Special Feature
前向きなルール整備が離職を防ぐ IT企業における「副業」
2021/02/18 09:00
週刊BCN 2021年02月15日vol.1862掲載
サイボウズ
社員の3割が副業経験者に
国内企業の中で副業制度を取り入れてきた先駆者的存在が、サイボウズである。同社は2012年に社員の副(複)業を解禁し、17年からは外部からの副業人材の採用を開始している。さらにその中で青野慶久社長は、自らの情報発信や政府系の働き方改革の有識者会議の場で企業の副業解禁の必要性を訴え、政策や世論の形成にも影響を与えている。サイボウズにおける副業解禁の発端は、「テニスコーチの仕事を副業として認めてほしい」という社員の声だったという。当時周りには副業を就業規則で認めているような会社はなかったが、「元々社員の自律した働き方を尊重する企業風土があったことに加えて、社会状況を見渡したところ社員が副業をすることを否定する理由が見つからなかったため、解禁の方向に舵を切った」と人事本部人事労務部の恩田志保・部長は経緯を語る。
同社では現在、副業先が雇用関係にあたる場合と、会社の資産を利用するものを除いては、申請しないで副業を行える形となっている。解禁当初副業をしている社員は数人だったが、現在は社内アンケートによると約3割の社員が副業経験者である。職種についてはIT系に限らず、農業や音楽といった異分野で活躍している社員も多いという。恩田部長も大学でのキャリアに関する講演も経験していて、「これから働いていく上でのいい経験になった」と話す。
副業の申請について同社では、自社のkintoneで専用のワークフローアプリを開発、そこで申請が必要な副業を公開し、承認に至る申請のやり取りのログも全社員から見える形にしている。「できるだけ物事をオープンにすることが制度を円滑に運用するための秘訣。ご相談いただければ実装ノウハウも提供できる」と恩田部長はいう。
社内へのフィードバックでは、農業をしている社員がモデルケースとなってkintoneが農業従事者の間で広まったという例や、スクラム開発を支援する会社での副業経験を自社のプロジェクトに展開したケースなど、多くの成果があるという。
同社では、副業解禁によるデメリットはないと断言する。副業との比率で自社での活動が減るようなことがあっても、元々サイボウズでは百人百様の働き方を認める柔軟な人事制度を採用しているため、織り込み済みという認識である。副業も含めた多様な働き方を推し進めることが社員の幸福度および労働生産性向上につながり、会社の売上自体も上がっているという。
「副業を解禁するか迷っている会社はいろいろと心配があると思うが、やってみることが大事。課題は出てくるが、それらは前向きに取り組めば解決できる。結果として、『副業を認めた会社』として以前より良いポジションを得られるようになる」と恩田部長は話す。また、その時に「人事だけで情報を持たないでオープンに議論していくことが大事。それが会社のチーム力を高めるきっかけにもなる」とアドバイスを送る。
TIS
SI企業として最適な副業環境を模索
大手SIerの中でも、早期に副業を解禁していたのがTISである。同社は2017年に、「社員の自律や視野拡大、ネットワークの形成を促進する」との趣旨で副業を解禁した。解禁に当たっての動機は三つ。まずは副業禁止の時代にも、仕事の延長線での副業や、家業の役員を兼務するなど、現実には副業を行っている社員がいることがわかっていたため、副業の規定を定めてオープンにしていくべきという議論があったこと。次に会社を発展させるため、特にキャリア採用をする際に多様な働き方の選択肢を用意する必要があったこと。最後が、休暇取得促進で社員に余暇をうまく活用してもらうための環境整備である。
副業は本業でフルタイム勤務した上で認める形であるが、「直近では常時80人から90人程度が副業を実施」(人事本部人事企画部 菊池裕・主査)しており、必要に応じた制度として定着している。
副業の内容は、利益相反になる仕事、営業機密に触れるもの、職務規律に抵触するもの、職務遂行に支障をきたす長時間労働、会社の名誉を棄損するもの、リスクの高いビジネス、高額商品を扱うビジネスなど、社会通念上問題であるものを除いては広く認める形となっている。
