EDI(電子データ交換)移行ビジネスが本格化している。NTTの固定電話が「IP網」へ移行することに伴い、従来型の電話回線を使っているEDIは、インターネットEDIへと移行。EDI事業を手掛けるベンダーはここぞとばかりに、自社商材に磨きをかけ、シェア拡大に力を入れる。しかし、EDI移行対象の事業所は十万単位の規模とみられており、中には業務システムの手直しが必要なケースもでてくる。EDIの大口ユーザーである流通・小売業では、軽減税率やインボイス制度の対応時期と重なることから、人手が不足する中で前倒しのスケジュールになる見込み。EDI移行は時間との勝負の中で進んでいくことになる。(取材・文/安藤章司)
そもそも「EDI」って何?
「EDI移行問題」が生じている背景とは
いわゆるEDIと呼ばれるものは、繁雑になりがちな企業間の“受発注業務”に焦点を当てて、この業務を自動化する目的で開発されたデータ通信手法である。インターネットが普及する90年代の中盤前は、電話回線や専用線などを使ってデータ通信を行っていた。
受発注システムで入力したデータをファイルにまとめて、決められた時間がきたら取引先にファイルを転送する。ファイルの形式は取引先や業界ごとに決められており、受発注システムからファイルを出力するときに、決められたファイル形式への自動変換も行っている。ユーザーは受発注システムを操作するだけで、複数の取引先と自動で受発注の内容が記されたファイルをやりとりできるのが、EDIの基本的な仕組みだ。
自社や相手先の業務システムが更改されても、EDIの部分に変更を加えなければ、システム更改の影響を受けないメリットもある。問題は、この高度に自動化・無人化されたEDIの仕組みが、「インターネットが普及する以前」にすでに存在しており、インターネットへの対応が十分にできていないこと。
いまでこそ有線・無線を問わず常時接続が当たり前になっているデータ通信だが、つい四半世紀前までは常時接続環境は非常に高価だったため、中堅・中小企業の多くは「ダイアルアップ接続」と呼ばれる、都度、接続先に電話をかけてデータをやりとりしていた。このダイアルアップ接続が今でもEDIの現場で残っているにもかかわらず、ダイアルアップ接続の前提となる従来型の電話回線を24年1月にIP網へと移行するとNTT東西地域会社が発表。実質的にデータ通信ができなくなる可能性が出てきた。
中でもISDNと呼ばれるデジタル回線サービスは完全に終了するため、アナログ回線と並んで問題視されている。最も簡単な解決策は、今ではどの企業でも導入しているインターネット回線にEDIを移行することだが、EDIの特性上、取引先と歩調を合わせて切り替えなければならない。仮に取引先が100社あれば、100社と接続確認をしながらEDIを移行しなければならず、手間と時間がかかる。残された時間は正味3年とされており、仕舞いが決まっている中で「EDI移行問題」を迅速に解決しなければならない。
激動するEDI市場でシェア変動も
NTTのIP網移行に伴い、比較的古いEDIをインターネットに対応した新しいEDIに刷新する需要が生まれる。EDI関連ビジネスを手掛けるソフト開発ベンダーやSIerにとっては大きなビジネスチャンス。EDI事業を展開するキヤノンITソリューションズでは、EDI刷新がピークを迎える「2021~23年の数年間は年率7~8%の高い市場成長率が見込める」(花澤健二・プロダクトソリューション営業本部企画課課長)と話す。
EDIはメインフレーム時代から綿々と続くデータ通信の方式であり、VAN(付加価値通信網)サービスと並んで、長年の安定市場だった。年率7~8%の伸びが見込める状態は、EDIのビジネスとしては非常にまれ。ベンダー別の市場シェアやSIerの顧客層の入れ替わりも少なかっただけに、今回のEDI刷新を契機としたシェアや顧客層の変動が起こる可能性が指摘されている。
半数がアナログやISDN回線を使う
EDIで受発注業務を行う事業所は国内20万~30万といわれており、少なくともその半分余りがISDNやアナログモデムで通信をしているとみられている。EDIは売り上げや利益に直結しないバックエンド業務。顧客接点を担う営業支援やオムニチャネルなどの花形に比べれば“地味な領域”。加えてユーザー層も中小の食品や日用品メーカーが多くを占めており、更新されることなくISDNやモデムが残ってしまっているのが実態だ。
ISDNやアナログモデムが実質的に使えなくなることを意味する電話回線のIP網への移行は15年頃から議論に挙がっていた。その後、IP網移行を進めるNTT東西地域会社からの報道発表はあったが、EDIユーザーに直接的に移行を促すような周知活動が始まったのは昨年末から今年度末(19年3月期)にかけてのことだ。
情報サービス産業協会(JISA)EDIタスクフォース(藤野裕司座長=データ・アプリケーション)をはじめとする業界団体が、電話回線の利用者を把握しているNTT東西に働きかけ、NTT東西も事態の重要性を認知。ようやく周知用のパンフレット(画像参照)も2月からユーザーに宛てて配布を始めた。NTT東西からの周知活動の効果はてきめんで、ユーザー企業からSIerへの問い合わせは急増。「今年に入ってからEDI関連の問い合わせが、かつてないほど増えた」(JBCCの布川加奈子・ビジネス・ソリューション推進部部長)と、にわかにEDI移行商談が活性化し始めている。
NTT東日本が周知活動用に配布を始めた小冊子
工数かさみ人手不足が懸念材料に
ISDNやアナログモデムを使っているEDIを、すでに普及しているインターネットに対応したEDIに切り替えることで「EDI移行問題」は基本的には解決できる。
課題があるとすれば、業界ごとにEDIの通信手順(プロトコル)が決められているため、一部業界ではインターネットEDIの手順が固まっていないということ。流通・小売業をはじめとするEDIユーザーのボリュームゾーンの手順はほぼ決まっているが、流通・小売業は軽減税率やインボイス制度の対応という別の課題も抱える。
もう一つ、期限が24年1月までと限られているため、インターネットEDIへの移行が後半になるほど、ITベンダー側のEDI技術者の確保が困難になることが懸念されている。インターネットEDIに切り替える際、データ変換などで販売管理や受発注システムの手直しが発生するケースでは、なおさら工数が増えて人手不足に拍車をかける恐れが出てくる。できる限り前倒しで対応するこが、ユーザー/ベンダー双方にとって望ましいことから、主要SIerはこぞってEDI移行の前倒しに力を入れている。
[次のページ]JBCC 秋には移行の取り組みが本格化と予測