Special Feature
日本のスパコン活用の現在地 富岳の共用がスタート、期待される成果
2021/04/30 09:00
週刊BCN 2021年04月26日vol.1872掲載
富岳が共用利用されている74件のプロジェクト
では、富岳では、どんな形で共用利用されているのだろうか。
富岳をはじめとするHPCI全体の課題選定などを行うRISTによると、現在、富岳では年2回の定期募集が行われており、富岳以外のHPCIでは年1回の募集を行っている。
定期募集の特徴は、比較的多くの計算資源を利用できる点である。富岳の定期募集では、「一般課題」「産業課題」「若手課題」が設定され、1課題あたりの最大利用可能資源量は、一般課題では1時間あたり1000万ノード、産業課題では800万ノード、若手課題では500万ノードだ。一般課題で利用できる1時間あたり1000万ノードというのは、約1100台のサーバーを1年間利用できるのと同じ規模になる。
RIST神戸センターの奥田副センター長によると、「一般課題では、国が重点的に推進すべき課題を優先的に採択する制度が用意されている。21年度は感染症対策に資する研究開発と、次世代コンピューティングに資する基盤研究開発がそれに該当し、A期では9件が選定されている」という。
高度情報科学技術研究機構神戸センター 奥田 基 副センター長
一方、随時募集では、少量の計算資源を、比較的短期間の審査で利用可能になる。ここでは「機動的課題」「試行課題」「有償課題」を募集しており、応募はいつでもできる仕組みだ。機動的課題では四半期ごとに選定を行い、1時間あたり100万ノードの利用が可能となっている。試行課題は、一般課題および産業課題の利用を対象にしており、応募ごとに短期間で資格審査を実施し、1時間あたり10万ノードの利用が可能だ。1時間あたり10万ノードの資源量は、約140台のサーバーを1カ月間利用するのに匹敵する。
また、付加価値サービスなどを提供する有償課題も、応募ごとに短期間の審査を随時実施する。なお、有償課題で利用可能な資源量は現在検討中だという。有償課題では、優先実行や定額制、占有利用、成果公開免除などのメニューも用意する予定だ。「富岳では、タイムリーに利用できる資源量を増やすことにしており、京の2.5倍にあたる、全資源量の5%をこれに割り当てている」という。
A期で採択された74件の内訳をみると、代表者がこれまでHPCIを利用したことがあるとの回答は77.0%に達しており、新規の利用者は4分の1にとどまっている。また、74件のうち、AIおよびデータサイエンスに関する課題が全体の20%を占めており、さらに約半分のプロジェクトが、何かしらの形でAIやデータサイエンスに関係しているという。
74件をテーマ別にみると、数理科学が1件、物理・素粒子・宇宙が11件、物質・材料・化学が17件、工学・ものづくりが19件、バイオ・ライフが12件、環境・防災・減災が8件、情報・計算機科学が4件、エネルギーが2件となっている。
富岳を産業利用している1社に、住友ゴム工業がある。同社では自動車用タイヤの材料研究や実験計測などに富岳を応用し、分子運動に加えて、化学変化まで表現できるゴム材料のシミュレーションを行うほか、市場データとの連携も視野に入れている。「タイヤは10種類以上の材料から作られており、化学反応により構造も変化する。一方で、利用者がどんな使い方をしているのかがセンサーデータなどを通じて理解できれば、材料の進化にもつなげられる。だが、材料データと市場データを同化させるためには、膨大な計算量が必要になる。そこに富岳を利用する」と同社は説明する。タイヤがガソリン車の燃費に与える影響は20%だが、EV車になると40%になる。高い安全性能とグリップ性能、高効率なエネルギー対策のバランスを高い次元で実現するためのタイヤの材料開発につなげる考えだ。
社会課題解決、国際競争力向上など幅広い分野で富岳の活用に期待
RISTでは、20年10月から富岳上でソフトウェアの動作確認や移植、性能確認などを行う目的で「利用準備課題」を募集しており、21年2月末の募集終了までに100件近い応募があり、その中から91件を採択したことも明らかにしている。
「当初は50件程度の応募を予想していたが、それを大幅に上回る応募数であり、京を利用したことがない人たちが応募の中心となっていた」(RIST神戸センターの奥田副センター長)。利用準備課題に採択された課題の49.5%が新規の応募であり、海外からの利用が19%を占め、特にシンガポールや米国からの利用が目立ったという。
