堅調に推移する主要SIerの業績。クラウドサービスの普及が逆風になるとの声も一時はあったが、現在ではむしろ追い風となっている。ところが、良好な景況感とは裏腹に、SIerの経営トップは危機感をもってビジネスの変革を推し進めている。堅調な今が変革に取り組むチャンスというわけだ。SIerは何を目指して、どのように変わろうとしているのか――。本決算の説明会をもとに読み解いていく。(取材・文/安藤章司)
底堅いIT投資に支えられて、主要SIerの業績は堅調に推移している。経済産業省「特定サービス産業動態統計」をもとに情報サービス産業協会(JISA)がまとめた情報サービス産業の売上高推移をみると、直近ではマイナス成長となっている。ところが、同じくJISAがまとめている直近の雇用判断DI値調査では、従業員の不足感がここ数年で最高となる61.3%ポイントに達した。仕事はあるが、人材を確保しにくい状況が続いており、情報サービス業の売上高に影響していることが窺える(図参照)。
人材不足に対応するべく、主要SIerの経営施策では「労働集約型のビジネスの脱却」の一段の進展を掲げる動きが目立つ。
SIプロジェクトの核となる部分をパッケージ化したり、開発環境としてのPaaSやSaaS活用による開発工数の削減、ソフトウェア開発の自動化ツールの適用範囲を広げるなどの取り組みを加速。限られた人的リソースで効率よくプロジェクトをこなして、収益率を高める施策を打つ。同時に処遇改善や働き方改革を進めることで、人材の定着や
採用を有利に進めようとしている。
業績がよく、資金的に余裕のある今だからこそ、将来的に成長を見込める領域に経営リソースを投入。主要SIerの経営者の多くは、成長につなげる格好のチャンスと捉えて、ビジネスモデルの転換に向けてアクセルを踏み込んでいる。
TISインテックグループ
新中期経営計画で800億円規模を投資
TISインテックグループ(TIS)は今年度(2019年3月期)から新しい中期経営計画がスタートした。21年3月期までの3か年で、連結売上高4300億円、営業利益率10%を目標に掲げる。18年3月期で終わった前の中期経営計画では、目標に掲げた年商4000億円に対して実績は4056億円、営業利益率も7.5%に対して8.1%と、いずれも目標をクリアしている。新しい中期経営計画では、前中計からの成長の勢いを落とすことなく、同時に事業構造の転換を推し進めていく。
前中計での主要な数値目標のほぼすべてをクリアした同社だが、事業構造の転換ではまだ道半ば。同グループ事業持ち株会社であるTISの桑野徹社長は、「戦略ドメインの成長を軸に構造転換を推進する」として“戦略ドメイン”の売上高比率を、直近の35%から21年3月期までに50%へ拡大させる目標を掲げる。
戦略ドメインとは、業界トップクラスの顧客と事業戦略を共有する「ストラテジックパートナービジネス」や、TISの持つ業種・業務のノウハウを複数顧客に横展開する「ITオファリングサービス」などを中心とした領域だ。
前者は、例えば金融や製造業で、その業界のトップクラスの顧客と、共通の事業目標を持って課題解決に挑むアカウント型のタイプ。完全に個別対応のビジネスとなる。戦略パートナーとして顧客と共同事業を立ち上げることなども視野に入れる。後者は、TISが独自に開発したITサービスや業種パッケージソフトや特定業界向けのビジネスプラットフォームなどを複数企業に横展開していくスタイル。労働集約型のビジネスから知識集約型へと一段と転換していく。
また、新しい中期経営計画では、戦略ドメインを伸ばしていくため、3年間で800億円規模の戦略投資を想定している。うち300億円はTIS独自サービス/ソフトウェア開発投資と人材育成、研究開発(R&D)に充当し、500億円をスタートアップ企業への投資やビジネスパートナーとの資本業務提携、M&A(企業の合併と買収)などに充てることを検討する。
ここ数年来の資本業務提携を俯瞰してみると、海外での資本業務提携が目立つ。年商380億円規模のインドネシアの大手上場SIerに28%出資したり、年商100億円規模のタイの上場SIerに20%出資。持ち分法適用会社として、相互の自主独立性を保ちながら実ビジネスでの連携効果を進めている。ほかにもタイの年商3億円弱のモバイル関連のFinTechプレイヤーを連結子会社化したり、中国のQRコード決済のFinTechプレイヤーに10%程度出資して関係を強化している。
この3か年で、とりわけASEAN市場での資本業務提携を通じて、実ビジネスで相乗効果の得られる「IT企業連合体の組成」(桑野社長)を目指していく方針だ。
JBCCホールディングス
七つの重点事業で稼ぐ力を高める
大規模な構造改革を実行中のJBCCホールディングスは、昨年度(2018年3月期)の連結売上高、営業利益ともに期初計画値を上回った。昨年度の第1四半期(17年4~6月期)まで連結子会社だったディストリビューション会社のイグアスを連結から切り離した影響で、前年度比では減収減益だが、イグアスの離脱を織り込んだ期初目標ではクリアしたかたちだ。なかでも営業利益は期初目標値に対して8.5%も上振れしており、「収益力を着実に高めることができ、満足できる結果」と、JBCCホールディングスの山田隆司社長はひとまず胸をなで下ろす。
