Special Feature
ベンダーに聞く 市場の現状と将来性 メインフレームはどこに向かう
2018/02/28 09:00
週刊BCN 2018年02月19日vol.1715掲載
メインフレームは終わらない
主要ベンダーは開発を継続
前ページの市場の動向をみると、メインフレームは「もう終わった」と思うかもしれない。しかし、主要ベンダーは今後も製品の開発を続けており、ビジネスは今後も成り立つと考えている。官公庁や金融機関が利用し続けているため、社会インフラとしての更新需要がある。また、最近では新しい使い方も生まれているという。日本IBM
「世界的に好調」
IBMは2017年、メインフレームの新製品「z14」を投入した。市場が縮小傾向にあるなか、決算の状況をみると、新製品の売れ行きは「世界的に好調」で、グローバルでIBMの屋台骨を支えている。国内での動向や今後の展開について、日本IBMの渡辺卓也・IBMシステムズ・ハードウェア事業本部サーバー・システム事業部IBM Z事業開発部長と柿沼健・IBMシステムズ事業本部IBM Z テクニカル・セールス部長に聞いた。──メインフレームの事業はどのような状況ですか。
渡辺卓也
IBMシステムズ・
ハードウェア事業本部
サーバー・システム事業部
IBM Z 事業開発
部長
──z14の特徴を教えてください。
柿沼 z14では、セキュリティを強調し、データ分析や機械学習、クラウド連携、APIについてもメッセージを出した。これが結果に結びついたと考えている。17年は、メインフレームのハードウェア、ソフトウェアともに非常に業績がよかった。
なかでもセキュリティは、全データの暗号化が可能になったことが大きな特徴だ。暗号化の技術は、従来のサーバープラットフォームでもあったが、暗号化には非常にCPUに負荷をかけるし、コスト的にも難しかった。一方、z14は、暗号化専用のプロセッサをもっているほか、OSの機能との合わせ技も使えるため、全データを暗号化しても、パフォーマンス、コストの両面ですぐれている。
企業システムのセキュリティ関連の事故では、内部犯行が原因として最も多い。従来の技術では、データへのアクセス権限を悪用した漏えいを防ぐのは難しかったが、z14の全方位暗号化であれば、しっかりと防ぐことができる。この点は、金融や保険など、個人情報を多く扱うお客様から高く評価されている。
──国内の市場は縮小傾向ですが、ビジネスにはどのように影響していますか。
渡辺 過去も今も、公表しているデータはないが、市場と同じような動きをしている。売り上げでは、既存の顧客の入れ替えが大部分を占めている。ただ、一つポイントとしては、われわれは、出荷先のCPU能力がどうなっているかもみている。これはこの10年、伸び続けている。日本も世界も同様だ。「ハードウェアの性能が上がり、高性能なCPUだからあたりまえ」といわれればそうだが、お客様が必要とするCPUの能力は大きくなっている。
クレジットカードを例に挙げると、カード決済するシーンは、10年前に比べて格段に多くなっており、トランザクションは大きくなっている。あとは、機械学習や分析などの新しい使い方をメインフレーム上で積極的にやっていることも、大きなCPU能力が必要とされる要因の一つといえる。
使うCPU能力が大きくなると、それを動かすためのソフトウェアの料金も大きくなるが、われわれは、ワークロードの増加に適した料金体系をz14の発表と同時に出している。今後は、この考え方をお客様に浸透させて、メインフレームの価格競争力を上げていきたい。
──これまではダウンサイジング化、そして現在はクラウド化といわれていますが、今後の見通しについての意見を聞かせてください。
柿沼健
IBMシステムズ事業本部
IBM Z テクニカル・セールス
部長
市場の流れがクラウドに向かっていても、大事なのは適材適所。メインフレームは、オープンやクラウド、DevOpsの世界とは一番かけ離れていると思われるかもしれないが、われわれは、一番先にオープンの技術をメインフレームに取り入れたベンダー。市場にあるパブリッククラウドやソーシャルメディアと連携し、ハイブリッドクラウドが実現できることも打ち出している。メインフレームだけにこだわらず、クラウド事業部とも連携して、お客様にとって最適な提案をしていくつもりだ。
富士通
2030年代も提供を継続する
調査会社IDC Japan(東京)の調査では、2016年のメインフレームを含めた国内サーバー市場では、富士通が26.2%を獲得して首位になった。国内のトップベンダーは、メインフレーム市場をどうみているのか。同社の国近慎一郎・グローバルビジネス戦略本部システムプラットフォームビジネス統括部エンタプライズサーバビジネス推進部部長は、「メインフレームは2030年代になっても提供し続ける」と断言する。──市場の動向についてどのように捉えていますか。
国近慎一郎
グローバルビジネス戦略本部
システムプラットフォーム
ビジネス統括部
エンタプライズサーバ
ビジネス推進部
部長
──市場が縮小していることは、ビジネスには影響していますか。
国近 市場は右肩下がりを続けているが、今は下げ止まっている状況。出荷台数は微減になっているが、金額は維持している。メインフレームのシステムは、新規というのはあまりない。ただ、一度つくり上げたアプリケーション資産は非常に重要なので、それを動かす環境を提供できることが、お客様から評価されている。機種の更新タイミングがあるので、売り上げに増減はあるが、年間を通してみると、フラットを維持か、年によっては増えることもある。弊社として、メインフレーム事業は非常に重要だし、周辺機器やSE、サポート部門、通信インフラも含めて、メインフレームを核としたビジネスは確立されている。
──収益は今後も維持できるとお考えですか。
国近 今の規模を維持できれば、収益は確実にキープできる。メインフレームを使っているお客様は、二重、三重、四重のシステム構築を狙っており、稼働台数が増える要素もある。お客様が自社のデータセンターだけでなく、バックアップのデータセンターに追加でメインフレームを導入するという新たな商談も増えている。極端に台数が減っていくということはないだろう。