利用準備課題においても、14%をAIおよびデータサイエンスに関する課題が占めており、「富岳からロボットを制御したり、工作機械のデジタルツイン、エージェントベースの経済モデルの構築、マクロ経済モデルのパラメータ推定など、これまでの京ではほとんど見られなかった新たな利用に挑戦する課題も出ていた。Society 5.0に関する課題も増えている」(RIST神戸センターの奥田副センター長)という。
そして、富岳の共用利用の定期募集の第2回目として、4月13日に受付を開始し、5月13日に課題申請書の受付を締め切ることになる。その後、審査を行い、8月中旬に課題選定結果を発表する予定だ。課題実施期間は21年10月1日~22年9月30日の1年間となる。
今回は、一般課題、若手課題、産業課題を募集対象課題とし、一般課題では、政府の方針などを踏まえ重点的に推進する研究分野を重点分野として募集する。重点分野として設定されるテーマはA期募集に引き続き、「感染症対策に資する研究開発」と「次世代コンピューティングに資する基盤研究開発」となる。
なお、富岳を除くHPCIの利用に関する募集については年1回の定期募集だが、産業利用は随時募集している。産業試行課題、産業有償課題、臨時募集課題がテーマで、応募ごとに短期間の審査を行う。また、臨時募集課題については、社会的に重要かつ緊急に推進すべき課題を公募しており、21年度は、新型コロナを含む感染症対策に対応する課題募集が対象になっている。
いよいよ富岳の共用が始まった。そして、富岳を頂点とするHPCI全体での活用も同時に促進されることになるだろう。新型コロナ対策を含めた社会課題の解決、日本全体の生活水準の引き上げ、国際競争力の強化など、幅広い領域での貢献が期待される。
日本が情報分野において高い技術力を持ち、世界をリードしていることは証明された。これを使いこなすことができるかがこれからの課題となる。
テープカットの様子。(左から)HPCIコンソーシアムの朴泰祐理事長、理化学研究所の松本紘理事長、
高度情報科学技術研究機構の田島保英理事長、理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長
また、RISTの田島保英理事長は、「AIやビッグデータなど、計算科学の適用範囲が広がるなかで、超高性能計算機の富岳が本格稼働することは、新たな時代の訪れを感じる。富岳が広く深く使われ、生命、生活、産業といった点からも社会全体を一新するような成果を期待している」と述べた。
さらに、ビデオメッセージを寄せた文科省の萩生田大臣は、「富岳はひと足早い山開きを迎えることになる。研究者はもちろん、産業界の方々にも、富岳の世界トップクラスの性能を最大限に引き出し、まだ誰も登ったことがない頂を目指して大いに活用してもらいたい」とし、「富岳を国民共有の財産として、次世代科学技術を担う若手研究者はもちろん、GIGAスクール元年を迎える児童生徒にも世界一の性能を体験してほしい。富岳が国民に愛され、期待に応えていくことを祈念している」と語った。
そして、富士通の時田隆仁社長は、「富岳の開発には多くの挑戦を伴った。必要とする性能を実現するために開発途中でCPUのプロセスルールを7nmに変更したり、新型コロナの広がりにより、部材の供給が滞るという困難にも直面した。開発を担当した富士通にとって、今日を迎えられたことは喜びもひとしおだ」と述べ、「富岳が本格的に利用され、Society 5.0を支える新たなイノベーションや価値を創出する基盤として、多くの課題解決につながる成果を生み出すことに期待している」と語った。
メッセージを寄せた富士通の時田隆仁社長
なお、同イベントでは、スーパーコンピューター推進議員連盟の甘利明会長、渡海紀三朗幹事長、兵庫県の井戸敏三知事、神戸市の久元喜造市長も挨拶。関係者によるテープカットも行われた。
では、富岳では、どんな形で共用利用されているのだろうか。
富岳をはじめとするHPCI全体の課題選定などを行うRISTによると、現在、富岳では年2回の定期募集が行われており、富岳以外のHPCIでは年1回の募集を行っている。
定期募集の特徴は、比較的多くの計算資源を利用できる点である。富岳の定期募集では、「一般課題」「産業課題」「若手課題」が設定され、1課題あたりの最大利用可能資源量は、一般課題では1時間あたり1000万ノード、産業課題では800万ノード、若手課題では500万ノードだ。一般課題で利用できる1時間あたり1000万ノードというのは、約1100台のサーバーを1年間利用できるのと同じ規模になる。
