不安定な世界情勢が心配されるなかでスタートした2017年。振り返ると、その心配をよそに多くのIT関連企業が好業績を継続。案件過多でエンジニア不足の状況は、ここ数年変わることなく続いている。国策として推進される働き方改革も、IT業界の追い風となった。一方で、量子コンピュータに関する話題が活発になるなど、近未来へと続くトレンドが動き始めた。本紙がみた空前絶後の17年を総決算しよう。(取材・文/畔上文昭)
すべては働き方改革のために
●テレワークと働き方改革
働き方改革は当初、ITの視点ではテレワークやリモートオフィス、モバイルワークといった視点で語られた。オフィスに縛られない環境を実現するために、テレビ会議システムやモバイルワーク用ソリューションが注目された。また、社外で利用できるシステム環境として、クラウドも普及。日本マイクロソフトの平野拓也社長は、売り上げの半分近くがクラウドとなった要因として、働き方改革が追い風になったためとしている。ただし、働き方改革が必要とされている要因を考えると、テレワークやリモートオフィス、モバイルワークだけでなく、ほとんどのITソリューションが対象になることがわかってくる。
働き方改革が国策として推進されている最大の要因は、人口減。無策のままでは、30年には現在の関西圏の労働人口がまるまる消滅すると予測されている。これを少しでも緩やかにするには、女性や高齢者の就労、外国人の受け入れ、出生率の増加が求められる。なかでも、女性や高齢者の就労には即効性があるため、注力分野の一つとなっている。
プレミアムフライデーなどのノー残業に関する取り組みは、帰宅が早く、家事を手伝う夫がいる家庭では第二子の誕生する確率が高いという統計があるため。
ノー残業に関する取り組みで、もう一つ重要なのは、社員のためにあるということ。徹夜作業や大きなストレスは、脳寿命を縮めるとされる。脳と体が元気で長生きするには、プレミアムフライデーも重要なことがわかる。
●AIやIoTと働き方改革
人口減をカバーするのは、何も人間でなくてもいい。AIやIoTを活用し、効率化を進めて、一人で処理可能な仕事量を増やすことで、人口減をカバーしていく。
AIの活用方法としては、チャットボットが増えた。ユーザーや顧客の問い合わせをAIに任せようというわけだ。コールセンターなどで導入が進み、人件費を減らすなどの効果が出ている。IoTは製造業を中心に普及しており、無人工場などを支えるソリューションとして活用するケースが出てきた。
また、今年はRPA(Robotic Process Automation)が大ブームとなったが、それも働き方改革への取り組みが追い風となっている。単純なオペレーションは、RPAに任せればいいという発想である。
●ITツールと働き方改革
働き方改革は、IT業界の進むべき道を示してくれた。そもそもITは、仕事の効率化を実現するツール。ほぼすべてのIT関連ソリューションは、働き方改革のためにあるといっても過言ではない。何のために提供するソリューションなのかを考えるにあたって、働き方改革をキーワードにすることで、提案のあり方が大きく変わってくる。17年に国策によって盛り上がった働き方改革は、IT業界の改革につながる大きな一歩となった。
●HCIと働き方改革
ハードウェア分野では、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)市場が急成長した。HCIは、サーバーやストレージ、ネットワークなどを一つのきょう体にまとめて、仮想的に使うという製品。クラウドへの流れに逆らい、オンプレミスへと誘導する製品としてHCIへの注目が日々強くなっている。
そうしたなかで、HCIはサーバーやストレージ、ネットワークなどを一つのきょう体にまとめることから、運用管理がしやすいサーバー関連製品としての普及も期待される。
●週刊BCNと働き方改革
週刊BCNは、1700号記念号において、まるごと働き方改革特集を実施。国の施策やSIerの取り組み、地方(離島)の取り組みなどを紹介した。連載のKey Personには、サイボウズの青野慶久社長が登場。「社員が仕事するうえで困っていることを解決するために新しい制度を採り入れる。これが必要なんじゃないでしょうか」と提言した。
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