企業は、いまや資産と同じように価値のあるデータをどのように脅威から守り、そして活用していくか、本格的に検討を始めている。それを受けてバックアップベンダーはデータを守るソリューションの延長線上にデータを活用する機能を追加するため、開発、実装に注力している。またここ数年、新興のバックアップベンダーも台頭している。バックアップ市場はどこに向かおうとしているのか、そして今、注目すべきベンダーはどこか。(取材・文/山下彰子)
アプライアンス製品が好調
バックアップは、オンプレミス、クラウドともに伸びているという。
バックアップ製品の取り扱いが豊富なディストリビューターであるネットワールドの佐々木久泰・マーケティング本部インフラマーケティング部長は「オンプレミスに保存したバックアップデータを災害対策としてクラウドにコピーを取る案件が増えている。一方で、オンプレミスバックアップはそれ以上の勢いで伸びている」と強調する。その要因は、各バックアップベンダーがアプライアンス製品をリリースし、製品ラインアップを拡充していることだ。
(左から)ネットワールドの佐々木久泰部長、宮本隆史課長
いまや企業がもつデータの容量は日増しに増加している。アプライアンス製品は増設が容易だ。さらに、ソフトウェア、ハードウェアの保守を一本化することができる。顧客にとってはトラブル時の「たらい回し」を回避できる。バックアップベンダー側のメリットもある。ライセンス料に加え、ハードウェア、さらに保守の料金を上乗せすることができ、1案件の売り上げを伸ばすことにもつながる。こうした販売戦略の効果もあり、ネットワールド調べによると、ほとんどのバックアップベンダーが「2ケタ伸長」しているという。
各社データマネジメントの道へ
バックアップ市場のトレンドは「統合」だ。IDC Japanの鈴木康介・エンタープライズインフラストラクチャリサーチマネージャーは「企業内では、オンプレミスから(マルチ)クラウドへ、コアからエッジコンピューターへデータが分散する傾向にある」と話す。これらのデータを監視・管理するにはデータの統合が必要。そこで注目されているのがバックアップデータだ。
なぜ、バックアップデータが注目されているのか。プライマリシステムは複数のメーカーの製品が混在しており、これらを横串で管理するのが難しい。ここで目を付けたのがプライマリシステムのデータを複製したバックアップデータだ。バックアップソリューションでは複数のプライマリシステムからデータをかき集める機能があり、毎日データを吸い上げている。基幹システムなどのデータを直接使う代わりにバックアップデータを使おう、というわけだ。
IDC Japan
鈴木康介
リサーチマネージャー
とはいえ、実際のところ、サイロ化したシステムごとにバックアップを構築している企業が多いのも事実だ。バックアップデータがサイロ化している場合はまずはバックアップの統合が必要になる。このバックアップの統合が最近、加速しているという。
ネットワールドの宮本隆史・ストラテジックプロダクツ営業部SP2課長は「VMwareが登場し、仮想化が進んだ時もバックアップの統合が進んだ。クラウド化が加速している今もバックアップの統合が進んでいる。つまり従来のITシステムと新しいITシステムが混在するハイブリッドな時代に統合バックアップが促進されているようだ」と話す。
多くのバックアップベンダーは、バックアップの統合機能を実装し始めている。統合が進めば次のフェーズはデータの活用だ。バックアップベンダーからデータマネジメントカンパニーへ舵を切ったベンダーもある。各ベンダーがどの方向に進もうとしているのかを次のページから紹介する。
主要5社の成長戦略
ヴィーム・ソフトウェア
最も勢いのあるベンダー
近年、急成長しているバックアップベンダーがヴィーム・ソフトウェアだ。ヴィームは、設立当時から仮想環境のワークロードの保護に焦点を当てており、2016年4月に日本法人を設立してから国内の仮想環境のバックアップ案件でシェアを伸ばしている。
ヴィームはソフトウェア専業のベンダーだ。アプライアンス製品は販売していないが、ソフトウェアの提供だけで18年度(18年12月期)の売上高は前年度比2倍以上に伸ばした。
(左から)吉田慎次本部長、松波孝治マネージャー
18年度の成長要因は、販売パートナーを強化したことにある。ネットワールド、東京エレクトロン デバイスに加えて、今年初頭にSB C&Sと提携。これにより提案力、販売力を強化した。
