企業が副業を解禁する動きが加速している。新型コロナの影響によって減少した収入を補うための手段としてだけでなく、昨今のデジタル化の波で、デジタル人材を外部から調達するための副業採用も活発化している。デジタル人材の供給源でもあるIT企業(ITサービス、SI、ソフト開発)はこの状況をどう受け止め、さらに一企業としてどう動くべきか。
(取材・文/石田仁志 編集/日高 彰)
大企業の副業解禁とその背景
副業に対する社会の風向きが変わり、かつて副業を禁止していた大企業が続々と副業を解禁し、行政や自治体も副業採用を打ち出している。その背景にあるのは、新型コロナのパンデミックが引き起こした環境変化もあるが、それ以外にも確実に副業を促進する大きなうねりが存在している。
まずは政府の動きである。働き方改革の政策を推進する過程で、2017年に「働き方改革実行計画」が策定され、柔軟な働き方がしやすい環境整備の一環として副業・兼業の推進が盛り込まれた。これを受けて18年1月に、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」から副業禁止の文言が削除されると共に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発表されている。
同ガイドラインには、基本的な考え方として「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」と記されている。さらに、健康管理や労働時間管理に関する規定まで提示されている状況だ。
国が方針を転換する一方で、雇用する企業側の環境も変化している。ジョブ型雇用が始まり、終身雇用を前提とした働き方は成り立たなくなる中、経団連も新成長戦略内で「働き手の健康確保を前提として、副業・兼業も奨励する」とうたっている。労働人口の減少が進み、企業は人材の確保はもちろんのこと、優秀な人材をいかに育成していくかという課題も抱えている。
そうなると個人は、会社には守ってもらえず、年功序列の給与増も見込めない状況下で、生きていくための原資やスキルを自らの力で確保していかねばならない。そこですでにフリーの働き方を選ぶ労働者も増加し、ネット上では株式投資やフリーマーケットのような手軽に収入を得るための仕組みも整備されつつある。さらに、このコロナ禍でのテレワークによって自由に使える時間が増加し、地方への移住という動きもみられる中で、副業という選択肢はどんどん現実的なものになってきている。
企業だけが及び腰という現状
このように、国、企業、個人、社会とそれぞれが副業問題に対峙すべき動機を抱えている中で、企業だけが後ろ向きというのが現状である。エン・ジャパンが20年10月に実施した調査では、副業を希望するという回答は49%である一方、現在勤務している会社で副業が認められているとの回答は27%で、約半数が副業を希望しているのに対し、容認していない企業が多いことが見て取れる。
ただ実際は、すでに申請の有無に関わらず多くの個人が副業を始めている。パーソルプロセス&テクノロジーが20年2月に行った調査では、副業制度の有無に関わらず、本業としている所属企業に申請せずに副業をしていると回答した人は55.3%に達している。つまり労働者の副業は、グレーな状況でなし崩し的に始まっているのである。従業員が怪しい副業でトラブルに巻き込まれないようにするためにも、企業は副業についてのルールを整備し、仕組みをクリアにしていく必要がある。
それらの一般論のほかに、昨今の副業ブームの大きな動機となっているのが、デジタル変革(DX)への流れである。コロナ禍においてデジタル化の遅れが顕在化する中で、従来型の企業ITのDXに加え、デジタル化を促進する大きなうねりが社会全体で発生している。そしてDXに対応するための人材は育成も雇用も容易ではないため、兼業での就労を認め外部から登用しようという流れになっている。
そういった便利なIT人材、デジタル人材がどこにいるかというと、フリーランスも一定数いるものの、基本的にその多くがIT企業に所属している。ではそのデジタル人材がこれから副業制度を活用して積極的に社会貢献できるシステムになっているかというと、否である。
元来ITエンジニアは転職・副業市場での評価が高く、慢性的な人材不足も相まって引く手あまたの状況である。企業での経験を基に独立するというキャリア形成の導線も存在するうえに、小さな会社から大きな会社、ライバル会社へ、さらにはユーザー企業へと人材が引き抜かれるという構図もある。そのため、人が資産であるIT業界、特に人月ビジネスを生業とするSI企業では、他業種以上に社員を囲い込みたいという考え方になりがちであるが、企業が副業を禁止して囲い込みを強めた場合、逆に有能人材の離職が増えるということにもなりかねない。
“複”業を社員のキャリア形成に
昨今副業は、複数の仕事をするという意味での「複業」という表記も目立つが、収入を補う手段としてではなく、社員自身と企業の成長を支えるための仕組みとして捉えると、別の側面が見えてくる。
まずはキャリア形成である。終身雇用、昇進型で社員のモチベーションを維持するという前提が崩れた中で、社員のキャリア形成を社内で支援していくことも困難になりつつある。そこで、副業の形で自社で得難い経験とキャリアを積ませていく。すると経験と共に自律というスキルも高まり、主体性のないぶら下がり形社員も減る。何より今後生き残っていくのは、個々が考えて行動できる自律型の組織である。
副業による自律型キャリア開発を研究する法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授は、「大手企業のキャリア支援室長クラスは、従来型の形式的な集合研修ではキャリア開発の効果は上がらないと気付いている。社会が変化する中、抜本的な治療が必要。人材の潜在的なポテンシャルを伸ばさないと企業は残っていけない」と話す。当然この話はIT業界にも当てはまる。
法政大学 田中研之輔 教授
そしてもう一つが、企業ブランディングへの効果である。テレワークと同様に、副業を認めることで従業員の離職率が減少するとともに、外部からの優秀な人材を新卒・中途で採用しやすくなる。また知名度の向上に加え、社員の副業経由で今まで付き合いのなかった企業との取引も期待できる。
副業を解禁するに当たっては、トップが声を上げるだけではいけない。時間、健康といった部分の労務管理をはじめとしたしっかりとした制度設計や、不公平感をなくすため制度と趣旨を社内に周知徹底することも必要になってくる。管理の負荷が高まる中間管理職への配慮も必須だ。そこで参考になるのが先行企業の取り組みである。さらに市場では、企業・個人が副業を行う際の支援サービスも登場している。
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