包括連携協定3者、それぞれの思惑は?
プロジェクトはこれから立ち上がろうという段階であり、ブロックチェーンをはじめとする先進技術が最終的に加賀市の地方創生にどう生かされるのか、詳細はみえていない。3者の思惑も、現時点で完全に一致しているわけではないが、先頭を切って一歩を踏み出したことに価値がある。このプロジェクトの狙いや意義をどう考えているのか、3者に取材した。
加賀市 「ブロックチェーン都市」宣言の真意
消滅可能性都市への危機感が背中を押した
IT活用で持続可能性を担保
加賀市が「ブロックチェーン都市宣言」に至ったのは、宮元陸市長のリーダーシップに依るところが大きい。宮元市長は昨秋、スマートバリューとシビラがブロックチェーンを活用してセキュリティにすぐれたIoTデータプラットフォームをつくる仕組みを開発し、電子行政などの分野でも適用を模索していくという新聞報道を目にした。そこで、彼らに加賀市をフィールドとして使ってもらい、加賀市自身の地方創生をパートナーとして一緒に推進してもらうべく、自らスマートバリューにコンタクト。ヒアリングを重ね、包括連携への道筋をつけた。
加賀市
岡田隆之
課長補佐
今回のプロジェクトで市側の事務局を務める経済環境部イノベーション政策課の岡田隆之・課長補佐は、「加賀市としては、南加賀地域(小松市、加賀市、能美市、川北町)で唯一、消滅可能性都市に指定されたことに大きな危機感をもっている。地域の持続可能性を担保していくためには、最先端のITを積極的に採り入れ、人や企業が集まる街づくりを進めていく必要があると考えている」と話す。
加賀市は、経済産業省が進める地方でのIoTプロジェクト創出支援事業「地方版IoT推進ラボ」の一次募集で選定された29地域の一つでもあり、産学官連携による「スマート加賀IoT推進協議会」も立ち上げ、IoTによる地元産業の付加価値向上やIT人材の育成に以前から取り組んできた。このスマート加賀IoT推進協議会も今回のブロックチェーン都市宣言を後押しし、テクノロジーを活用した地方創生を地域一体で進める気運を高めようとしている。ちなみに、スマート加賀IoT推進協議会は米グーグル副社長、Google Japan代表取締役社長などを務めた村上憲郎氏が会長を務めているが、同氏はシビラの顧問も務めている。
市域内の産業高度化に期待
ただし岡田課長補佐は、今回のブロックチェーン都市宣言について「あくまでもアドバルーンを打ち上げた段階で、具体的な施策検討はこれから。加賀市としては、まずは実証フィールドをできる限り幅広く提供することが果たすべき役割だと考えている」と若干慎重な言い回しで説明する。岡田課長補佐自身は、ブロックチェーンの「耐改ざん性や可用性、システム構築コストの面で既存技術に比べて大きなメリットを享受できる可能性に注目している」というが、行政の電子化におけるブロックチェーンの“使いどころ”などは、スマートバリューやシビラ、さらにはこれから加賀ラボに参画する企業などとも連携し、「市側のリテラシーを上げてから具体的な検討をしていく」方針だ。
では、加賀市が短期的に期待するブロックチェーン都市宣言の効果とは何か。岡田課長補佐は、「人材育成に尽きる」と話す。「ブロックチェーン都市宣言は現時点ではアドバルーンに過ぎなくても、それにより加賀市に注目が集まり、すでにITベンダーなど多くの事業者から問い合わせが来ているのも事実。そうして集まった事業者に、ブロックチェーンをはじめとする先進ITを活用するための知識やノウハウを市内企業に水平展開していただくことで、地域産業の高度化を図ることができる。これにより、非常に生産性が高いとか、新しいビジネスモデルで大きく成長する魅力ある企業が加賀市域で生まれる可能性がある。地方版IoT推進ラボも人材育成をメインにやってきている」。
まずは地域の産業界にブロックチェーンを根付かせ、民間を中心に革新的な事業モデルを創出することを期待しているということのようだ。
<interview>スマートバリュー
ブロックチェーンの“必然性” ではなく “可能性”に賭けている
――加賀市のブロックチェーン都市宣言は、非常に壮大なコンセプトですが、まずはプロジェクト立ち上げの現段階で、どの程度細かいところまで関係者のコンセンサスは形成されているのでしょうか。
深山周作
クラウドイノベーション
Division
営業企画推進室
第一チーム
Team Leader
深山 ブロックチェーンを実際にどのように、どんなところに活用していくか、模索中のところは多々ありますし、KYC認証基盤の構築も、これから要件定義に入っていく段階です。3者が考えていることが完全に一致しているわけではありませんが、お互いの考えやアイデアをこれからぶつけ合ってすり合わせ、磨いていくことに大きな意味があると思っています。
――もともと加賀市の宮元市長からスマートバリューにコンタクトがあって始まったプロジェクトだそうですね。
岩本健太郎
クラウドイノベーション
Division
営業企画推進室
Group Leader
岩本 スマートバリューは自治体・公共機関向けの地域情報クラウドプラットフォームを提供しているほか、モビリティIoTの事業にも近年力を入れています。IoTとブロックチェーンの融合ということで一番わかりやすいのは、ブロックチェーンによってIoTデバイスのデータの信頼性を担保したり、スマートコントラクトによってIoTデバイス同士がM2Mで超小額決済ができるといったことが実現できます。2016年にシビラと資本業務提携し、実際にそうしたソリューションを開発してきました。ただ、当社はそれにとどまらず、長期的には地域情報クラウドのビジネスでオープンガバメントにもブロックチェーンを使っていきたいという思いがあって、それが記事になったのを宮元市長に発見していただいたという流れです。
