Special Feature
2021年度 税制改正大綱 企業のDXは進むのか
2021/03/25 09:00
週刊BCN 2021年03月22日vol.1867掲載
業務アプリ領域からは歓迎の声
ビジネスの拡大に向けて期待感
DX投資促進税制は、幅広い業種の企業へのIT導入が進むきっかけになる可能性がある。業務アプリケーションベンダーからは、税制の創設を歓迎する声が上がり、ビジネスの拡大に向けて期待感が高まっている。応研
時代の流れを感じてもらえる
応研東京本社の藤井隆文・統括マネージャーは、DX投資促進税制を含めた政府のDXに対する姿勢について「われわれがDXやペーパーレスなどの必要性を訴えても、お客様になかなか振り向いてもらえない場合があったが、政府から発信してもらうことによって、お客様に時代の流れを感じてもらえるようになる」と話す。
同社はこれまで、大臣NXクラウドシリーズを軸に、年商数億円から50億円規模の企業を主なターゲットとしてクラウド化の提案を進めてきた。同社東京本社首都圏支店の本多哲也・支店長は「IT導入補助金やコロナ禍関連の補助といった公的支援制度を絡めた案件が増えている」と説明し、DX投資促進税制によって引き合いがさらに増える可能性があるとみる。
同社のビジネスでは現在、販売管理関係が増加しているといい、藤井統括マネージャーは「とくに取引先とやりとりする紙をデジタル化する部分での要望が高まっている。DX投資促進税制でデータ連携について記述されたことで、さらにお客様への提案がしやすくなる」と語る。
同社は、業種ごとの製品展開に力を入れてきた。そのノウハウを反映する形で、今春には「大臣NXクラウドシリーズ」の後継版に当たる「大臣AXクラウド」をリリースし、クラウド事業のさらなる成長を目指す考えだ。
大臣AXクラウドは、コアとなる基幹業務と周辺業務を自動化する。経理部門では、これまでの入力業務ではなく自動入力されたデータの確認作業が中心となり、業務効率や生産性の向上を実現することができるという。個別の製品では、大蔵大臣AXクラウドと販売大臣AXクラウド/販売大臣AX Superクラウドを提供する。
大臣AXクラウドの特徴について、藤井統括マネージャーは「販売管理の機能では、大臣NXクラウドシリーズの場合は項目を予備で用意し、お客様が自社の運用に合わせて設定を変更できる仕様になっていたが、大臣AXクラウドは一から設定をつくれるように極限まで柔軟性を高めた」とし、「IT部門だけでなく、ユーザー部門でもプログラミングなしで設定の変更や追加ができるようになっている」と紹介する。
販売戦略については「大臣AXクラウドでは今後、大臣NXクラウドシリーズと同じ製品構成にしていくことを計画している。大臣AXクラウドの方がお客様の生産性は向上できるので、まずは大臣AXクラウドを提案し、リリースしていない製品については大臣NXクラウドシリーズの製品を提案する」との方針を示し、「今回の税制改正の関連では、企業間の情報共有ができるソリューションやサービスと大臣シリーズを掛け合わせる形で販売を進めていく」と意気込む。
オービック ビジネスコンサルタント
クラウドのメリットを広く伝える
オービックビジネスコンサルタント(OBC)マーケティング部マーケティング推進室の西英伸・部長は、DX投資促進税制について「間違いなくお客様の変革に貢献する」とし、「弊社にとってはビジネスチャンスであり、さらに言えば国益にもつながっていくはずだ」と語る。
同社は、業務クラウドの「奉行クラウドシリーズ」と、バックオフィス業務周辺の従業員業務に関するプロセス改善を支援するSaaS商材「奉行クラウドEdge」を展開している。基盤に「Microsoft Azure」を活用しつつ、価格を抑えている点が市場で評価されている。さらに、オンプレミスからクラウドに移行した場合、操作のスピードが落ちないことが顧客満足度につながっているという。
西部長は「クラウド化できないレガシーな仕組みを持っている企業はまだたくさんある」とし、「今回の税制改正などを通じて国が企業のDXを進めようとしていることは大歓迎だ」との立場で、「IT投資をする企業に対し、国が税制措置を取ることは、企業にとっては働き方やビジネスのやり方をあらためて見直すきっかけになる」と語る。
DX投資促進税制では、IT投資額の下限が売上高比0.1%以上となっている。企業の規模やパッケージの価格によっては、税制措置を受けられない可能性もあるが、西部長は「できるだけまんべんなく制度の効果を広めたいというのが国の方針だと思っており、それは国としてあるべき姿」と一定の理解を示し、「IT投資に対する措置が何もない場合と比べると、間違いなく効果はある」との見解を示す。
新規顧客のうち、6割がクラウドの製品を選択しており、同社はこれからも右肩上がりでクラウド製品の導入が増えていくとみている。4月には、請求管理系のクラウド製品をリリースする予定で、今後も製品の拡充を進めていく方針だ。
西部長は「バックオフィスは一番最後にIT化が来るといわれている。DX投資促進税制などを起点に、しっかりとクラウドの良さや効率性をお客様やパートナーに伝えていきたい」と話す。
