ストレージを仮想化する手段として、主流になりつつあるソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)。今話題のハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)の中核を担う技術でもあり、HCIの普及とともにSDSが広がっている。調査会社によっては、今後、年30%増の勢いで成長するとの予想もある。SDSで何が変わるのか、ストレージの最前線を追った。(取材・文/山下彰子)
仮想化のメリットは
TCO削減と運用負担の軽減
年々爆発的に増加するデータ。今後、IoTやAIを導入するようになればますますデータ量は膨れ上がる。大容量データを保存するには、ストレージの確保が必要だ。ところが、これまでのようにデータが増えたら増えただけストレージを追加していては、コストも膨れ上がってしまう。ストレージの見直しが必要な時期がきた。
例えば、サーバーは仮想化することで、ハードウェアの保守費やサポート費の削減、余剰リソースの削減を実現した。また省エネ・省スペースという効果もあった。この流れを受け、ストレージの仮想化に対する関心が高まっている。なかでもHCIの人気により、汎用的なハードウェアでストレージ環境を実現するSDSに注目が集まっている。SDSに期待されるのは、効率的に運用・管理することによるストレージコストの最適化である。
SDSの定義について、国際的なストレージ業界団体SNIA(Storage Networking Industry Association)は、ストレージの運用を自動化し、運用の複雑性やコストを低減できる「自動化」、ストレージの管理や活用にかかわる操作を標準的なAPIで操作できる「標準化されたインターフェース」、ブロック、ファイル、オブジェクトといった多様なインターフェースをサポートできる「仮想化されたデータパス」、可用性やパフォーマンスに影響なく、柔軟にストレージインフラを拡張できる「拡張性」、ストレージ利用者自身がリソース利用率やコストなどをモニタリングし管理できる「透過性」の五つの項目を必要要件として挙げた。現時点では、すべての要件を満たした製品はまだないが、今後、この方向に集約される見込みだ。
CPUの進化が
SDSを育てた
SNIA日本支部
菊地宏臣会長
従来型のインフラは、ストレージとサーバーを分け、専用のハードウェアでデータを処理している。これは1990年前後に、データ容量が膨らみ、サーバーでデータ処理を行うと時間がかかるようになり、サーバーとストレージを分離したためだ。つまり、データ量の増加により、システムを動かすサーバー側に、ストレージ機能を処理するだけの余剰がなくなってきたのだ。SNIA日本支部の菊地宏臣会長は、「サーバーとストレージを分離し、データ複製機能などをストレージシステム側で処理することで、全体的な処理を効率化させた」と話す。サーバーは演算に注力し、データの処理をストレージが担うようになり、それによりストレージベンダーが急成長した。
しかし、ハードウェアの進化が、データの増加に追いついた。CPUの性能が高まり、演算するコア数が増え、同時に多くの処理ができるようになったのである。またメモリの価格が下がり、大容量メモリを搭載できるようになる。サーバー側にストレージの処理を受け入れる余裕が出てきたというわけだ。すると、サーバー上でストレージを管理するための管理ソフトが必要になる。つまり、ストレージベンダーが提供するハードウェア上で動いていたストレージ管理の機能をソフトウェアで提供できるようにしたのがSDSだ。
拡大するSDS市場
HCIがけん引していく
このSDSは今後、ストレージ市場の主流となっていく。Wikibon、IDC、ガートナーといった調査会社は揃って外付けストレージの市場は縮小し、SDSに置き換わる、と予想している。
IDC Japanは、国内のSDS市場予測を発表している。2016年の売上額は273億900万円で、前年比は39.8%増だった。さらに、15年から20年の年平均成長率は31.1%、20年の国内売上額は758億円に上ると予測している。セグメント別では、コンピュートとストレージの機能を備えるHCIが売上額の規模、成長率の両面でSDS市場をけん引すると予想した。なお、IDCが定義するSDSとは、ハードウェアとソフトウェアで構成されるストレージシステムを指す。
今後、SIerが優位なポジショニングを構築するためには、早急にSDSに取り組むことが重要となってくる。すでにサーバーベンダー、ストレージベンダーはSDSの取り組みを強化している。各社の取り組みを追っていく。
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