ヴィームは、これからどの方向に進んでいくのか。以前から同社は五つのステップを踏んでいくロードマップを提示している。それが、バックアップ、可搬性、可視化、オーケストレーション、オートメーションだ。現時点ではバックアップデータの活用まで手を広げる計画はないようだ。5月に来日したアジアパシフィック&日本地域担当のショーン・マクレーガン・シニアバイスプレジデントも「バックアップベンダーであるヴィームは、しっかりとデータを守り、その先のデータ活用がしやすいようにデータを統合することが使命」と語っている。
五つのステップのうち可搬性はオンプレミス、仮想化、クラウド間のワークロードの行き来をスムーズにすることだ。
吉田慎次・システムズエンジニアリング本部長は、「普段はコスト面からワークロードをオンプレミスに置くが、一時的に負荷が増える繁忙期だけクラウドに移す、といった使い方ができるようになる」と説明する。また、これまではオンプレミスからクラウドへ移行する際にはライセンス契約の見直しが必要だったが、業界で初めてインスタンスベースの課金体制「Veeam Instance Licensing」を整えた。これにより、ワークロードがプラットフォーム間を移動する際、ライセンスも自動的に追従する。可視化では、可視化ツール「Veeam ONE」を用意した。この次のフェーズはオーケストレーション、オートメーションのフェーズだ。
松波孝治・シニア・マーケティング・マネージャーは「例えば、将来は災害が起こる前に、バックアップデータをクラウドへ逃がすようなディザスタリカバリーを自動で行えるようにしたい。また世代管理では、何世代前まで残しておくか、AIが判断するようになるだろう」と語る。
現在はオーケストレーション、オートメーションの分野の開発を積極的に行っている。投資金額や売上高研究開発費率は非公開だが、直近のリリースを見る限り、1億5000万ドルをプラハの研究開発本部に投資したり、ベンチャーキャピタルInsight Venture Partnersがヴィームに対して投資した5億ドルのほとんどを研究開発に充てていることから、研究・開発に関する投資に意欲的であることが分かる。
コンボルトシステムズ ジャパン
AI・ディープラーニングを運用に活用
1996年の創業から、企業買収をせず100%自社開発で成長してきたのがコンボルトだ。現在、グローバル全体の顧客数は2万6000社に上る。
コンボルトの強みは開発力。約650人の開発エンジニアを抱え、新機能を開発し、仮想化やクラウドなど新しいテクノロジーにいち早く対応してきた。こうした技術的な強みがあるものの、国内市場での認知度はやや低いという課題があったが、マイクロソフトとアライアンスパートナーを結ぶことで好転した。
小庭 淳
カントリー マネージャー
小庭淳・カントリー マネージャーは、「日本マイクロソフトと一緒に、オンプレミスからAzureへの移行の提案をしている」と話す。その際、移行ツールとして同社のバックアップ製品を提供する。クラウド移行を検討する企業が多く、これを商談のきっかけにすることで案件数が増えているという。またAzure以外にもAWS、Oracle Cloudとのセット提案を行っている。移行後はバックアップとして引き続き活用されるケースが増え、18年度(19年3月期)の売上高は前年度比150%以上に達した。今年も移行案件が多く、18年度以上の伸びが期待できそうだとしている。
バックアップデータ活用については、同社は創業当初からセカンダリデータの活用は視野に入っていたという。ただスタンスはヴィームと同様、データ活用ができるように、可視化、自動化、統合するというもの。
現在最も注力している開発が、データの自律化だ。企業の日々の運用の特性をマシンラーニングで学習させ、自動運用を行うというもの。これにより、管理者の負荷を軽減することができる。
このほか、製品の開発にも積極的で、年4回製品のアップデートを行い、都度、新機能を追加している。1年間で追加する機能数は100を超えるという。
18年度の投資額は9200万ドル。売り上げは7億1100万ドルだったので、売上高研究開発費率は13%と高い。技術的な強みを今後もさらに強化していく方針だ。
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