ミロク情報サービス
使いやすい制度設計に
ミロク情報サービス(MJS)は、中小零細企業から中堅企業をメインの顧客としている。同社営業推進部販促企画グループの橋本智範・部長は「DXを進めようとする政府の姿勢は一定の評価ができる」と話す。同社は、中堅・中小企業業務のDXを支援する新製品として、クラウド型ERPシステム『MJSLINK DX』を打ち出しており、「DX投資促進税制と新製品のコンセプトがマッチするかを見定めているところだ」と話す。
橋本部長は、IT導入補助金をはじめ、政府の補助制度は率先して活用してきた経緯を説明し、DX投資促進税制についてもその効果に期待を寄せる。一方で「制度が複雑な側面があるので、税制措置が適用される場合の判断基準などがもう少し明確になるといい。国を挙げて実施するのであれば、各企業の実務や実情を踏まえた上で、使いやすい制度設計にしてもらいたい」と要望する。
とくに零細企業については「コロナ禍で、資金面でも、事業面でも困難を強いられている。投資をどうするのか、または資金をどうやって調達するかという課題がある」とし、「国の施策と市場の現状がしっかりと調和することが重要だ」と持論を展開する。
MJSLINK DXは、財務や税務、給与、人事、販売、固定資産管理、リース管理の各業務モジュールを提供。さらに外部システムとのシームレスな連携機能を強化したほか、人工知能(AI)の機能を拡充した。
具体的には、財務会計システム「MJSLINK DX 財務大将」では、各金融機関やECサイト、POSレジ、電子請求書(発行・受け取り)システムなどから、API連携で取引情報データを自動で取り込むことが可能。取り込んだデータは、新機能「AI仕訳」によって自動で仕訳が作成され、経理担当者の入力業務の負担を軽減。自動作成された仕訳は、仕訳の処理ミスや処理漏れなどがないか自動でチェックするシステム「MJS AI監査支援」と連携し、正確性の向上や業務効率化を支援する。
同社営業推進部製品企画グループの千村昭人・課長は「弊社のお客様は、人材の面で大きな悩みを抱えており、生産性の向上が急務になっている」と市場の背景を説明し、「既存の仕組みで必要だったオペレーションについて、ボタン一つでシステム間を連携し、自動化することができる。今後のリリース計画では、A-IOCRとの連携で、今までできなかった銀行通帳や領収書、請求書の取り込みから会計仕訳を作成するところまで自動化できるようにする」と話す。
マネーフォワード
SaaS専業ベンダーから見た税制改正大綱
政府の危機感が背景にマネーフォワードは3月1日、「税制改正でバックオフィスはどう変化するのか」をテーマに、税制改正大綱を解説するオンラインセミナーを開催し、同社の山田一也・執行役員マネーフォワードワードビジネスカンパニーCSOは「税制改正大綱の背景には政府の危機感の高まりがある」との認識を示した。
山田執行役員は、25年の段階でIT予算の9割以上がシステムの維持管理に費やされてしまい、新規のシステム導入や改善に予算が割かれなくなると30年までに年間最大12兆円の経済損失が出ることを指摘した経産省の「DXレポート」や、昨年12月の「DXレポート2中間取りまとめ」に改めて触れた。その上で「部門横断的なDX推進を持続的に実施できている企業は全体の約5%で、残りの約95%は未着手か一部の部門での実施にとどまっており、なかなか企業全体としてDXを推進できていない」と指摘した。
続けて「このままだとおそらく『2025年の崖』まっしぐらな状況で、政府は非常に危機感を高めている」とし、これ背景に「今回の税制改正大綱は、企業のDXをより後押しするような内容になっている」と説明。政府が、民間だけでなく、行政のDXも推進する姿勢を示していることにも言及し「官民が一体となってDXを進めていくんだという国の強い意志が感じられる」と語った。
さらに「DXを推進する上で最も大事だといわれているのが、DXに関連するシステムを導入すること。DXレポートでは、超短期の取り組みの中で、事業継続を可能にする最も迅速な対応策として、市販製品のサービスの導入を、とストレートに書かれている」とし、「これを推進するためにDXに関連する設備を導入した場合、税制優遇が受けられるDX投資促進税制が設けられた」と解説した。
非常に画期的な制度
税制改正大綱では、ほかに支払調書提出方法の整備がある。財務省によると、あらかじめ税務署長に届け出た場合、国税庁長官の認定を受けたクラウドサービスを利用して支払調書などの提出ができる内容だ。
山田執行役員は「支払調書は、年末年始に企業が税務署に提出する流れになっており、昔から非常に煩雑だという声が上がっていた」とし、今回の提出方法の整備について「非常に画期的で、今までにない発想の制度だ」と評価する。
政府の狙いについては「おそらく企業のDXを促進するため、クラウドサービスの導入を加速させたいということが背景にあるとわれわれは解釈しており、DXに資するサービスやツールを導入する際のインセンティブをなるべく企業側に持たせる制度だと理解している」と語った。
