中国で教育ロボット企業が続々と誕生
深センから日本、そして世界へ
中国広東省深セン市は、ハードウェアのスタートアップ企業が集積していることで知られる。現地では、プログラミング教育に活用できるロボットを手掛ける企業が続々と誕生。各社は盛り上がりが予想される日本市場を重要視し、さらに先の世界市場も見据えている。
Makeblock
日本市場で確固たる地位を獲得
辛偉
ジア太平洋地域マネージャー
Makeblockは、2011年にブランドを立ち上げ、13年に会社を設立した。プログラミングを含め、科学、技術、工学、数学の頭文字を取ったSTEM教育向けの製品を提供している企業だ。
同社の製品は、500以上の部品やセンサーを組み合わせて、自由にロボットをつくることができるのが特徴。スクラッチのプログラミングが可能で、部品やセンサーをセットにしたキットも販売している。
世界140カ国以上でビジネスを展開し、売り上げは海外事業が多くを占める。全世界の2万以上の学校などが製品が活用し、特にフランスと香港では、全小学校の約半数が同社の製品を教材として利用しているという。日本では17年に子会社を設立。ソフトバンク コマース&サービスと代理店契約を結び、大手家電量販店などを経由して製品を販売している。
辛偉・アジア太平洋地域マネージャーは、数字は公表しなかったものの、17年の日本事業は「目標を達成した」と説明。さらに20年に小学校でのプログラミング教育が必修化される日本の市場について「すごいチャンスだ」とし、「日本の事業は19、20年に飛躍的に大きくなるだろう」との見通しを示した。
世界各国で利用されているMakeblockの製品
日本の事業を伸ばしていくために、同社は製品を取り扱う会社を増やすことを計画したり、学校や学習塾との連携を模索したりしている。辛マネージャーは「日本の事業は、売り上げを伸ばすことと同時に、ブランド価値を高めることも重視している。目標は、日本でエコシステムを構築し、教育用ロボットの領域で確固たる地位を獲得することだ」と意気込む。
同社の社員数は約500人で、うち半数が開発者。市場規模が大きくなることが予想される日本では、他社の参入も相次ぐとみられるが、辛マネージャーは「大勢の開発者がいるため、時代に合わせて製品を生み出すことができる。STEM教育向けの製品を手掛ける企業はほかにもあるが、他社との競争は怖くない」と自信を示す。
DOBOT
日常生活から新しいアイデアを
劉培超 CEO
「生活のなかから、新しいアイデアを得てほしい」。こう話すのは、DOBOTの劉培超CEOだ。同社は2015年に設立し、産業向けロボットアームの事業からスタートした。
その後、テーブルに乗るサイズのロボットアームを開発した。小型の製品をつくった理由については「ロボットアームは、日常生活のさまざまなところで活用することができる」(劉CEO)と考えたからだ。
STEM教育向け製品では、ものをつかむだけでなく、アームの先端に3Dプリンターやペンをつけて立体造形や図柄を描くことができる。ブロックを並べるだけでプログラミングが可能な専用ソフト「Dobot Blockly」を搭載。さらに、Windows用の専用ソフト「Dobot Studio」を使い、直接ロボットを動かして、動作を学習させることもできる。
劉CEOは「一般的な教育用ロボットは、プログラミングで動きを止めたり、スピードを変えたりすることしかできない。しかし、ロボットアームならば、日常生活に必要なたくさんの新しいアイデアを形にできる」と説明する。
同社は、17年に日本に進出し、すでに製品の販売を始めている。プログラミング教育の小学校での必修化を控える日本の市場について、劉CEOは「日本は教育を重視している。プログラミング教育の必修化で、多くの人がロボットアームの魅力に興味を持ってくれることを非常に期待している」と話す。
ロボットアームでさまざまな動きができるDOBOTの製品
同社の売り上げは、米国が最も多く、日本は現在6番目。劉CEOは「日本は製品の品質に対する要求が非常に高いため、日本で事業を展開することで、われわれの製品レベルを高めることができる」とし、「日本で成功し、将来はアジアで1位になることを目指したい」と青写真を描く。
Robobloq
日本向けの開発に注力する
王斌 CEO
Robobloqは、2017年に設立した。前述の2社と比較すると設立時期は遅いが、平均年齢26歳の若い力が武器。ロボットの素材感を大切にしているのが製品の特徴で、今後、日本向けの開発に注力する方針だ。
緑色に塗られたかわいらしいロボットが、棚にずらりと並ぶ。触ってみると、ひんやりと冷たい。「実際に触ってみると、ロボットらしさが感じられるでしょう」と、王斌CEOが説明してくれた。
同社の製品は、ロボットの部品に金属を採用している。王CEOは、積極的に海外に足を運び、各地で製品を分析した結果、「市場ではプラスチックの製品が多いが、出来栄えがあまりよくなく、ロボットっぽさが出ないと判断した」と説明する。
会社設立から約1年だが、すでに米国や欧州で製品の販売を始めた。各国でSTEM教育が取り入れられるなか、同社が熱い視線を送るのが日本市場だ。
金属パーツが特徴のRobobloqの製品
王CEOは「日本の市場は、世界のなかでも非常に大きく、今後のわれわれのビジネスでとても重要になる」と話す。
王CEOは、日本への進出に鼻息を荒くするが、「日本の市場は、ほかの国と比べて特殊で、中国の企業が進出するのは簡単ではない」と分析する。現在、日本向けの開発を強化するため、日本企業との関係構築を計画し、小売りについても戦略を練っている。
王CEOは「今年中に必ず日本に進出し、われわれの製品を日本で見られるようにしたい」とし、「将来は会社の売り上げのなかで、日本がトップになるだろう」と期待する。
中国の若者の力
「急速に興隆する新たな原動力は、今まさに経済成長の形態を再創造して生産方式やライフスタイルを大きく変え、中国の革新発展の新たな象徴となってきている」。今年3月の全国人民代表大会(全人代)。中国の李克強首相は、政府活動報告で過去5年の情勢をこう振り返った。
中国で発達するITなどとともに、李首相は、国内の起業の状況について説明。1日当たりの企業設立数は1万6000社強で、5年前の5000社強から3倍以上に伸びたとした。
中国政府はこれまで、「大衆の起業、万人の革新」を意味する「大衆創業、万衆創新」をスローガンに掲げ、国民に創業を促してきた。その結果、中国国内では起業ブームが起こり、国の発展を後押しするようになった。
特に象徴的な都市は、広東省深セン市だ。中国全土から若者が集まり、次々と革新的な企業が登場している。今回取材した3社は、いずれも30代の男性がトップを務めている若い企業だ。
各社は、会社設立から数年で、中国国外に積極的に進出。さらに日本市場での成功も目指している。栄枯盛衰を繰り返すIT業界で、中国の若者が新たな流れを生み出すかもしれない。