日本ヒューレット・パッカード
オンプレミスを含むインフラの“as a Service”化をさらに加速
メガクラウドとは既に補完関係にある
日本ヒューレット・パッカード(HPE)も、パブリッククラウドの利用はさらに加速すると見ている。実際、コロナ禍以前から「オンプレミスになくても良いアプリケーション」を中心にクラウド化は進んでおり、コロナ禍以降はZoomやSlackのようなオンラインコミュニケーションツールなどを中心に、クラウドの利用はさらに増えている。ユーザー企業にクラウド活用の経験が蓄積されるにつれて、「従来のワークロードもクラウド化するという一定の流れが起きている」と話すのは、HPEでコアプラットフォーム事業を統括する本田昌和・執行役員だ。
本田昌和 執行役員
パブリッククラウドへの流れがある一方で、エッジ部分でワークロードを処理したいとのニーズも高まっている。さらに自社データセンターの中でも、AI、機械学習、IoTで生まれるデータの処理などの需要はむしろ増加傾向だ。また日本では、メガクラウドだけでなくローカルのクラウドプレイヤーもあり、そこではサーバーなどのITインフラ需要は増えている。エンドユーザー向けのエッジを含むハイブリッドクラウド、それにクラウドベンダーのニーズが合わさり、HPEのハードウェアビジネスは当面減ることはないと本田執行役員は言う。
この動きを加速するために、HPEではエッジからクラウドまでの全てのポートフォリオをサービスとして提供するas a Serviceの戦略を立てている。これはHPEがグローバルで共通としているものだ。フレキシブルな従量制課金方式である「HPE GreenLake」によるas a Serviceの戦略は、まさに顧客のDXを支援するためのプラットフォームをハイブリッドクラウドで提供するものであり、「オンプレミスでもクラウドの体験を提供するもので、調達の部分をサービス化するだけでなく、技術面でも日々進化している」という。
そしてハイブリッドクラウドを進めるには、連携先となるAWSやAzure、Google Cloudといったメガクラウドベンダーのサービスとのインテグレーションがカギとなる。そのため、これらクラウドサービスとの連携構築のサービスにもHPEは力を入れている。実際、ハードウェアベンダーでありながら、これら3社とクラウドサービスの再販契約を結んでおり「協業の実績も積み上がっている」(本田執行役員)という。メガクラウドベンダーとHPEの間には、既にハイブリッドクラウドを顧客に提供するための補完関係ができあがっているのだ。
IT部門の人材不足問題を自動化、省力化で解決
ハードウェアをエンドユーザーに販売するビジネスは、パブリッククラウドの台頭で縮小傾向にある。とはいえグローバルでは、クラウド事業者による需要が、むしろ増加している。HPEではクラウド事業者のリソースのうち、6割ほどは同社製品を含む汎用品が採用されていると考えている。またAI、機械学習、IoTといった用途は新規の需要であり、ここもHPEのビジネスを伸ばす領域となる。
つまり、ハードウェア市場拡大の余地は十分にあり、その中でもHPE製品を率先して選んでもらえれば、同社のビジネスは伸びる。そのためには、ユーザー企業の人手不足の課題に応えられることが重要になると本田執行役員。現状は、企業はITインフラの管理に時間を取られ、なかなか新しいことに着手できず、新たな人材を育てる余力もない。これらは「顧客から最も良く聞く声で、これに対しHPEでは自動化、省力化で対応する」と言う。そのため既存のITインフラをプライベートクラウド化、ハイブリッドクラウド化する際には「オートメーション」が重要なメッセージとなる。
クラウドに移行しても、情報システム部門のメンバーが増えるわけではない。もともと“1人情シス”で外部の力に依存している組織もあれば、人数はいても次々と登場する新たな技術を使いこなせる人材がいないという組織もある。実際、パブリッククラウドの利用を始めれば、WANのネットワーク回線についても新たに考慮する必要があるだろう。また目的別のハードウェアで実現していたものの多くが、ソフトウェアで実装されるようになり、管理の責任の分界点も曖昧になっている。機能がサーバーの中のソフトウェアで実装されると、どこからどこまでが誰の責任範囲かの線引きが難しくなるのだ。この状況を解消して、IT管理者の運用を楽にする必要がある。
そのためにHPEでは、ITインフラの可視化とAIを活用した運用管理の判断の自動化を実現する。AIを活用し自律型のインフラストラクチャを構築するため「HPE InfoSight」を提供している。「InfoSightがハイブリッドクラウドの複雑な運用管理を楽にできる」と本田執行役員はアピールする。
エコシステム拡大のためにもオープン性を重視
パートナープログラムについても、GreenLakeを使ったas a Service案件を優遇する形へ変化させており、パートナーの営業、技術者に対するトレーニングの充実も図っている。GreenLakeでは比較的大規模なシステム向けの提案が多かったが、より小規模な構成から提案が可能となるメニューの提供も開始し、パートナーが販売しやすくしている。
また、パートナーがもつインフラを活用してユーザー企業に向けてサービスを提供するビジネスモデルでも、GreenLakeならばビジネス成長に応じて、使った分だけハードウェアのコストを支払えば良いので、財務面のリスク低減が可能となるのもメリットだ。そのうえでSIパートナーには、システム全体のインテグレーションや、業務に近い上位レイヤーでの価値提供に注力してもらうべく、HPEではインフラ部分のノウハウを生かした支援を提供して協業する体制をとる。
ハイブリッドクラウド環境の実現で鍵となるコンテナ技術については、汎用的なコンテナ基盤としてはアライアンスパートナーであるレッドハットのOpenShiftをOEM化し、HPE製品として提案、提供している。VMware Tanzuについても同様にHPE製品として提供できるよう調整中だ。
一方、HPE独自のコンテナプラットフォームである「HPE Ezmeral」は、「AIや機械学習システムの開発に特化したプラットフォームソフトウェア」として位置づけている。オンプレミスでEzmeralを活用した柔軟なITインフラ環境を構築した場合は、AIや多様なアプリケーションを動かし管理するためのソフトウェアが必要となる。そのために「ML Ops」など、AI、機械学習に特化した機能を盛り込んだソフトウェア群の提供も始めている。とはいえ、具体的に多様なツールやライブラリを組み合わせてAI、機械学習の技術を活用する仕組みの構築については、その領域を得意とするパートナーが主に担うべきところと認識しており、パートナーとのエコシステムでユーザーのDX実現を支援することになる。
本田執行役員は「ハイブリッドクラウドを構成する際のツールがオープンであるかどうかということ」と述べ、同社ではテクノロジーがオープンであることを重視し、顧客の選択肢を狭めないハイブリッドクラウドを標榜していると強調する。その上で「ハイブリッドクラウドと言えば、顧客が真っ先に思い浮かべるプラットフォームパートナーになりたいと考えている」と言う。ハイブリッドクラウドを導入する企業は、今後まだまだ広がる。HPEはエッジからクラウドに至る全てを網羅するプラットフォーマーであり、これからも「プラットフォーム as a Serviceのベンダーでありたい」と本田執行役員は力を込めた。