもできる」と話し、システム管理者の時間的負荷を大幅に削減できるとした。
レノボ・エンタープライズ・
ソリューションズ
星 雅貴
アライアンス&マーケティング本部
ビジネス開発部 部長
HCIは、いざという時の作業時間も軽減できる。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズのHCIは、障害が発生した場合に障害箇所を指摘するLight-Path(ライトパス)診断パネルを搭載している。複数のCPUやメモリ、ファンのなかから故障診断箇所を指摘する。同社の星雅貴・アライアンス&マーケティング本部 ビジネス開発部 部長は「誤った操作や誤った交換の発生を未然に防ぐだけではなく、問題箇所の特定を早めることができる」と話す。また、これにより高度なスキルをもっていない担当者でも交換作業が可能だ。ダウンタイムを減らす、という一面もあるが、管理者の故障交換対応の負荷を減らすという効果も大きい。
インフラの運用・管理は重要であるものの、生産性があるものではない。人手不足が深刻な問題になっている今、この部分をいかに効率化し、また生産性のある業務に人を割り当てるかが、企業としても重要な課題になっている。
販売店の負荷を減らし
効率を上げる
ネットワールド
福住 遊
ストラテジックプロダクツ営業部
SP1課係長
HCIは導入する顧客だけではなく、販売するディストリビュータ、SIerの作業負荷も軽減する。ディストリビュータであるネットワールドの福住遊・ストラテジックプロダクツ営業部SP1課係長もこの点は強調する。「従来型のインフラは顧客に最適なものを提供できるというメリットがある。しかし、サーバーとストレージなどの相性問題、ドライバやファームウェアのバージョンの確認、電源やケーブルなどの必要なすべてのパーツの見積もりなど、作業が多い。HCIは製品と保守サービスの組み合わせですむので、見積もりを出すのが簡単で、また構成ミスが少ない」と話す。
ネットワールド
高田 悟
ストラテジックプロダクツ営業部
SP1課課長
見積もりの負荷軽減については、同社の高田悟・ストラテジックプロダクツ営業部SP1課課長も「これまで見積もりを出すまでに2週間ほどかかっていた大型案件が、半日から2日に短縮できた、という実例がある。これにより、複数の案件をこなすことができるようになった」と話す。効率を上げることで、生産性を上げることができた好例といえる。 時間短縮ができるのは、見積もりだけではない。導入作業時間も大幅に短縮できる。先述の通り、接続やOSなどのインストールの必要がないので、段ボールを開けてから1時間ほどで設置、設定が完了する。たかが数時間の短縮、と思うかもしれないが、EMCジャパンの三邉シニアマネージャーは、「システムエンジニア(SE)の出張時間を大幅に短縮することもできる」と話す。
総務省が推し進めるインターネット分離の取り組みにより、昨年は仮想化を導入する地方自治体が多かったという。しかし、地方には仮想化に詳しいエンジニアが少なく、都市部から出張するケースが多かった。「出張の行き返りの時間があるので、当然SEの作業効率は落ちる。また、従来型インフラの場合、出張が数日に及ぶことも多いが、HCIは短時間で設定までできるので、2日の出張が日帰りに短縮することができる。また、地方のエンジニアを電話でサポートすることで設定まで行うこともできる」と話す。短時間に効率よく、多くの件数をこなすことができればディストリビュータ、Slerの生産性を高めることができそうだ。
また、人材育成の面でも効果的だという声もある。エンジニアや営業は、サーバー、ストレージ、ネットワークなど、それぞれの知識を蓄える必要があった。製品数が多いため、すべてを網羅することは難しく、それぞれ専任のスタッフを置くことが多い。ネットワールドでも、「サーバー、ストレージ、ネットワーク、それぞれの専任スタッフを置き、クオリティ維持のための情報のアップデートを欠かさない。しかし、HCIは工数が少ないので、一人で担当している」(高田課長)という。人員の適正化や教育にかける時間を短縮するこで、営業やエンジニアの負荷を軽減した。
テレワークの
陰の立役者
HCIは仮想化サーバーとしての用途が多いが、ここ数年は仮想デスクトップ(VDI)用途でHCIを導入する企業が増えているという。Dell EMCでは「HCIの用途は6割が仮想化サーバー、3割強がDVI。DVIの環境を新たにつくるのに、HCIを利用するお客様が多い。スモールスタートができ、必要に応じて拡張できる点が好評」(三邉シニアマネージャー)という。
これまでDVIを導入する主な業種は、セキュリティを重視する金融業、ヘルスケア業、教育の現場などが中心だ。これらの業種の市場は拡大していないが、DVI市場は右肩上がりで伸びている。Dell EMCの国内市場に限ると「8%の伸び率」という。DVI市場を押し上げているのが、働き方改革を切り口にしたテレワークのニーズだ。
米デル
ランス・ポウラ
クラウド クライアント-
コンピューティング事業本部
副社長
米デルで、DVI事業をグローバルで統括しているランス・ポウラ・クラウド クライアント-コンピューティング事業本部 副社長は、「働き方改革により、オープンエリアで業務をするケースが増えている。OS、アプリケーション、データなどをサーバー上の仮想化環境におくVDIは、セキュリティ面でも効果が高い」と話す。Dell EMCではテレワークのためのDVI導入の件数、台数が伸びているという。こうしたテレワークを支えるHCIの導入も今後増加が期待できそうだ。