内訳をみると、売り上げ全体の約85%を占める情報ソリューション(SI)事業は前年度比で2.4%減少し、粗利は同2.5%増えている。売り上げが伸び悩むのは、JBグループの主要顧客層である中堅・中小企業のクラウド/SaaS利用が進み、オンプレミス(客先設置)でのシステム構築案件が減少していることが背景にある。こうした動きは期初から想定していた通りだが、どこまで伸び悩み現象が続くのかは予断を許さない状況である。
JBCCホールディングス
山田隆司社長
JBCCホールディングスでは、次の成長を見据えて七つの重点事業「WILD7(ワイルドセブン)」を設けて稼ぐ力の増強を進めている。昨年度のWILD7の売上高は前年度比17.2%増の116億円と大幅に伸びた。
WILD7全体でみるとほぼ順調に推移しているが、個別項目では多少の凸凹がみてとれる。具体的には七つの事業のうち目標をクリアしたのはクラウド(対目標値106%)、セキュリティ(同104%)、ヘルスケア(同108%)、3Dプリンタ(同107%)の4項目。目標値未達だったのがニューSI(同67%)、独自開発のソフトウェア(同90%)、人材育成サービス(同84%)の3項目だった。
このなかで、ニューSIの未達が目立つ。ニューSIは、アマゾンAWSや日本マイクロソフトAzureなどの主要パブリッククラウドのPaaSを活用することで効率よく業務アプリケーションを開発したり、超高速開発ツールのGeneXus(ジェネクサス)を使って安く、早くつくるなど新しい手法を取り入れたSIである。従来のスクラッチ開発に比べて、格段に高速化するとともに、アジャイル的な開発手法を取れ入れることで、顧客のビジネス変化に一段と迅速に対応。SIerとして成長していくうえで欠かせない領域だ。
SI事業の中核事業会社であるJBCCの東上征司社長は、「ニューSIに対しては、とりわけ顧客の事業部門からの引き合いが急増している。これから案件規模の大型化が進む」と手応えを感じている。ニューSIをはじめとするWILD7は、いずれも高い粗利率を見込める分野であり、ここを確実に伸ばしていくことで収益力を向上。21年3月期までの営業利益を毎年平均13%のペースで伸ばしていくことを目標に掲げる。
テラスカイ
高成長続けるCIer
年商100億円を視野に入れる
テラスカイの佐藤秀哉社長
テラスカイの佐藤秀哉社長 クラウド/SaaSをベースとしたシステム開発が増えるなか、クラウドインテグレータ(CIer)のテラスカイが急成長している。同社は営業支援で有名なセールスフォース・ドットコムのSaaS製品に関連するシステム開発に業界に先駆けて進出。創業5年目あたりから急成長をし始め、昨年度(2018年2月期)連結売上高は前年度比37.6%増の48億円。今年度は同39.3%増の67億円を見込むとともに、向こう数年で年商100億円超えを視野に入れる勢いである。
昨年度の売上高構成比のうち74%がセールスフォース関連、24%がAWS関連が占めた。AWS関連の割合は増える傾向にあるが、これも「既存のセールスフォースの顧客からAWSも使いたいとの要望が来る」(テラスカイの佐藤秀哉社長)ことから派生しているケースが多いという。
佐藤社長が直近で注目している商材の一つとして、クラウド型コンタクトセンターシステムの「Amazon Connect(アマゾンコネクト)」を挙げる。アジア太平洋地域では、今のところオーストラリア・リージョンのデータセンターからのみの提供であるため、データ保護の観点から本格的な国内での利用はまだ始まっていない。
同社では、他社に先駆けて、まずはAmazon Connectの実証実験(PoC)を始められるサービスパッケージ「ぴたっとコネクト for AWS」を5月末にスタート。1か月で環境構築から動作確認までのPoCを行うことができる。「東京リージョンでのサービスが始まれば、価格優位性から既存のコンタクトセンターのシステムが入れ替わるほどのインパクトがある」(佐藤社長)と予測している。
もう一つは、「ポストモダンERP」。ライフサイクルの長いERP(統合基幹業務システム)のコア機能と、変化の激しいCRM(顧客管理)や営業支援系などの周辺アプリケーションを、それぞれ組み合わせてERPを構築する考え方。これまではSAPやオラクルといった「一社でERPを固めてしまう密結合型だったのに対して、これからは最適なものを選択して組み合わせる疎結合型のERP」(佐藤社長)に移行するとみる。
ポストモダンERPではグループ会社のBeeX(ビーエックス)が主に担当しており、16年の創業から大手企業を中心に25社あまりの構築実績を積み上げて、今年1月には大手SIerのTISと資本業務提携を実施。意欲的にテラスカイグループとしてERP領域への進出を進めている。
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