RIST神戸センターの奥田副センター長によると、「一般課題では、国が重点的に推進すべき課題を優先的に採択する制度が用意されている。21年度は感染症対策に資する研究開発と、次世代コンピューティングに資する基盤研究開発がそれに該当し、A期では9件が選定されている」という。
一方、随時募集では、少量の計算資源を、比較的短期間の審査で利用可能になる。ここでは「機動的課題」「試行課題」「有償課題」を募集しており、応募はいつでもできる仕組みだ。機動的課題では四半期ごとに選定を行い、1時間あたり100万ノードの利用が可能となっている。試行課題は、一般課題および産業課題の利用を対象にしており、応募ごとに短期間で資格審査を実施し、1時間あたり10万ノードの利用が可能だ。1時間あたり10万ノードの資源量は、約140台のサーバーを1カ月間利用するのに匹敵する。
また、付加価値サービスなどを提供する有償課題も、応募ごとに短期間の審査を随時実施する。なお、有償課題で利用可能な資源量は現在検討中だという。有償課題では、優先実行や定額制、占有利用、成果公開免除などのメニューも用意する予定だ。「富岳では、タイムリーに利用できる資源量を増やすことにしており、京の2.5倍にあたる、全資源量の5%をこれに割り当てている」という。
A期で採択された74件の内訳をみると、代表者がこれまでHPCIを利用したことがあるとの回答は77.0%に達しており、新規の利用者は4分の1にとどまっている。また、74件のうち、AIおよびデータサイエンスに関する課題が全体の20%を占めており、さらに約半分のプロジェクトが、何かしらの形でAIやデータサイエンスに関係しているという。
74件をテーマ別にみると、数理科学が1件、物理・素粒子・宇宙が11件、物質・材料・化学が17件、工学・ものづくりが19件、バイオ・ライフが12件、環境・防災・減災が8件、情報・計算機科学が4件、エネルギーが2件となっている。
富岳を産業利用している1社に、住友ゴム工業がある。同社では自動車用タイヤの材料研究や実験計測などに富岳を応用し、分子運動に加えて、化学変化まで表現できるゴム材料のシミュレーションを行うほか、市場データとの連携も視野に入れている。「タイヤは10種類以上の材料から作られており、化学反応により構造も変化する。一方で、利用者がどんな使い方をしているのかがセンサーデータなどを通じて理解できれば、材料の進化にもつなげられる。だが、材料データと市場データを同化させるためには、膨大な計算量が必要になる。そこに富岳を利用する」と同社は説明する。タイヤがガソリン車の燃費に与える影響は20%だが、EV車になると40%になる。高い安全性能とグリップ性能、高効率なエネルギー対策のバランスを高い次元で実現するためのタイヤの材料開発につなげる考えだ。
社会課題解決、国際競争力向上など幅広い分野で富岳の活用に期待
RISTでは、20年10月から富岳上でソフトウェアの動作確認や移植、性能確認などを行う目的で「利用準備課題」を募集しており、21年2月末の募集終了までに100件近い応募があり、その中から91件を採択したことも明らかにしている。
「当初は50件程度の応募を予想していたが、それを大幅に上回る応募数であり、京を利用したことがない人たちが応募の中心となっていた」(RIST神戸センターの奥田副センター長)。利用準備課題に採択された課題の49.5%が新規の応募であり、海外からの利用が19%を占め、特にシンガポールや米国からの利用が目立ったという。
利用準備課題においても、14%をAIおよびデータサイエンスに関する課題が占めており、「富岳からロボットを制御したり、工作機械のデジタルツイン、エージェントベースの経済モデルの構築、マクロ経済モデルのパラメータ推定など、これまでの京ではほとんど見られなかった新たな利用に挑戦する課題も出ていた。Society 5.0に関する課題も増えている」(RIST神戸センターの奥田副センター長)という。
そして、富岳の共用利用の定期募集の第2回目として、4月13日に受付を開始し、5月13日に課題申請書の受付を締め切ることになる。その後、審査を行い、8月中旬に課題選定結果を発表する予定だ。課題実施期間は21年10月1日~22年9月30日の1年間となる。
今回は、一般課題、若手課題、産業課題を募集対象課題とし、一般課題では、政府の方針などを踏まえ重点的に推進する研究分野を重点分野として募集する。重点分野として設定されるテーマはA期募集に引き続き、「感染症対策に資する研究開発」と「次世代コンピューティングに資する基盤研究開発」となる。
