システムのクラウド化が進む今、クラウドシステムの開発を担う“クラウドインテグレーター”の需要は増すばかり。首都圏は専業の大手企業がひしめく一方、地方拠点でビジネスを展開する企業もある。今回は、関西を主拠点とするクラウドインテグレーターを特集する。(取材・文/前田幸慧)
アールスリーインスティテュート
現場が自分でシステムを作れる世界を目指す
関西を本拠とするクラウドインテグレーターとして代表的な企業の一つがアールスリーインスティテュートだ。同社ではサイボウズの業務アプリケーション開発プラットフォーム「kintone」とアマゾン ウェブ サービスのクラウド「AWS」を活用したシステム開発を手掛けている。
大手SIerの出身者が中心となり、2000年に設立。スクラッチ開発を主としたSIビジネスを手掛けてきた創業当初から「下請けはしない」という姿勢でビジネスを展開。「顧客の業務を理解する速度と深さは他社と比べて強いと思う。ちゃんと業務を理解した上で、それに対して必要なものを作っていく。そこにkintoneとAWSが加わることで、さらにそれを早く提供できる」と金春利幸・Chief Innovation Officerは説明する。
アールスリーインスティテュート
金春利幸
Chief Innovation Officer
kintone Evangelist
AWSを使い始めたのは10年ごろ。まず自社内で使い始めたところ便利だったため、顧客にも提案しようと考え、12年に認定パートナーに。しかし、「当時のAWSはインフラレイヤーが中心で、開発会社ではあまりうまく使えず、AWSのビジネスがうまく回せていなかった」(金春氏)。そうした中で14年ごろにkintoneに出会う。「AWSと組み合わせると良いシステムが素早く作れるのではと思い、サイボウズのパートナーになった」という。現在ではkintoneを活用し、顧客と議論しながら素早くシステムを構築する「ハイスピードSI」が同社の代名詞となり、金春氏はkintoneのエバンジェリストとしても広く知られる存在となっている。
kintoneのカスタマイズを
ノーコードで実現するサービス
現在力を入れているのが、エンドユーザー自身でのシステム開発を支援するSaaSプロダクトの提供だ。「創業当初から、将来的にはそれほどプログラムを書かなくてもシステムを作れる時代がやってくると想像していた。AWSやkintoneが出てきて、やはりそういう世界が到来したという確信がある」と金春氏は言い、プログラムを書かずにシステムを作ることができるプロダクトの提供を推し進めようとしている。
それが「gusuku Customine(グスク カスタマイン)」で、ノーコードでkintoneのカスタマイズができるサービスだ。通常、kintoneアプリをカスタマイズする際はJavaScriptを使ったプログラミングが必要になるが、CustomineではGUI操作だけでカスタマイズができるようになるという。18年9月に提供を開始し、現在までに数十社が導入、フリープランでは約500社が利用しているという。
「究極の理想としては、ベンダーに頼まなくても、一番業務を分かっている現場の人がシステムを作れたら一番いい。kintoneとCustomineでそこをお手伝いしたい」(金春氏)。
裏を返せば、自社のSI案件が減ることにもつながるが、「Customineがどんどん売れていけば、SIのビジネスが減ってもいいと思っている。SIを維持してCustomineも伸ばすということではない」と断言する。「(売り上げが減る以上に)Customineが伸びないといけないし、そうなるとCustomineとは異なる別のサービスを作る余力も出てくる」として、SIが減ることで生まれた時間を活用して新しいサービスを作りたい考えだ。
鈴木商店
顧客志向で新サービス開発をサポート
鈴木商店も大阪本社でよく知られたクラウドインテグレーターだ。AWSや「Salesforce」「Google Cloud」、コミュニケーションサービスの「twilio」などを使ったシステム開発を行っている。
もともとは1964年創業の印刷材料の卸会社を鈴木史郎・代表取締役の両親が経営し、鈴木氏自身も手伝っていた。しかし、差別化が難しく事業の限界を感じたことから、フューチャーアーキテクトでエンジニアとして約5年間勤務した後に事業を引き継いだ鈴木代表取締役が04年にシステム事業部を立ち上げた。印刷業の傍ら、中小・零細企業の「簡単な困りごと」をシステムで解決してきた。11年に印刷業は廃業し、現在はクラウドシステム開発だけで事業を展開している。
鈴木商店
鈴木史郎
代表取締役
クラウドビジネスを開始したのは09年ごろで、まずAWSやSalesforceを使い始めた。鈴木代表取締役は「自分はどちらかというとアプリケーション側のエンジニアなのでインフラ側の専門知識がそれほどなく、どこか不安があった。AWSやSalesforceなら専門知識がなくてもインフラに対する不安がなく、アプリケーションの開発に専念できると考えた」と説明。また、「IaaSはAWS、PaaSはセールスフォース、SaaSはグーグルと、それぞれのナンバーワンを手掛けようと思っていた」と話す。