労働時間については、残業と副業で月間45時間を超えないように上限を設定、それ以上働きたい場合は個別に対応する。社会活動や奉仕系で無収入の場合でも、それなりの業務を負担する場合や役員になる場合は届け出が必要となる。
副業制度を導入したことでの最大のメリットはリテンション、つまり離職防止だと菊池主査は話す。ほかにも、新卒やキャリア採用に効果が出ていて、特にキャリア採用でロボティクス事業をはじめとする新規事業の人材を確保できているという。
人材流出問題に関しては、「副業に限らず、サービスやコンサルの領域に進出していく過程で引き抜きは出てくる。我々は出ていくのもやむなし、出戻りも歓迎というスタンスで、人材を循環させると割り切っている」と、同部の小泉靖彦・部長は語る。「会社の中で提供できる経験は個人に絞ると限定される。外に出て経験を増やしていくことは、回りまわって会社に有益になる。その人が一人でダイバーシティを推進しているようなもの」との見方で、メリットの方が大きいとする。
TISは次年度、副業に伴う時短勤務を認めていく方向で検討を進めていく方針だ。ただし、「多様な働き方を進めていくと、どうしてもマネジメント側の負荷が高くなってしまう。昨今のテレワークでも問題視されているように、勤務契約が複数になってくると、現場の管理職が耐えられない。特にSIビジネスで、プロジェクト型で顧客と関係性があって品質が重視される環境では、より厳格な管理が求められる」(小泉部長)とし、一定のブレーキをかけながら慎重に事を運ぶ構えを見せている。
SCSK
事前の説明会に2000人が参加
同じくSI大手の中で積極的に副業制度を活用しているのが、SCSKである。同社はこれまで、残業・休暇問題やリモートワーク、健康経営など働き方改革全般において他社に先駆けて積極的に取り組んできた実績があり、その一環で2019年から副業・兼業制度「スマートワーク・プラス」を開始している。SCSKでは、社員の副業の形を「副業」と「兼業」に明確に分けて管理している。既定の就業時間は職務に従事し、本来の業務に影響が出ない範囲で行うものが副業で、社外で働くことで業務時間や業務遂行に影響が出るものは、無報酬であっても兼業となる。兼業の場合は、社員と会社が個別に契約を結ぶ。
運用に際してはガイドラインを用意し、その中で利益相反になる取引は禁止、本業に専念することが前提などの条件が記されていて、それらが順守できない場合は会社が是正や中止を勧告する。
実施に当たり副業は原則届け出制で、兼業は許可制としている。同業他社での副業・兼業も可能だが、「中小や地方案件、スタートアップとの新規事業立ち上げなど、SCSKのビジネスとバッティングしない、なかなかチャンスを得られない領域でのものに限り認めている」(人事・総務グループ人事部人事課 加々美充男・課長)形である。
労働時間については、本業との通算時間でSCSKの36協定の規定に合わせた形で行う。「当社は健康経営を掲げているので、過重労働にならないように人事部でもしっかり時間・実績管理をしている」と、同課の西口真武・アシスタントマネージャーは話す。管理職の業務負荷への配慮としては、「勤怠管理システムに副業就業予定時間も入力することで、管理しやすくしている」(同)という。
社員には好意的に受け入れられていて、事前の説明会には約2000人が参加したという。利用者は毎年100人強で、IT知識・経験を生かした活動のほかに、中小企業診断士などの専門知識を生かしながら活躍するケースなどが多いとのことである。
定量的な効果としては、副業・兼業をしている社員は自己研鑽に積極的に取り組んでいる割合が高いとの結果が出たという。「それが他の社員にも相乗効果となれば」と加々美課長は期待を寄せる。そのほかにも副業をするために本業での効率化が進んだ社員や、兼業をしている社員の中にも社内の高度人材認定を受けたエンジニアもいて、一概に労働時間を短くすることで業務に制限がかかることはないという。
制度開始に当たっては、法務、サービス管理、労務、人事などの組織横断的なチームでプロジェクトを立ち上げ、事務局型で運用している。加々美課長は、「正直なところ労務管理の負荷はあり、社員に対する意識付けも重要。そこはしっかりやっていく必要はある」と釘を刺す。ただし、副業・兼業制度を開始してそれが退職につながったケースもなく、「会社としても、今後も積極的に推奨していく」としている。
