日系企業の導入状況は?
市場では国内勢と海外勢の競争も
RPAを導入しても、思ったような効果が出ず、失敗に終わるケースもある。中国に進出する日系企業の中で、RPAはどのように活用されているのか。一方、中国市場で、海外勢に対して中国勢はどのように動いているのか。RPAを軸とした中国国内の動きを紹介する。
下準備と体制が重要
島津企業管理(中国)は、香港事務所でUiPathのRPAソリューションを導入した。中国ビジネスの規模が大きくなる中、香港事務所で増員を検討していると相談があったことがきっかけだった。導入を担当した島津企業管理(中国)の金谷剛情報システム部部長は「ビジネス規模の拡大に伴い間接業務が増大しているが、間接人員もそれに合わせて増やすのではなく、ITで増員を抑制できないかと考えた」と導入の理由を説明する。
島津企業管理(中国)
金谷 剛
部長
金谷部長は「かつて、担当者の異動や退職によって、属人化したExcelマクロやAccess VBAの保守ができなくなるといった苦い経験をした」と言い、「ユーザー部門に無秩序に公開すると、知らないうちにいろいろなものが出来上がって、問い合わせがあっても誰も分からないという状況になりかねない。また、業務を整理しないでロボットをつくると、属人化したロボットになってしまい、業務改革の足かせになる。RPAで当時と同じような経験をしないように、事前にしっかりと準備を進めた」と説明する。
開発に際しては、KDDI上海からスキルトランスファーを行ってもらい、内製化に着手。まずは標準ドキュメントの作成、部品化に取り組んだ。金谷部長は「標準ドキュメントを作成しておくことで、メンテナンス性を向上することができる。そして部品化しておけば、別のITツールの仕様が変更されても部品さえ直せばいい。ログ出力やエラー処理も部品化して実装を義務付けておけば、RPAの暴走を防ぐこともできる」とメリットを強調する。
RPAを適用する業務は、社内でヒアリングした結果、基幹システムから受注情報を入金管理用のExcelに転記する業務と、リーダーが担当する業務報告書の作成業務にRPAが適していると判断。担当者ごとにバラバラだったExcelのフォーマットを統一するなどした上で、約4カ月後にRPAソリューションを展開した。
Excelへの転記作業は月8回程度で、5人が毎回30分かけて処理していたが、RPAによって毎回の作業時間を1人当たり5分に短縮。1カ月で計約16時間を削減した。一方、月10回の業務報告書作成業務では、毎回1~2時間の業務時間が1分になり、1カ月で15時間前後を削減。結果的に人員を増やす必要はなくなった。
香港事務所の取り組みは、社内で評価され、別部門にも導入が広がった。金谷部長は「目の前で困っていることを解決するためにロボットをつくったが、効果が目に見える形で出せたので、これからはどんどんほかの部門にも展開していく」と意気込む。香港事務所では将来的に、導入したRPAの適用範囲を、出荷予定から工場での生産計画に連携させる部分まで広げることを計画しているという。
今回のケースでは、RPAソリューションの開発や適用業務の選定などの下準備をしっかりしたことで導入に成功した。ただ、金谷部長は、下準備以外にも導入する際の体制が重要だと強調し、「開発期間中はKDDI上海に定期的に訪問してもらい、サポートしてもらった。こういったサポート体制や、運用後の保守体制は絶対に必要。これがないと、問題があったときに対応できなくなり、RPAの開発そのものが行き詰まってしまう」と話す。
海外勢には負けていない
中国市場では、地場のRPAベンダーも市場の開拓を進めている。その中で、上海市に本社を置く芸賽旗(i-SEARCH)は、RPA専業ベンダーの代表格だ。現在、国有企業の通信事業者などを顧客とし、研究開発も積極的に進めている。胡立軍バイスプレジデントは「中国市場のことはわれわれが最もよく知っている。海外企業よりも優位性は高い」と自信を見せる。
芸賽旗(i-SEARCH)
胡 立軍
バイスプレジデント
i-SEARCHは、2011年に設立した。上海市の本社のほか、北京市と深圳市にも拠点を置き、中国国内31カ所に営業所を設置している。また、南京市では、中国トップレベルの南京大学とともに、RPAとAIの組み合わせなどについて研究開発を進めている。
胡バイスプレジデントは、自社の強みについて「われわれは、RPAに使える人間の行為分析について高い技術があり、特許も持っている。180人の社員のうち約70%が技術者で、技術の面では海外企業には負けていない」と語る。