エンジニアが働きやすい
環境を整備して成長へ
鈴木商店では、2年ほど前からウォーターフォール型の開発からアジャイル開発への転換を進めてきた。「当社ではIaaSの上にお客様向けのアプリケーション作ることが多く、SIerとしてアプリケーションの一括請負をメインでやってきたが、要件が複雑化していく中、ウォーターフォールで開発することの限界をここ数年感じていた」(鈴木代表取締役)ことがその背景にある。
ここ半年の間で、アジャイル開発への切り替えは完了。アジャイル開発によって「本当に必要なシステムは何なのかということをお客様と共有しながら進めることができる」と鈴木代表取締役は評価する。顧客側も同社のそうした姿勢を理解した上で相談するケースが多く、「最近は新しくクラウドサービスを立ち上げたいというお客様の案件が多い。企画段階から一緒に進めている」としている。
また、鈴木商店は現在約25人の社員で仕事を回しているが、より高品質かつ低コストでシステムを開発できるよう、外注は利用しておらず全て自社開発している。人数も限られる中で自社で手掛ける案件に限界があることは割り切っており、「自分たちができる中で一つ一つ良いものを作っていきたい」(鈴木代表取締役)としている。
会社としても成長軌道に乗ってきており、「好奇心やものづくりの視点でシステム開発をみているので、新しい技術が出てきたら試したり、本当にお客様の役に立つかという視点で新しいことをどんどんやっていく」姿勢が、ビジネスの拡大につながっていると鈴木代表取締役。「エンジニアが生き生きと働ける場所にすることが、会社が発展する上で重要だと思う」と、今後はエンジニアが働きやすい環境を整備する方針。リモートワークや副業の推進、評価制度、転職や退職などの支援など、さまざまな取り組みを検討している。
ロジカル・アーツ
SalesforceとAWSで、クラウドの売り上げ構成比を50%に
大阪に本社を置くロジカル・アーツは、SalesforceとAWSの2軸でクラウドビジネスを展開。特に直近は関西で拡大が見込まれるSalesforce需要に商機を見込む。
SIerで組み込み・制御システムの開発を担当していた城垣光宏・代表取締役がスピンアウトする形で2001年に設立。電化製品に組み込むマイコンや工場などのFA機器の制御システム開発などを強みとして、元の勤務先だったSIerからの案件を請け負っていた。
転機となったのはリーマン・ショック。多くの企業と同様にロジカル・アーツも大打撃を受け、「生き残りをかけて」(城垣代表取締役)販路の拡大に動き出す。「それまでは安定的に仕事があり危機感はなかったが、リーマン・ショックを機に、お客様が苦しい中でこのままではいられないと思った。人月単価のビジネスではなく、自社の優位性を出せるような新しいサービス指向のものを模索した」
そうして始めたのがクラウドインテグレーションだ。営業に来たセールスフォースの担当者から製品の利用とパートナービジネスの提案を受けたことをきっかけに開始。はじめはなかなか仕事を得ることができなかったが、セールスフォースが取り組むNPO支援で協力話が舞い込み、開発を行ったところ評判に。それ以降、パートナーの下請けとして開発をこなしていき市場での評価も高めたことで、17年12月にコンサルティングパートナーとして正式認定を受けるに至った。現在までに、約30社40件ほどの案件を手掛けており、「リピートが多く、一度インプリしたら2次開発、3次開発につながっている。顧客満足度もセールスフォースの基準で合格点をもらっている。顧客に寄り添った形の提案をしていることが評価されているのでは」と城垣代表取締役は語る。
ロジカル・アーツ
城垣光宏
代表取締役
クラウド普及後を見越した動きを加速
城垣代表取締役によると、セールスフォースは現在、関西でのビジネス拡大に注力しているという。そこで、ロジカル・アーツにも協業の話が増えているといい、「セールスフォースのコアパートナーであることが優位性となっている」と強調する。
さらにロジカル・アーツは、Salesforceの保守や連携する商材を活用したストックビジネスの拡大を図っている。「クラウドの利用が広まってきたときに、顧客とどれだけつながっているかが、今後のビジネスを左右する」として、クラウドが普及した後の収益の道筋を見越した動きを加速させている。
また、昨年からはAWSの事業も立ち上げ、現在までに4件の受託案件を手掛けてきた。今後も体制を強化するとともに、得意領域である制御系の技術も生かしてIoTにも取り組む方針。「クラウド関連の売り上げは今全体の25%ほどだが、4年後には50%を目指したい」と城垣代表取締役は意気込む。
[次のページ]ノベルワークス 関西企業のIT活用意欲を高める