――プロジェクト立ち上げの前段階では、加賀市とどんな議論があったのでしょうか。
岩本 宮元市長が大きな課題として気にされていたのは、やはり加賀市が消滅可能性都市だということでした。温泉業や観光業は生命維持装置のようなもので、外から人材や企業が入り込んでくる仕組みをつくりたいとおっしゃっていました。最近財務省で問題になりましたが、公文書管理にブロックチェーンを使うといった話も当初は議論されていましたが、それは既存の中央集権的なシステムのほうがむしろセキュリティ上すぐれているケースも多いということで、保留になりました。それよりも、ブロックチェーンを使った新しい価値の流通により、地域コミュニティに新しい経済圏を創出することを目指そうということになったのです。
――それは、地域通貨を発行するというような話ですか。
深山 そういう話もあったのですが、われわれが現在目指していることとは違います。真っ先にやっていくことになるだろうと考えているのは、今まで経済活動として使われていなかった概念を経済化するということです。経済合理性がないけれども意味がある行動に対して価値を発行し、流動させる仕組みをつくるということです。
――難しいですね。もう少しかみ砕いて教えてください。
深山 例えば現実の世界で、お年寄りの自宅の雪かきを近所の若者が手伝ったとします。お年寄りは若者に感謝して、お礼をあげたいと思うけれども、お金を払うのはちょっと違う。だから、自分が育てた野菜をあげる。こういうことをオンラインでやれるといいなということなんです。
(ブロックチェーンによる)仮想都市基盤に登録された市民の加賀市への貢献や加賀市愛のようなものに対して、トークンを媒介として価値を発行し、さらにそれを流通できるようにするというイメージですね。これを実現するためには、価値の発行や移転が常に仮想市民のアイデンティティと紐づいていなければならないわけで、KYC認証基盤の構築に最初に取り組むのはそのためです。
また、このプロジェクトは世界最先端の電子国家であるエストニアをベンチマークにしていて、同国が進めているe-Residency(外国人がエストニアの電子国民になれる制度)もやりたいと考えています。KYC認証基盤はそのためにも必須です。
――ブロックチェーン上の仮想都市基盤に、物理的に加賀市に住んでいない人も仮想加賀市民として呼び込み、外部から加賀に人が集まるしくみをつくっていくということですね。
岩本 加賀市に外部からも興味をもってもらい、仮想市民としての活動にインセンティブを感じてもらうという意味では、ふるさと納税を発展させたようなしくみをブロックチェーン上につくっていくこともできるかもしれません。
深山 いずれにしても、市民を置き去りにしないことはすごく重要で、加賀ラボなどを拠点に地域の産業界と密に連携しながら、KYC認証基盤の構築と同時に、KYC認証基盤と連携する地元事業者のアプリ開発などを支援する体制を整えていきます。そういう世界が広がれば、ブロックチェーン上で発行・流通させる新しい価値を地方創生につなげていくアイデアも出てきやすくなるのではと期待しています。
――今回の加賀市のプロジェクトでは、電子行政の推進にブロックチェーンを生かすという方針も掲げておられますが、必ずしもブロックチェーンを使う必要がない場面もかなりあるのでは。
深山 われわれは、ブロックチェーンを使う必然性にこだわっているのではなく、将来の可能性に賭けているんです。データの真正性を担保したり、改ざんされにくいシステムをつくったりということが、既存の技術よりも低コストかつハイクオリティに実現できるかもしれない。いまブロックチェーンを使う必然性がなくても、非常に急速に進化している技術ですから、将来的には社会コストや技術コストを大きく削減できる可能性があると考えています。インターネットもそうでしたが、新しい技術が社会を変えていくプロセスでは、そういうチャレンジをする人が必要なんだと思っています。
シビラ
トークンエコノミーで 地方創生の新たなロールモデルを
ブロックチェーン技術の開発を手がけるシビラは、データベースとして使用できる独自開発の高速処理ブロックチェーン「Broof」、さらにはBroofを活用したブロックチェーンソリューションを提供している。
藤井隆嗣社長(右)とHacker&ProductManagerの佐藤基起氏
電通国際情報サービスやソフトバンク・テクノロジーがSIパートナーとして担ぎ、拡販を担っている。藤井隆嗣社長は、「大手製造業で品質管理データの改ざんなどが相次いだことを受け、最近ではその防止策として導入が検討される事例が増えている」と説明する。
同社はもともと、B2Bのブロックチェーン活用を事業ドメインとし、パブリック・ブロックチェーンの課題を解決することを目的に事業をスタートさせた。佐藤基起Hacker&ProductManagerによれば、パブリック・ブロックチェーンとプライベート・ブロックチェーンをアンカリングすることで、処理能力を高めつつ外部監査性を担保することに、市場に先駆けて成功した実績があるという。
加賀市のプロジェクトにもBroofを提供するが、シビラが目指すのは、ブロックチェーンを基盤としたトークンエコノミーによる新しい地方創生のかたちを探ることだ。藤井社長は、「大都市と地方を比べれば、経済合理性は大都市のほうがすぐれているに決まっている。しかし、経済合理性に劣るものはなくなってしまっていいのかといえばそんなことはない。経済合理性が働かなくても意義があるものや行動を価値化してトークンエコノミーに乗せていくことで、現在の中央集権的な資本主義経済の課題を解決し、持続可能な自律分散型の社会を構築できる可能性もある」と訴える。