データセンター(DC)の世代交代が進んでいる。大きな電源容量を必要とするAI(人工知能)や、基幹業務システムを支える高規格のクラウドサービスへの需要が拡大。1ラックあたり従来のおよそ5~10倍に相当する20~30kVAの大電源や、基幹システムに特化したクラウドサービスを実装したDCがビジネスを伸ばしている。IoTを見据えてネットワークを増強する動きもある。背景にあるのは、AIやIoTをはじめとするデジタル領域の拡大と、トラディショナルな基幹業務システムをDC内でシームレスに運用したいと考える顧客ニーズの増加。SIerやITベンダーは、デジタル領域とトラディショナルの両方のニーズをつかむべく次世代DCの整備に突き進んでいる。(取材・文/安藤章司)
高負荷のAIを支える
大容量の電源
DCを世代別にみると、1990年代までのメインフレーム中心のDCを第一世代、2000年前後のインターネットに対応したDCを第二世代、10年前後のクラウドにネイティブ対応したDCを第三世代とするならば、デジタル領域のシステムと基幹業務システムをシームレスに運用できる高規格なクラウドに対応したDCは、「第四世代DC」と位置づけることができる。
この4月、NTTデータがサーバーラック換算で5600ラック相当の巨大DCを東京・三鷹地区に竣工させる。第一期棟が約3000ラック相当、第二期棟が約2600ラック相当の予定で、まずは第一期棟が開業する。NTTデータの佐々木裕・執行役員ビジネスソリューション事業本部長は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)に完全対応したDCこそが第四世代DCだ」と話す。もちろん、最新鋭の三鷹DCはDXを強く意識しており、まさに第四世代DCの位置づけになる。
NTTデータが4月に開業する新DCの外観。
ラック換算で5600ラック相当の国内最大級のDCとなる
DXとは、デジタル技術を使って既存事業をデジタル時代に適応できるよう転換させること。必要となる技術要素のうち、代表的なものがAIである。高度な演算が中心となるAI処理には大量の電力が必要となる。三鷹DCでは、NTTデータとしては初めてラックあたりの供給電力が20kVAという「高負荷エリア」を設けた。
GPUやHPCの発熱を
雪氷と外気で冷却
AI対応に向けた電力という点においては、今年1月、新潟・長岡で開業したデータドックの最新鋭DCが、ラックあたり最大30kVAの供給を実現している。AI演算に有効とされる「GPU(グラフィックス処理ユニット)や、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)サーバーの電源要求を十分に満たす最高水準の仕様」(データドックの宇佐美浩一社長)を実装しているのが特徴だ。
ラックあたりの電源は、古くは2kVA、比較的集積度が高いサーバーでも4~6kVAまでが限度だった。それがAI対応となると、一気に20~30kVAに跳ね上がってしまう。古い設備では、大容量の電源への対応が困難なことから、AI需要を取り込みたいSIerは、こぞって大容量電源をもったラックの確保に奔走している。データドックは、まさにこのタイミングとニーズに狙いを定めて長岡DCを設計し、開業させた。
コンピュータの特性上、消費した電力はほぼすべて熱に変換される。ラックあたりの消費電力が大きければ大きいほど発熱量も大きく、冷却にかかる電気代も膨らんでしまうのが大きな課題となる。
データドックは全国有数の豪雪地帯である長岡の特性を生かし、冬の間に積もった雪を地下に蓄えておき、夏季の冷却に活用する「雪氷冷却」を実現している。雪氷と外気導入の併用による冷却で、年間を通じて電力を大量に消費する機械冷房をほぼ使わない。冷房や変圧器などを含めたDC全体の電力消費量を、IT機器のみの消費量で割ったPUEは1.19を達成できる見込みだ。PUEは1に近づけば近づくほど効率がよくなる。
基幹特化クラウドが
予想上回る受注
もう一つ、第四世代DCで欠かせない要素は、「基幹業務システムのクラウド移行」の対応だ。「基幹業務システムなのだから、耐震性抜群のDCに預かってもらうのはあたりまえじゃないか――」と考える向きもあるが、ここでいう基幹業務システムへの対応は、あくまでもクラウド基盤によるもの。従来のサーバーを預かるハウジングとは異なり、例えばNTTコミュニケーションズの「Enterprise Cloud(エンタープライズクラウド)」のようなクラウドサービスを利用する方法である。
基幹業務システムを従来のオンプレミス(客先設置)やハウジングからクラウド基盤へ移行させるメリットは、最新のクラウド・アーキテクチャを採用することで、デジタル領域の代表格であるSoE(価値創出型システム)のようなシステムとの連携が行いやすくなる点が挙げられる。スピードが要求されるデジタル領域のシステムは、クラウドの利用が一般的。「クラウドは安い」というイメージが先行しているが、10年、20年のスパンでみれば、継続課金(サブスクリプション)のクラウドより、オンプレミスで所有したほうが安い可能性もあり、コスト的なメリットはむしろ副次的なものとみるべきだろう。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、基幹業務システムに特化したクラウドサービス「CUVICmc2(キュービックエムシーツー)」を、16年8月、業界に先駆けてスタート。以来1年半余りで20社/22件の受注を獲得。CTCの藤岡良樹・執行役員クラウド・セキュリティ本部本部長は、「予想を上回る勢いで受注が伸びている」と手応えを感じている。
第四世代DCは、デジタル領域――具体的には大電源を必要とするAIへの対応、基幹業務システムのクラウド移行への対応、トラディショナルとデジタル領域のシステムをシームレスに連携させた新しいビジネスの創出基盤である。次ページからは、第四世代DCに取り組む各社の戦略をレポートする。
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