──最近はクラウド化といわれていますが。
国近 お客様はメインフレームでやらなくていい業務についてはオープン化し、メインフレームとオープン系のシステムをつないで企業システムを構築している。パブリックかプライベートかという話はあるが、クラウドサービスにとって代わるのは、メインフレームから切り出されたオープン系のシステムだろう。メインフレーム単体で考えると、連携先がオンプレミスかクラウドかに変わるだけで、クラウドが脅威ということはまったくない。ただ、弊社はクラウドサービスもやっているので、メインフレームとの連携先が獲得できるかどうかというと、弊社全体では脅威にはなる。
クラウド化の最大のメリットは、自分でシステムを運用しなくていいこと。それを取るか、データを自分のところに置いて、何か不具合があっても自分のところですべて処理できることを取るのかという話になる。まだ全面的にクラウドに切り替えるケースは少ない。どちらかというと、新しい付加価値を生み出す業務をやるために、クラウドを利用するケースが多いと認識している。
NEC
オープン化は一巡した
富士通に次いでメインフレームを含むサーバー市場で国内シェア第2位のNEC。2017年には、「ACOSシリーズ」の新しい大型機「i-PX9800/A200」の販売を始めた。鈴木良尚・ビジネスクリエイション本部シニアエキスパートと安達尚希・ITプラットフォーム事業部第一ソリューション基盤統括部マネージャーは、「オープン化は一巡した」とみており、メインフレーム事業は「まだまだ健全」と説明する。
(右から)鈴木良尚・ビジネスクリエイション本部シニアエキスパート、
安達尚希・ITプラットフォーム事業部第一ソリューション基盤統括部マネージャー
──国内でのビジネスの状況を教えてください。
鈴木 10年代は5~10%減ってきているが、今後は横ばいか微減傾向になると予測している。2000年代前半はオープン化が盛んだったが、それが一巡したことが要因だと考えている。今はメインフレームの信頼性や可用性を評価し、継続して利用しているお客様と、資産が多くてオープン化が難しいというお客様が残っている。
安達 業種では、官庁や金融などの大規模なお客様が多い。データを外に出したくないという考え方のほか、大きな製造業だと、過去にメインフレームで構築した資産は桁違いなので、すべてオープンに移行するよりも、メインフレームにとどめた方がいいと考えている。
──メインフレーム市場にとって、クラウド化が大きな変化だと思いますが、移行の話は増えていますか。
鈴木 弊社のACOSをクラウドに移行できないかという話はよく聞くようになった。お客様がなぜクラウドに移行したいかというと、資産をもちたくなかったり、バックアップなどを安価に使ったりすることを望まれているからだ。そこは料金体系を整え、あたかもクラウドサービスのように利用できる形にしている。
今後、クラウドの利用は増えていく傾向にあると思う。ただ、クラウドの信頼性は、メインフレームに比べると劣ると考えている。より高い信頼性を求めるお客様は、これからもメインフレームを使い続けていくとみている。
安達 これからもメインフレームを使っていくというお客様は多く、新しい機能を説明してほしいという話はかなりある。オープン化しても、移行がうまくいかず、ACOSに戻ってくる場合もある。何年もかけて蓄積してきたデータやノウハウを捨てるのはもったいない。今までのものはメインフレームに残し、新しいものはクラウドなどを利用し、それぞれのよさを生かしながらシステムを構築する流れになるだろう。
──i-PX9800/A200の特徴を教えてください。
安達 「ハイパフォーマンス」をキーワードに開発した。強化したポイントは、遠隔地からACOSシステムを制御できる「リモートOPS機能」を追加したことだ。電源の投入や切断などをできるようにして利便性を高め、遠隔地からシステムを集約したいという需要に応えられるようにした。
──売れ行きはいかがですか。
鈴木 12月に出荷し、流通のお客様にすでに導入した。導入目標の数字は公表していないが、引き合いは多い。メインフレームは商談の期間が長いので、来年、再来年の導入に向けたお話もいただいている。
──将来的にどのようにビジネスを展開していく方針ですか。
鈴木 まだまだACOSを使っているお客様はいるし、ビジネスとしてもまだまだ健全に成り立っているので、できるだけ長く使ってもらえるようにしていく。メインフレームがわかる人が高齢化していくため、その人がいる間に何とかオープン化したいという話はあるが、ゼロからのスタートならば話は違う。これまでメインフレームを使ってきた場合は、オープン化の莫大な移行コストを考えると、メインフレームを使い続けていただいたほうが安いということを訴求していく。
ただ、大学を卒業した新卒社員で、オープンシステムの知識やスキルをもっている人は多い。オープンシステムならばソフトウェアハウスも使いやすい。さらに、オープン化はランニングコストが安いというイメージもあり、お客様は常にオープン化したいという要望をもっている。こういったお客様に対し、どう提案していくかが課題だ。
安達 今の段階では、この先10年、20年は事業として続けていけると予測している。市場が先細りしても、それなりにお客様の更新が続くと思っているので、適切なタイミングで新しい機種を出して、新しい機能を盛り込んでいくことが大事だと考えている。
エンタープライズITを支えてきたメインフレーム。1980年代には全盛を誇ったが、クラウド時代の最近では、「過去の遺物」を示す「レガシーシステム」と揶揄されている。市場は終焉に向かうとの見方もあるが、果たしてどの方向に向かうのか。主要ベンダーの声をもとに、市場の現状と将来性をリポートする。
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