また、ペーパーレス化に関わる法改正として、国税関係帳簿書類の電子データによる保存を認める電子帳簿保存法の見直しを挙げ、「紙で保存するコストの削減や企業の生産性向上が期待される」と説明。税務関係書類の押印義務の廃止についても紹介した。
時代に最適なクラウドERPを展開
こうした流れを受け、山田執行役員は「ペーパーレス・ハンコレスの時代に変わりつつある中、それに最適なクラウド型ERPを展開することで、企業のDXを推進していきたい」と強調。「これまでわれわれが提供してきた人事経理財務系や人事管理系のサービスは、上流に契約が必ず存在している。契約の情報からペーパーレス・ハンコレスを実現し、DXを進めていくことが企業全体の業務効率を左右する」との見解を示し、5月にマネーフォワードクラウド契約のサービス提供を開始するとした。
マネーフォワードクラウド契約は、ワークフロー申請から契約締結、保管をクラウド管理できるサービスで、山田執行役員は「マネーフォワードクラウドERPの中の一つのサービスとして捉えており、電子契約から経理系、労務系の業務を一気通貫してDX化したいと考えている企業にとって、非常に魅力のあるサービスになっている」とアピールした。

2021年度の税制改正大綱が昨年12月に発表された。DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制などが新たに盛り込まれており、国は税制面からも企業の変革を促す姿勢を鮮明にした。IT業界にとっては、ビジネスの追い風になる可能性があり、各社が今回の税制改正に注目している。
(取材・文/齋藤秀平)
競争力強化のために必須の課題
IT投資を経営戦略と連動させる
国がDX投資促進税制の新設を目指す背景には、「ウィズ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革を実現するためには、経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠」との考えがある。

DX投資促進税制を担当する経済産業省経済産業政策局産業創造課の平松淳・課長補佐は「コロナ禍の前からDXという話があったが、コロナ禍でデジタルへの対応が相当加速した。日本企業の競争力強化のためにはデジタル化が必須の課題になっている」と話す。
今回の税制改正では、「部門・拠点ごとではない全社レベルのDX」の実現を目標に掲げる。平松課長補佐は「今まで人がやってきたところを置き換えるだけでなく、デジタル技術を使って企業変革をしていただくことを念頭に置いている」と解説する。
さらに「これまで日本企業はIT投資をしてきたが、ある種縦割りになっており、企業全体の経営戦略と連動していない部分があった」と指摘し、「システムを自社開発しても、ゆくゆくはそれがレガシーシステムとなって更新に経営資源が大きく使われているという問題がある。そういったところを変えながら、企業のデジタル投資を促進していくことが狙いだ」と補足する。
企業にとってのメリットは?
投資額は「フェア」な数字に設定
DX投資促進税制は、企業にとってはどのようなメリットがあるのか。経産省が公表している資料は「DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対し、税額控除(5%もしくは3%)または特別償却30%を措置する」としている。
税制措置を受けるためには、まず各企業はDXに向けた計画を策定し、所属する業界を所管する担当大臣からの認定を受けなければならない。平松課長補佐によると、自動車や小売り、サービス業は経産相、造船業は国土交通相、農林水産業は農林水産相などとなる。

認定を受けるには、デジタルと企業変革の二つの要件を満たすことが必要だ。具体的には、デジタル要件では「データ連携・共有」や「クラウド技術の活用」、「情報処理推進機構が審査する『DX認定』の取得」の項目があり、企業変革要件では「全社の意思決定に基づくものであること」や「一定以上の生産性向上などが見込まれること」を示さなければならない。
このうち、一定以上の生産性向上について、平松課長補佐は「明確な数値基準を設ける」とし、内容については「現時点ではROA(総資産利益率)のような指標を使い、コロナ前からの生産性の向上を評価する仕組みを検討している」と話す。
対象となる投資額は、下限が売上高比0.1%以上、上限は300億円となっている。平松課長補佐は「企業の変革を後押しすることが目的なので、一定程度の経営資源を投入してもらわないといけない。企業にとってなるべくフェアになる数字にした」とし、税額控除と特別償却の算定根拠については「税額控除や特別償却の率が高ければ高いほど企業のメリットは高くなるが、財政への影響を踏まえた形にした」と説明する。
データの流通を促進し
社会全体の利益につなげる
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