Special Feature
テレワーク+オフィスワーク ハイブリッドワーク時代の従業員管理
2021/01/14 09:00
週刊BCN 2021年01月11日vol.1857掲載

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、2021年に入ったいまも続いている。そんな中でも企業活動は止めることができない。テレワークと最小限の出社で、この難局を乗り切るしかないだろう。ただ、テレワークと出社が混在するハイブリッドワーク環境では、従業員の勤怠管理や健康管理、感染症の陽性者が出たときの対応など、総務や人事といったバックオフィス部門の業務が煩雑になるという問題が明らかになっている。特に従業員規模の大きな企業ほど何らかのシステムが必要となるが、そうしたバックオフィス業務を効率化する新たなソリューションが登場している。
(取材・文/指田昌夫 編集/前田幸慧)
SCSK
ハイブリッドワークの勤怠管理を効率化
コロナによってリモートワークが主体となった業態でも、部署によっては出社して働かなければならないことがある。働く場所が混在していると、勤怠や在席状況の把握が難しい。勤怠管理システムを導入しても、多くの企業では部門ごとのルールとして、都度メールやチャットで連絡をとって出退勤の状況を確認している。マネジャーはその連絡を見て、部員の仕事の開始と終了を確認しているのが実態だ。
「部員の数が10人程度なら、手動での運用でもなんとかなるかもしれない。しかし50人、100人の部署ではマネジャーの負担が途方もないことになる。また、逆に何も連絡がないと、部員の仕事がうまくいっているのか分からない。チャットツールなどを使っても、オフィスにいるときのようにチームワークを効かせて働くのは難しくなる」と、SCSKの五月女雅一・ビジネスソリューション事業部門ProActive事業本部ビジネス推進部部長は指摘する。
同社では従来、場所にとらわれない働き方を推進するシステムの開発を検討しており、2018年に、従業員のコラボレーションをオンラインで管理するツールである「CollaboView(コラボビュー)」の開発に着手。20年1月にはほぼ完成していたのだが、ちょうどコロナの感染拡大が始まったため、いったんリリースを見合わせた。その後、コロナ禍で必要になる機能を追加し、6月に正式リリースしている。
「客観的勤務時間」を自動管理
CollaboViewの代表的な機能はいくつかあるが、まずリアルのオフィスにおける従業員の所在確認が挙げられる。従業員にBLE(Bluetooth Low Energy)で通信するタグを持たせ、オフィスの各所に配置したセンサーで居場所を検知、オフィスの俯瞰図にマッピングする。加えて、「Microsoft 365」との情報連携によって、位置情報と従業員属性の共有を行い、従業員間のコミュニケーションを活性化させる。
管理機能では、従業員を在宅、出社、外出などのグループ分けによって把握することができ、仕事の相談が誰に対して可能かなどをすぐに知ることができる。
CollaboViewの特徴は、従業員の自己申告による居場所の登録(チェックイン)だけでなく、センサーを通過したときに自動的にチェックイン/アウトが完了することだ。これによって従業員と管理者の負担が低減するだけでなく、より正確なデータを収集することができる。
「特に従業員数が数千、数万という企業では、個人個人の申告と手動による管理は限界がある。当社では『客観的勤務時間』と呼んでいるが、自動的な勤怠の管理システムがどうしても必要になると考えている」と、ビジネスソリューション事業部門AMO第二事業本部新ビジネス推進部Skeed推進課の中野史子氏は説明する。
ただし、BLEタグの通信によるチェックイン/アウトだけで、業務の詳細な情報を把握するのは難しいという。そこでMicrosoft 365のアクセス情報や、別のセンサーを組み合わせ、業務内容と居場所の両方でチェックすることにしている。
さらに、CollaboViewは20年8月にERP「ProActive勤怠管理システム」との連携を発表した。これによって客観的勤務時間の情報を勤怠管理システムに取り込むことができ、自己申告による勤怠のデータと照合して、サービス残業の防止などに役立てることができるという。
こうして集めた従業員の所在情報によって、オフィス全体や会議室の稼働状況をグラフ化し、分析することができる。本来は稼働率を基にしたオフィスコストの算定やレイアウト変更の参考にするための機能だが、コロナ禍では密状態の確認や回避にも役立つ。
