今年1月14日を最終日として、ついに「Windows 7」のサポート期間が終了した。2019年はこのWindows 7 EOS(End of Support)がPC販売数を大きく押し上げ、メーカーのみならず広くIT業界のプレイヤーのビジネスを潤した。ただし、特需の後には反動あり。EOSという強力な追い風が過ぎ去った後、PC市場はどう推移するのか。メーカー各社や販社の戦略を基に展望する。
(取材・文/本多和幸)
「DX、働き方改革」に堅調な需要を期待
2019年内に
特需は終息フェーズに
19年のPC市場の活況ぶりは、ITベンダー各社の業績はもとより、さまざまな調査レポートからも明確に見て取れる。間もなく19年通年での「国内トラディショナルPC(デスクトップPC、モバイルPC、ワークステーションなど)市場」出荷実績調査結果を発表すると思われるIDC Japanは、2月19日時点で19年第3四半期(7月~9月)までの調査結果を明らかにしている。19年第3四半期の国内トラディショナルPC出荷台数は法人市場が前年同期比183.4%の361万台、家庭向け市場は138.1%の119万台、両市場を合わせると169.7%の480万台という結果になった。今回と同様の構図で「Windows XP」のサポート切れに伴う特需が発生した14年第1四半期に次ぐ「記録的な出荷数を示す結果」になったという。
電子情報技術産業協会(JEITA)がメーカー8社から情報を得て毎月集計している「パーソナルコンピュータ国内出荷実績」は19年12月までの結果が出ている。19年は全ての月で前年比110%以上の出荷台数を記録しているが、特に伸びが大きかったのが7月~10月で、軒並み前年比160%以上、9月にいたっては170%越えという数字になった。IDCの調査でも、「7月~9月で大企業のWindows 10への移行は終息フェーズに入り、今後の需要は中堅・中小企業中心」と指摘されていたが、まさにそれに符合する結果とも言える。JEITAの集計では、11月の出荷台数こそ前年比140%だったが、12月は同114%にとどまり(前年の出荷台数も多かったという事情はあるものの)、四半期ごとの推移を見ても、7月~9月に比べて10月~12月の出荷台数は減少している。特需は19年内にある程度落ち着き、直前に駆け込み需要の山が発生したわけではないことが分かる。
DXはPCビジネスでもキラーワードに
特需を経て、PCメーカー側は20年の市場をどう攻めるのか。反動の大きさをいかに抑えられるか、その戦略の在り方が販売パートナーの動向も左右する。日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)が1月27日に都内で開いた新春セミナーでは、例年の恒例企画として主要メーカー各社が20年の経営戦略を販売パートナー向けにアピールした。そこから見えてきた20年のPC市場攻略のキーワードがいくつかある。まずは、「DX」「働き方改革」だ。
JCSSAの新春セミナーには、PCメーカーとしては日本HP、Dynabook、VAIO、レノボ・ジャパンが登壇。富士通はPCメーカーとしての機能はレノボグループ傘下に移ったものの、自社ブランドPCの販売戦略には言及した。全社に共通していたのは、DXと働き方改革のトレンドが、PCビジネスにも継続して成長の機会をもたらす可能性が高いと見ている点だ。
日本HPやレノボは、エッジAIの拡大などを見越してIoTのエッジデバイスに注力することを強調した。日本HPの九嶋俊一・専務執行役員パーソナルシステムズ事業統括は、エッジAIの需要に備えて米HPが「ワークステーションの再発明に取り組んでいる」と説明。一方、レノボ・ジャパンの安田稔・執行役員副社長は19年に本格投入したエッジコンピューティング向けの超小型PCやエッジサーバーの拡販に注力し、「ITとOTの融合を実現するなどユーザーの新たなビジネスモデル構築と業務刷新をサポートしていく」と話した。
日本HP
九嶋俊一 専務
レノボ・ジャパン
安田 稔 副社長
Dynabookは「(親会社である)シャープとのシナジーを強めており、8K+5Gのエコシステムで重要なポジションを担う8K映像編集PCシステムで新市場の開拓に力を入れていく」(覚道清文社長)とした。DX支援の文脈では、Dynabook以外にも製品の5G対応を進めて早期に市場投入する意向を表明したメーカーは多かった。
Dynabook
覚道清文 社長
働き方改革ソリューションを
パッケージ化
また、働き方改革の本質とも言える生産性向上に寄与する商材として、各社とも薄型・軽量で堅牢性の高いモバイルPCの需要は引き続き堅調であるとの見通しを示した。
HPはグローバルでM&Aなどによりセキュリティ管理サービスを強化しており、日本HPもモバイルPCとウェブ会議システムなどコラボレーション、コミュニケーションのためのアプリケーションも組み合わせて、セキュアで柔軟な働き方を提案するとした。
Dynabookも、マイクロソフトの統合コミュニケーションプラットフォーム「Microsoft Teams」と各種PC、デジタルホワイトボードとして活用できる4Kタッチディスプレイなどの組み合わせを働き方改革推進のパッケージソリューションとして市場に強く訴求していく方針だという。
コラボレーション、コミュニケーションのためのアプリケーションに最適化したデバイスを用意し、モバイルPCなどと組み合わせて働き方改革ソリューションを提案していくという意味では、レノボ・ジャパンも注力ポイントは同様だ。同社はこれに加え、より幅広いワークスタイルをカバーすべく、折りたたみ可能な新しいモバイルデバイスである「ThinkPad X1 Fold」をアピール。デバイス単体での革新も追求する姿勢が目立つ。
また富士通は、自社ブランドのモバイルPCにおける薄型・軽量を追求して携帯性を高めていることを強調。さらに、手のひら静脈認証やリモートデータ消去などの技術開発に注力し、セキュリティ対応にも特色があることを強調した。
総じて、PC単体での価値ではなく、柔軟かつ効率的なワークスタイルを実現する「ソリューション」の価値づくりを、パートナーとも協業しながら進める動きが顕著になっている。
時間外労働規制が中小企業にも適用
働き方改革関連法が順次施行
改正労働基準法を中心とした、通称「働き方改革関連法」が段階的に施行されている。19年4月には大企業で時間外労働の上限規制(原則・月45時間、年360時間)と毎年5日以上の有給休暇取得の義務化がスタート。今年4月には、これが中小企業にも適用されることになる。また、同じく今年4月からは大企業を対象に正社員と非正規社員間の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」も求められるようになる。これも21年4月には中小企業まで適用範囲が広がる。
大塚商会の大塚裕司社長は、「こうした法制度改正への対応を気合と根性で乗り切るのは無理だ」と指摘する。根本的な業務プロセスの見直しによる生産性向上やリソースの最適化が中小企業にとっても急務になる。各PCメーカーが提案する働き方改革関連ソリューションは、その第一歩として分かりやすいメリットをユーザー側に提示することを目指していると言えそうだ。
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