なお、富岳を除くHPCIの利用に関する募集については年1回の定期募集だが、産業利用は随時募集している。産業試行課題、産業有償課題、臨時募集課題がテーマで、応募ごとに短期間の審査を行う。また、臨時募集課題については、社会的に重要かつ緊急に推進すべき課題を公募しており、21年度は、新型コロナを含む感染症対策に対応する課題募集が対象になっている。
いよいよ富岳の共用が始まった。そして、富岳を頂点とするHPCI全体での活用も同時に促進されることになるだろう。新型コロナ対策を含めた社会課題の解決、日本全体の生活水準の引き上げ、国際競争力の強化など、幅広い領域での貢献が期待される。
日本が情報分野において高い技術力を持ち、世界をリードしていることは証明された。これを使いこなすことができるかがこれからの課題となる。
富岳共用開始でテープカット 理研の松本理事長「国民に愛される富岳に」
21年3月9日の富岳の共用開始に合わせて、それを記念したオンラインイベント「HPCIフォーラム~スーパーコンピューター『富岳』への期待~」が、同日に開催された。理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)と、高度情報科学技術研究機構(RIST)が主催。イベントでは、富岳を設置している理研の松本紘理事長が、「富岳が科学の大海原に向けて出発することになる。今後、国民に愛される富岳になりたい」とし、富岳の共用開始を宣言した。
高度情報科学技術研究機構の田島保英理事長、理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長
また、RISTの田島保英理事長は、「AIやビッグデータなど、計算科学の適用範囲が広がるなかで、超高性能計算機の富岳が本格稼働することは、新たな時代の訪れを感じる。富岳が広く深く使われ、生命、生活、産業といった点からも社会全体を一新するような成果を期待している」と述べた。
さらに、ビデオメッセージを寄せた文科省の萩生田大臣は、「富岳はひと足早い山開きを迎えることになる。研究者はもちろん、産業界の方々にも、富岳の世界トップクラスの性能を最大限に引き出し、まだ誰も登ったことがない頂を目指して大いに活用してもらいたい」とし、「富岳を国民共有の財産として、次世代科学技術を担う若手研究者はもちろん、GIGAスクール元年を迎える児童生徒にも世界一の性能を体験してほしい。富岳が国民に愛され、期待に応えていくことを祈念している」と語った。
そして、富士通の時田隆仁社長は、「富岳の開発には多くの挑戦を伴った。必要とする性能を実現するために開発途中でCPUのプロセスルールを7nmに変更したり、新型コロナの広がりにより、部材の供給が滞るという困難にも直面した。開発を担当した富士通にとって、今日を迎えられたことは喜びもひとしおだ」と述べ、「富岳が本格的に利用され、Society 5.0を支える新たなイノベーションや価値を創出する基盤として、多くの課題解決につながる成果を生み出すことに期待している」と語った。
なお、同イベントでは、スーパーコンピューター推進議員連盟の甘利明会長、渡海紀三朗幹事長、兵庫県の井戸敏三知事、神戸市の久元喜造市長も挨拶。関係者によるテープカットも行われた。

理化学研究所(理研)と富士通が共同開発したスーパーコンピューター「富岳」が、2021年3月9日に共用を開始した。スーパーコンピューターの性能を競う世界ランキングでは2位以下に大きな差をつけて1位を獲得。本稼働前から新型コロナウイルス感染症の研究や対策のために活用されるなど、大きな注目を集めている。いよいよ研究機関や民間企業での本格活用が始まる富岳は社会のイノベーションにどんな貢献をするのか。富岳を頂点とする日本のスーバーコンピューターの開発・活用の取り組みを追った。
(取材・文/大河原克行 編集/前田幸慧)
新型コロナ対策にも活用 本稼働前から数々の実績を生む
富岳は、スパコン「京」後継機の開発に向けた文部科学省の「フラッグシップ2020プロジェクト」により、2014年に開発がスタートした。富士通が開発、生産、評価を行い、19年12月から理研に搬入され、20年5月に設置が完了。その後チューニングなどの整備を経て、21年3月に共用を開始した。もともと21年度の稼働が予定されていたが、「国民の期待も高いことから補正予算を活用して整備を前倒しし、20年度内にフルスペックで利用を開始することにした」(文科省の萩生田光一大臣)という。