RPAの領域に本格的に参入したのは15年で、これまでに金融や通信事業者、政府、製造業、教育など、幅広い業種の企業に製品を提供してきた。胡バイスプレジデントは「コストを下げて効率化を目指す企業が増えている。中国国内でRPAに対するニーズは年々高まっており、導入社数は右肩上がりだ」と話す。
i-SEARCHが主戦場とする中国のRPA市場は、「まだ立ち上がったばかり」(複数の業界関係者)といわれており、海外勢も積極的に参入している。競争は激化しているとみられるが、胡バイスプレジデントは「中国の企業は、中国のローカル企業の製品に大きな期待を寄せている」と説明し、中国企業からの引き合いの多さをアピールする。
胡バイスプレジデントは「どの分野でも、中国の市場はとても大きい。RPAは急激な成長が予想されるが、われわれの取り組みは、まだ完璧とはいえない。まずは中国市場の主導権獲得を目指し、その後、日本を含めた海外市場への進出について検討する」としている。
中国では、政府が民間企業を積極的に支援しており、i-SEARCHはAIの関連領域として支援を受けている。政府からの豊富な資金に加え、中国が国を挙げて発展を目指しているAIの技術力を武器に、i-SEARCHが今後、画期的な技術を生み出し、中国市場で大きな存在感を示すようになるかもしれない。
「日本の状況に似ている」
19年は中華圏で大きな成長を狙う
中国市場の状況について、UiPathの中国、香港、台湾の中華圏事業を統括する呉威ゼネラルマネジャーは「2017年の日本の状況に似ている」と話す。中華圏の中心となる中国の市場は、日本の市場に比べて規模が大きく、19年は導入件数の大幅な伸びが期待できるという。呉ゼネラルマネジャーに今後の戦略を聞いた。
UiPath
呉威
ゼネラルマネジャー
――中国でのビジネスの状況は。
呉 われわれは、18年11月に上海にオフィスを設置し、当初は2人だけで市場を開拓していた。中国でRPAに対する需要は非常に旺盛で、毎週のように導入の相談が舞い込んでくる。中国の市場は、広い国土の各地に大都市が点在しているため、中国を担当する人員を40人に増やした。現在の導入社数は200~300社になっているが、導入を希望する企業はまだ多い。これはRPAの導入が大きく伸びた17年の日本の状況に似ている。
――中国でRPAへの需要が増している要因について、どのように考えているか。
呉 やはりコスト削減が大きな要因になっている。中国では人件費が高騰しており、多くの企業が頭を悩ませている。この問題を解決する手段として、RPAが注目されている。もう一つは人材を定着させるためだ。中国では、単純で無駄な仕事をやらせていては、社員にすぐ辞められてしまう。社員に長く勤めてもらうために、企業はRPAを導入し、より価値のある仕事に社員を当たらせようとしている。
――中国の市場で、UiPathはどのように評価されているか。
呉 UiPathが国際的なブランドであることが評価されている。そして、製品のオープン性の高さや学習の難易度の低さ、業界に関係なく導入できる点も市場で受け入れられる要素になっている。われわれは顧客を尊敬し、失敗を恐れず、スピード感をもってビジネスを展開する文化がある。中国では新興企業のライバルがたくさんあるが、われわれの文化は、彼らにはない優位性になっている。
――中華圏でさらに成長するために、どのような戦略を検討しているか。
吳 中華圏で成功するためには、ローカル化が大事だ。まだ中国語でのサポートはしていないが、19年6月をめどに対応する予定だ。顧客からは、単にRPAでデータを移動するだけでなく、人工知能(AI)の活用に関する要求が多い。実用化はまだ先になるだろうが、AIの重要性は認識しているので、しっかりと方向性を定めて対応していく方針だ。
――今後の目標は。
呉 中国は政府主導で経済が動いている。現在、中国政府は企業のデジタル化を進めており、これはわれわれの目指すRPAによる自動化の方向性と一致している。19年の全国人民代表大会では、外商投資法が成立した。外資企業が法律で守られることになり、われわれにとっては、今まで以上に中国で仕事がしやすくなる見通しだ。中国市場の体制やローカル化への対応に加え、ビジネス環境がよくなることで、チャンスは一段と増えるだろう。19年は、導入社数で前年比5~6倍にすることを目指したい。