導入を検討するも、PoC(概念実証)の段階で止まってしまうのは、IoTでよくあるケース。投資に対する効果が見込めないのが大きな要因だ。便利でも、人手に任せた方が安く済むとなれば、IoTへの投資は決断できない。とはいえ、IoTが普及するにつれてネットワークやセンサーの価格が下がるとともに、人材不足という社会課題もあることから、IoTにおける費用対効果のハードルは確実に下がっていく。そうした中で、手軽にIoTシステムが構築できるパッケージシステムが出始めている。安くて簡単なIoTは、どれだけの可能性を秘めているのか。(取材・文/銭 君毅)
何がIoTの導入を阻むのか
IoTの導入が進んでいる製造業では、ラインの監視や設備の故障検知などにIoTを活用し、省力化・最適化を実現している。製造業にはM2M(Machine to Machine)の概念があり、その延長線上にIoTがあることから、比較的取り組みやすい環境にあると考えられる。
とはいえ、製造業といえどもIoTの導入には費用対効果を求める。効果がないと判断すれば、導入に至ることはない。
製造業以外の業界においては、M2Mのような経験がないため、さらにそのハードルが上がることになる。特に課題となるのが、IoTの「専門性」だ。
センサーデバイス一つをとっても、ユーザー企業には何が最適化の判断が難しい。SIerも多くはセンサーデバイスを扱ってきていないことから、提案したIoT案件がユーザーの予算に合わないと、そこで立ち止まってしまいがちになる。SIerがセンサーデバイスを一から作るのも、難易度が高い。
IoTソリューションを提供するピクスーの塩澤元氣代表取締役は、「例えば、サービス業だと社内にITのエンジニアがいないことがある。システム部があったとしても、ベンダーに任せるのが一般的。そのベンダーがIoTに慣れていない場合は、そこで止まってしまう」と指摘する。
導入して終わりではない
導入後にも課題はある。アステリアの垂見智真・エンタープライズ本部Gravio事業部長兼エンタープライズ本部マーケティング部部長は、「IoTを使おうと思ったとき、会社のIT担当者はセンサーの管理方法やソフトウェアの使い方を理解しなくてはいけない。ところが、IoTで取得するデータは、取り扱いが難しい。正しく使うには、IoTの特性を理解する必要がある」という。
IoTは導入して終わりではない。管理・運用し、維持していかなくてはならない。導入前、導入時、導入後のあらゆるレイヤーにおいて、IoTに関連するスキルや知識が求められる。そのため、「専門家頼みのIoTというのが、市場の中心になっている」と垂見事業部長は語る。IoTは、これまでITと縁遠かった層もターゲットとなる。ITに不慣れなユーザーにIoTを提案するなら、できるだけ専門性を排除しなければならない。
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