有力プロセスマイニングツールベンダーが日本市場で続々本格的な営業を開始した2019年。前号では出揃いつつあるプレイヤーの顔ぶれやその市場開拓戦略の概要を説明した。しかし、ツールを導入するだけでデジタルトランスフォメーション(DX)に向けた業務プロセス変革が成るわけではない。プロセスマイニングに限らず、BPMやRPAなど、プロセス変革・最適化に関連するツールの市場は活況を呈しているが、それらを組み合わせてプロセスの全体最適を提案する流れが強まりそうな気配もある。ツールベンダー側も、顧客に成果を出してもらうための施策に本腰を入れて取り組み始めている。
(取材・文/本多和幸)
プロセスマイニングはRPAのキャズム越えを後押しする?
業務分析はマクロとミクロ両面のアプローチが必要
ハートコアは今年1月、伊コグニティブテクノロジーが開発・提供するプロセスマイニングツール「myInvenio」の日本市場における3年間の独占販売契約を結んだ。
同社はこれに先立つこと1年前の2018年1月に、英T-プランの製品をベースにしたRPA「HeartCore Robo」の提供を開始し、SIerを中心に数十社の販売・導入支援パートナー網を整備している。こうした経緯から、myInvenioについてはRPA導入プロジェクトの課題を解決できるのではという期待をもったユーザーやパートナーからの、いわば“RPA起点”の問い合わせが多いという。
ハートコア 松尾 順シニアマネージャー
ただし、同社の松尾順・DX本部ProcessMining部シニアマネージャーは、こうした状況を「必ずしも歓迎できるものではない」とみている。「RPA業界ではプロセスマイニングがバズワードになっている。RPAを顧客に提案するにあたって、まずは現状把握のためにプロセスマイニングをやるのがよさそうだという発想で、RPAと合わせて提案したいと考えるパートナーは多い。しかし、プロセスマイニングで課題を解決すべき業務とRPAで解決すべき業務には階層のずれがある」(松尾シニアマネージャー)
プロセスマイニングは一般的に、部門をまたがる業務フローを分析するものであり、分析の対象となるデータは、その業務の節目節目で発生するデータ、例えば受注や出荷、納品、請求、入金などで、ERPなど業務システム内に保存されたトランザクションデータだ。これらを分析することで、業務プロセス内の非効率な箇所やボトルネックを可視化するわけだ。
一方で、RPAが担う自動化は、個人のタスクレベルに限られる。「言ってみれば、同一のPC内で完結するタスクを自動化するのがRPA。RPA導入にあたっての現状把握には、プロセスマイニングよりもミクロな視点でのアプローチである“タスクマイニング”(PC内のセンサーで捕捉した操作ログの収集・分析)が有効」だと松尾シニアマネージャーは話す(図参照)。そこで同社は、タスクマイニングのための分析ツールとして業務可視化ツール「CICERO」もラインアップしている。
ハートコアは、プロセスマイニングにしろ、タスクマイニングにしろ、対象とすべき業務は「手順が明確で標準化可能な定型業務」と規定した上で、業務プロセスの改革・改善には両面からのアプローチが必要だと考えている。そして、「あるべき構図としては、部門間にまたがる業務フローをプロセスマイニングで分析し、その結果を基に改善した業務フローをBPMツールで実装・実行していく。RPAはそこにぶら下がる各タスクを自動化するものという位置付け」(松尾シニアマネージャー)であることから、優先順位が高いのはより高位のプロセス最適化に資するプロセスマイニングということになる。
しかし、RPA起点でプロセスマイニングに着目したユーザーやパートナーは、どうしてもタスクレベルのフローを可視化するために使えるのではと考えがちだという。
松尾シニアマネージャーは、「まずはマクロアプローチで本来の意味でのプロセスマイニングから始めてもらうと、結果的に業務改善にはプロセスそのものの見直しが必要ということが分かってきたりする。RPAはそうした解決策を実行していく際の一つの手立てにしか過ぎず、RPAありきで考えると自動化の必要がないタスクまでRPAを適用してしまうケースもある」と指摘する。
バズワード化したプロセスマイニングについては過剰な期待が寄せられている傾向があり、プロセスマイニングとタスクマイニングの役割分担に関する啓発にも取り組むことも、まだ黎明期にある日本の市場では重要だと考えているようだ。
パソナグループと協業し必要な高度人材も提供
プロセスマイニングツールの対象ユーザーは大企業が中心だ。グローバルのトップベンダーであるセロニスは、「現時点での顧客はグローバルビジネスを手掛けるメーカーなどが多い」(日本法人の小林裕亨社長)としている。引き合いが大企業中心であるのは、ハートコアも同様だ。パートナーエコシステムも、外資系を含む大手コンサルファームが中心で、ユーザーへの導入支援はもちろんのこと、自身の業務コンサルサービスに活用するケースも増えているという。
ハートコアの松尾シニアマネージャーは、「まだまだエンドユーザーがセルフサービスで気軽に導入できるものではない。人件費も含めて、業務分析・業務改革に関する予算を数千万円規模で用意できることがプロセスマイニングツールを導入してしっかり成果を出せる条件になるのではないか。また、データの前処理や分析結果に基づく改善提案を行う高度なスキルを持った人材として、データサイエンティストやビジネスアナリストも必要になる」と話す。
データサイエンティストやビジネスアナリストの確保についてハートコアは、ユーザー側の人材投資にのみ依存するのではなく、パートナー企業、特にSIerにおける人材拡充が進むことにも期待を寄せている。
「大手SIerでさえそうした人材は少ないが、プロセスマイニングツールとBPMツールを合わせて既存の業務システムに組み込むことで、業務プロセスをエンド・トゥ・エンドでデジタル化して業務・組織のデジタルツインを構築できる。これにより、動的かつ継続的な業務プロセス改善が可能になるわけで、SIerにとっても大きなビジネスチャンスにつながるはず」と松尾シニアマネージャーは強調する。
ハートコアとしては、パートナーやユーザーにおける人材育成を支援するサービスメニューも提供していくほか、パソナグループと協業し、データサイエンティストやビジネスアナリスト、プロセスマイニングツールのオペレーションに精通した人材などの育成と派遣を行うという。カスタマーサクセスを意識して必要な高度人材の供給までを含む総合的なソリューションを用意し、まずは大企業を中心に市場を切り崩していく戦略だ。
RPAとプロセスマイニングの融合が進む、UiPathがプロセス・ゴールドを買収
セロニス日本法人の小林裕亨社長は、「プロセス最適化に関連するツールであるRPA、BPM、プロセスマイニングは技術的な融合が進んでいる」と指摘する。RPA市場のリーダー的存在であるUiPathは今年、有力プロセスマイニングツールベンダーの一社だったオランダのプロセス・ゴールドを買収し、自社のRPAプラットフォーム最新バージョンに、早速プロセスマイニングの要素を盛り込んだ。
UiPathの原田英典氏は、「RPAの導入は一巡したといわれるが、その中で効果的に自動化できた企業と期待した効果が得られなかった企業が生まれた。両者の違いは“計画”にある」と指摘。「一つの部門で完結する反復業務はRPAで自動化しやすいが、そういった業務は限られる。多くの業務は部門を越えて分散しており、それらの業務を自動化するには各部門を取りまとめ、しっかりとした計画に基づいて進めていかなくてはならない」。プロセスマイニングはその計画段階で、どの業務を自動化すべきか、なぜ自動化すべきかを定量的なデータを基に示す役割を担うという。
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