共用が開始されるまでの間にも、富岳は多くの話題を提供した。19年11月には、富岳のプロトタイプが消費電力性能を実証する「Green500」で世界1位の座を獲得。20年6月には、理研に設置された富岳の6割程度のリソースを動かした段階で、スパコンの性能を示す世界ランキングで上位を独占。LINPACKの実行性能を指標とした「TOP500」で首位となったほか、実際のアプリでよく使われるCG法のプログラムで性能を評価する「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、低精度演算での演算能力を評価し、AI処理能力評価を行う「HPL-AI」、超大規模グラフの探索能力で計算機を評価し、ビッグデータ分析などでの性能を示す「Graph500」の4部門において、いずれも2位に大差をつけて世界1位を獲得した。日本のスパコンが性能ランキングで首位となったのは、京が首位を獲得して以来、8年半ぶりのことだった。
そして、20年11月に発表された最新ランキングでも、4部門で首位を維持。TOP500では2位の米国Summitに約3倍の性能差をつけ、HPCGでは同じく2位のSummitに約5.5倍の性能差、HPL-AIでは約3.6倍の性能差となった。また、Graph500では2位の中国Sunway TaihuLightに4倍以上の性能差をつけている。スパコンの性能競争は日本、米国、中国が競ってきたが、富岳によって日本は一歩抜き出た格好だ。
HPCIコンソーシアムの朴泰祐理事長(筑波大学計算科学研究センター教授)は、「米中におけるエクサスケールシステムのスパコン開発プロジェクトは軒並み遅れており、米国エネルギー省(DOE)の『Aurora』は、18年の完成といわれていたものが、22年にまでずれ込むといわれている。中国3大エクサスケール計画も、今は情報が表には出てきていない。それに対して、富岳はすでに稼働し、成果を出し始めている」と胸を張る。
また富岳では、文科省との連携によって、整備に支障がない範囲で約6分の1のリソースを優先的に供出し、新型コロナ対策に貢献する研究開発プロジェクトを複数実施してきた。「新型コロナウイルスの治療薬候補同定」では、2128種類の既存医薬品の中から、新型コロナの標的タンパク質と高い親和性を示す治療薬候補を探索し、数十種類の物質を発見。「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」においては、オフィスや教室、病室、飲食店、カラオケボックス、バス、飛行機などの室内環境において、ウイルス飛沫による感染リスクをさまざまな条件下で評価し、空調や換気、マスクなどを活用したリスク低減対策を提案した。これらは従来のスパコンでは実現できなかったものであり、共用開始前から富岳の成果が生まれている。
高性能だけでなく汎用性の高さが武器に
4部門で世界一の性能を発揮していることからもわかるように、富岳の特徴は、単に高性能というだけではない。幅広い分野で汎用的に利用できるという点がこれまでのスパコンとは異なる。
R-CCSの松岡センター長は、「四つの部門は、クルマに例えればスピード重視の性能と、買い物でどれくらいの荷物が積めるかといった性能を比べるぐらいに幅広い。富岳は、スーパーカーと同等以上の性能を持つファミリーカーを実現したともいえる」と説明する。
「富岳」
富岳は、Armのv8-A命令セットをスパコン向けに拡張した「SVE」を使用し、独自開発した「A64FX」と呼ばれるチップを採用している。水冷構造を採用したCPUメモリユニットにはCPUが2個ずつ搭載され、これをラックの片側に96個搭載。反対側にも同数が搭載されている。つまり、一つのラックに192枚のCPUメモリユニット、384個のCPUが搭載されていることになる。このラックが全部で432ラックあり、15万8976ノードで構成され、10万本以上の光ケーブルを使って、それぞれが400Gbpsの高性能ネットワークで接続されている。
「スマートフォンに換算すると2000万台分の性能となる。これは国内で年間に販売されるスマホの数に匹敵する性能。富岳が2~3台あれば、日本のITのすべてをカバーできる性能を持つ」(R-CCSの松岡センター長)という。それだけの性能を持ちながら、従来のスパコン向けアプリの利用にとどまらず、広い応用分野への対応を実現しており、そこにArmの汎用性が生きている。
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