陽性者のオフィス内の動きを可視化
従業員にコロナの感染者が出た場合、オフィス内の一次接触者、二次接触者のリストを瞬時に表示することができる。また、その人がオフィスに出社したときにどこで作業をしていたか、コピー機に立ち寄ったかといった情報なども含め、フロアマップ上に動線とヒートマップで示すことができる。
「実はこの機能は、従業員が社内のどこで誰とコラボレーションしているか、アクティビティを示すために用意していたもの。コロナによってその活動記録がそのまま濃厚接触者の判定と、消毒などの衛生対策エリアの特定に利用できることが分かった」(中野氏)。
働き方改革の文脈では、従業員同士の密なコラボレーションがイノベーションを加速するとされていた。その計測とグラフ化のために用意したツールが、コロナ禍における従業員の安全と安心に役立つことになった。
企業で感染者が出ると、その状況を調査して国立感染症研究所に報告しなければいけないが、CollaboViewは、取得したデータを基にこの調査票の書式に合わせて自動出力できる。これが、コロナ対策で追加した機能だ。企業の総務や人事部門は、事務的な作業を極力減らして対策に専念することができるだろう。
ソニービズネットワークス
コロナ対応を支援する勤怠・健康管理ツールを無償提供
ソニービズネットワークスは、ソニーグループで企業向けに通信回線やネットワーク、ITソリューションを提供する企業。自社開発の勤怠管理ソフト「AKASHI」の開発・販売も行っている。20年11月には、勤怠管理と健康管理の機能を組み合わせた「somu-lier tool(ソムリエツール)」を新たにリリースした。同社では、コロナ禍で全社でテレワークを実施していた際も、自社でAKASHIを使って勤怠管理を行っていたという。AKASHIの開発リーダーを務め、現在は人事部で採用部門の課長も兼任する渡邊謙人・ソリューション開発本部HRサービス開発課課長兼HR本部HR部マネージャーは、「全員が在宅の環境下では、勤怠の管理だけでは従業員が仕事をできる状態なのかが分からず、健康状態も把握できない。そのため、従業員の勤怠の打刻とは別に、日々の健康状態をWebフォームに入力していた。当初は暫定的な対応と考えていたが、事態がここまで長引いており、よりしっかりしたシステムが必要になった」と説明。そこで、新たに勤怠管理と健康管理をセットにしたシステムの開発を決めたという。
ソニーグループ全体でも、コロナによるテレワークが長期化する中で、現在は従業員の出社を30%に抑える形で在宅と出社の人数調整をしている。その出社率の管理も、エクセルを使った手集計で行っている状況だった。新しいシステムにはそうした機能も含めることにした。
総務・人事の悩みに無償で応える
同社が新しく提供を開始した勤怠・健康管理システムは、利用料が無料だ。AKASHIという有償の勤怠管理システムがありながら、なぜ無料で提供しているのか。渡邊課長は「当初は、既存の製品であるAKASHIの追加機能として販売する案も出ていたが、コロナによって多くの企業が困っているはずだと考え、AKASHIとは全く別の無料サービスとして提供することに決めた」と語る。
同社では、企業の総務・人事部門向けのオウンドメディア「somu-lier(ソムリエ)」を運営しており、渡邊課長はこのサイトの運営も担当している。システムの開発に先立ち、このサイトでWebアンケートを実施すると、128人から回答があった。
その結果から、「急なテレワークによって、多くの企業が在宅勤務に対応した勤怠管理システムを使っていないことが分かった。各社とも、いずれは在宅勤務への本格的な対応が必要だと考えていたはずだが、ここまで急に、絶対に必要なものになるとは想定していなかったと思う」と、渡邊課長は話す。
この回答も参考にしながら、20年9月から急ピッチでシステムの開発を進め、11月末にはサービスを公開した。渡辺課長は、コロナの「第3波」が来るまでには公開したいと考えていたという。
「勤怠管理のポイントは、サボっている人を見つけることよりも、むしろ働き過ぎのチェックと是正にある。これはコロナ前から変わっていない。ただ、コロナ禍ではテレワークによってその管理がいっそう難しくなっている。ソムリエツールを使っていただき、少しでも改善に役立ててもらえればうれしい」(渡邊課長)。
コロナ陽性対応をシステム化