パーソルP&T
副業によるキャリア開発戦略を支援
パーソルプロセス&テクノロジー(パーソルP&T)は、企業が副(複)業制度を取り入れ、人事・キャリア戦略として運用していくための支援サービス「プロテア」を4月1日から開始する。副業案件を紹介するものではなく、経営者・人事担当者向けに、社員の副業に関する活動状況を可視化するとともに、社員向けにも、キャリアの自律につながる副業活動を支援するためのプログラムを提供する。プロテア事業の責任者であるワークスイッチ事業部事業開発統括部プロダクト開発・MA推進部の成瀬岳人・部長は、副業の現状について「企業が認めていようがいまいが、副業を始めている人が圧倒的多数になっている。国も社会もそれでいいと言っていて、企業は挟まれている状態」と解説する。
そして現状の副業制度における課題として成瀬部長は、「副業開始時の情報しか把握できていない」(誰がしているか)、「適切な教育がなされないままただ認めている」(フリーランスとして働くリテラシーがない)、「副業実践者の成長が可視化できていない」(人材育成戦略につながらない)という3点を指摘。そのため、「ルール・制度だけでは変われない。企業と個人の新たな関係を構築するための新たな仕組みが必要」と話す。
そこでプロテアは、副業関連のサービス事業者とも連携して社員が適切に副業を行っていけるよう支援するとともに、企業に対しても社員自身に自律的なキャリア構築を行うための副業活動を促す新たな人事戦略を導入するための枠組みを提供する。
社員向けに、リテラシーやキャリア構築などの情報などを提供する「プロテアポータル」と、成長計画の自己管理と過重労働を抑止するための「セルフマネジメント支援」の機能を用意。そしてそれらの情報の中から、企業に対して人事・キャリア戦略として必要な情報を企業向けにレポートする。これにより、社内での「キャリア資産の可視化・蓄積」を支援する。
プロテアは、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授との共同開発となっている。田中教授は、これまでのようにキャリアを組織内に預けるのではなく、社会環境の変化に応じて自らが主体的にキャリアを開発していく「プロティアン・キャリア」という新しいキャリア観を研究・推奨している。企業側からすると、「管理するのではなく応援していく形」(田中教授)であり、プロテアはこの考え方に基づいたサービスとなっている。
プロテアは、企業側が活用し組織として取り組んでいける国内初の副業のキャリア開発支援型のプラットフォームサービスとなる。「これまでは“働かされている”キャリアが多すぎた。日本企業のグローバルプレゼンスが落ちたのは個々の能力を発揮しきれなかったことが問題で、そこをプロテアで支援しながらより良く働けるビジネスパーソンを増やしていく」(田中教授)としている。
新常態を見据え副業の有効活用を
副業に関する議論の本質は、これからの働き方を考えることにある。法政大学の田中研之輔教授が指摘しているように、これまで日本では、多くの労働者が働かされる形で仕事を続けてきた。高度経済成長期は対価として十分な報酬を得るため、そしてその後の失われた数十年の間は、職を確保するためにである。しかし今、終身雇用制度も制度疲労を起こしている状態で、コロナ禍での新常態を模索する時代の端境期にあり、従来の考え方はすぐに通用しなくなる。企業は社員のエンゲージメント向上を考えないと、優秀な人材は定着せずに逃げていく。社員も自ら将来像を考えないと、生活がままならなくなる。そうならないためにもIT企業は副業を解禁し、有効活用していく道を検討すべきではないだろうか。

企業が副業を解禁する動きが加速している。新型コロナの影響によって減少した収入を補うための手段としてだけでなく、昨今のデジタル化の波で、デジタル人材を外部から調達するための副業採用も活発化している。デジタル人材の供給源でもあるIT企業(ITサービス、SI、ソフト開発)はこの状況をどう受け止め、さらに一企業としてどう動くべきか。
(取材・文/石田仁志 編集/日高 彰)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