ソムリエツールの機能は、大きく分けて二つある。テレワークに対応した従業員の出退勤管理と、コロナ陽性時の対応を含んだ従業員の体調管理だ。
従業員は毎日、ソムリエツールにログインして出退勤の打刻と健康状態を入力する。体調が悪く、リスクがあると企業が判断した場合、保健所への連絡と感染検査の手続きを案内する段取りとなっている。
従業員に業務用のスマートフォンを配布している企業であれば、ソムリエツールのアプリをインストールすることで、Bluetooth通信により従業員同士の濃厚接触を計測することができる。従業員に陽性者が出た場合、濃厚接触の恐れがある従業員に自動的に通知を送って検査などの指示を送ることができる。
「自社の従業員の健康管理と感染時の対応を適切に行うことが求められている。単にコロナ対策をしていますというだけでなく、実際に機能する仕組みを持っていることは、企業の信頼を維持するために非常に重要になっている」と渡邊課長は強調する。
今後は、出社予約と部門の出社率の管理機能を実装する予定だ。企業が決めた出社率以上の予約が入ると、従業員に「すでに定員です」と通知する。また、従業員の健康状態の管理画面で、管理できる人の権限をよりきめ細かく設定できるようにする。
「当社はオフィスでの仕事に必要なソリューションを提供する企業。本業を続けていくには、オフィスで働く人が1日も早く安心して戻ってきてもらう必要がある。その意味でも、現在、出社と在宅が混在する中で、従業員の安全を管理していくことは非常に重要だ。アフターコロナの出口が見えてくれば、AKASHIとの連携など、有償化の可能性があると思う。今は残念ながらその状況ではないため、コロナを乗り切るまでは、ソムリエツールの無償提供を続けていく」(渡邊課長)としている。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、2021年に入ったいまも続いている。そんな中でも企業活動は止めることができない。テレワークと最小限の出社で、この難局を乗り切るしかないだろう。ただ、テレワークと出社が混在するハイブリッドワーク環境では、従業員の勤怠管理や健康管理、感染症の陽性者が出たときの対応など、総務や人事といったバックオフィス部門の業務が煩雑になるという問題が明らかになっている。特に従業員規模の大きな企業ほど何らかのシステムが必要となるが、そうしたバックオフィス業務を効率化する新たなソリューションが登場している。
(取材・文/指田昌夫 編集/前田幸慧)
SCSK
ハイブリッドワークの勤怠管理を効率化
コロナによってリモートワークが主体となった業態でも、部署によっては出社して働かなければならないことがある。働く場所が混在していると、勤怠や在席状況の把握が難しい。勤怠管理システムを導入しても、多くの企業では部門ごとのルールとして、都度メールやチャットで連絡をとって出退勤の状況を確認している。マネジャーはその連絡を見て、部員の仕事の開始と終了を確認しているのが実態だ。
「部員の数が10人程度なら、手動での運用でもなんとかなるかもしれない。しかし50人、100人の部署ではマネジャーの負担が途方もないことになる。また、逆に何も連絡がないと、部員の仕事がうまくいっているのか分からない。チャットツールなどを使っても、オフィスにいるときのようにチームワークを効かせて働くのは難しくなる」と、SCSKの五月女雅一・ビジネスソリューション事業部門ProActive事業本部ビジネス推進部部長は指摘する。
同社では従来、場所にとらわれない働き方を推進するシステムの開発を検討しており、2018年に、従業員のコラボレーションをオンラインで管理するツールである「CollaboView(コラボビュー)」の開発に着手。20年1月にはほぼ完成していたのだが、ちょうどコロナの感染拡大が始まったため、いったんリリースを見合わせた。その後、コロナ禍で必要になる機能を追加し、6月に正式リリースしている。
「客観的勤務時間」を自動管理
CollaboViewの代表的な機能はいくつかあるが、まずリアルのオフィスにおける従業員の所在確認が挙げられる。従業員にBLE(Bluetooth Low Energy)で通信するタグを持たせ、オフィスの各所に配置したセンサーで居場所を検知、オフィスの俯瞰図にマッピングする。加えて、「Microsoft 365」との情報連携によって、位置情報と従業員属性の共有を行い、従業員間のコミュニケーションを活性化させる。
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