Special Feature
クラウドファースト時代のハードウェアビジネス(下) 大手メーカーの“ハイブリッド”戦略
2021/06/24 09:00
週刊BCN 2021年06月21日vol.1879掲載

グローバルでビジネスを展開するサーバーベンダーが、そのスケールを利用して豊富な製品ラインアップやコストで攻勢をかける一方、国産ベンダーには自社のクラウドサービスや、システム構築部隊、顧客の業務に関するノウハウなどがある。サーバーというプロダクトとクラウドサービスをどのように組み合わせてハイブリッドクラウドを実現するのか、国内大手の富士通とNECに聞いた。
(取材・文/谷川耕一 編集/本多和幸・日高 彰)
前回の特集では、今後さらにパブリッククラウド利用の拡大が予測される中、グローバルで活躍するハードウェアベンダーのハイブリッドクラウド戦略を取りあげた。デル・テクノロジーズ、日本ヒューレット・パッカード(HPE)はともに、自社のハードウェアをサブスクリプション型の契約で提供し、CAPEX(設備投資)からOPEX(従量課金の経費)に変えて利用できるようにしている。またエッジやAI、機械学習など、企業の多様化するニーズにきめ細かく対応する製品ラインアップを用意し、パブリッククラウドだけでは対処できないニーズに柔軟な対処ができるようにしている。
ハイブリッドクラウド化でネットワーク機器の機能などもソフトウェアで実装されるようになり、新たなエンジニアスキルが求められている状況を踏まえ、HPEではIT管理者の人材不足を解消し新たなスキルの獲得や、自動化による管理者業務の負担軽減にも力を入れる。
管理者の負担をAI、自動化技術を活用し軽減する取り組みには、デル・テクノロジーズも注力している。その上で製品ライフサイクルの管理を、SDGsを意識したものにしようとしているところはかなり特徴的だ。
今後の企業におけるITインフラは、SDGsを意識したものしか選ばれなくなることを先取りしており、企業体力のある同社ならではの取り組みと言えそうだ。
これら強力なグローバルのハードウェアベンダーと、国内サーバー市場で激しいシェア争いを繰り広げている国産サーバーベンダーは、いったいどのように戦おうとしているのか。今回の特集では、国内主要ハードウェアベンダーとして富士通、NECのハイブリッドクラウド戦略を取りあげる。中堅中小企業では、サーバーなどのハードウェア導入を起点とし、システムインテグレーションの形で情報システムを導入してきた。今後はそれが、クラウド形の情報システムを「利用」することで価値が提供できるよう変革する必要がある。この変革の実現には、サーバー販売を主としてきた販売パートナーとの関係性も変えなければならない。
数の経済効果を使い、コスト効率の高いサーバーを開発し市場投入できるグローバルベンダーに比べ、国産ベンダーは製品単体のコストメリットで勝負するのは難しいだろう。一方で富士通、NECは、国内に自社データセンターを構え、コロケーションサービスや独自のプライベート型のクラウドサービスを提供できる。これらとオンプレミスに導入するハードウェアを柔軟に組み合わせられれば、国産ベンダーならではの顧客に寄り添ったきめ細かな対応が可能なはずだ。
富士通
オンプレミスとクラウドの間のバリアを取り除く
オンプレミスの製品もサブスクリプション型で提供デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業では、ITインフラに迅速性や柔軟性を求めており、結果としてクラウドの利用が拡大している。富士通でx86サーバーなどの商品企画、販売推進をする立場からも、そういった状況があることは十分に認識していると言うのは、インフラストラクチャシステム事業本部データセンタ事業部商品企画部の館野巌・部長だ。一方、オフィスや工場などのエッジ領域ではタワー型サーバーが、またハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)などの用途でもオンプレミスのサーバーのニーズはいまだ堅調だという。
クラウドの利用は拡大しているが、企業における基幹系システムのクラウド化はまだそれほど進んでいない。もちろん率先してクラウドを活用し基幹系システムもパブリッククラウドに移行する企業はあるが、そうでないところはまだクラウドの利用に積極的にはなっていない。
日本市場では「クラウド活用の状況が、二極化していると見ている」と話すのは、戦略企画・プロモーション室Hybrid ITデザインセンターの谷内康隆・センター長だ。既存の情報システムが更改時期を迎えた場合、最初の選択肢となるのはクラウドだ。しかしながら、現在利用しているソフトウェアの制限や、求めるレイテンシーなどの性能要件、さらにはセキュリティや業界的な規制などでオンプレミスに残る情報システムはそれなりに多い。
そのため富士通では、顧客の個々のニーズに合わせて、オンプレミスあるいはクラウドを適材適所で提案している。オンプレミスを選択した場合にも、企業はそれを「クラウドライクに使いたい」となるのが普通だ。そのため、グローバルベンダーと同様に富士通でも、オンプレミス製品のサーバーやストレージをサブスクリプション型で提供する取り組みを開始している。その上で、オンプレミスのハードウェアでは「クラウド連携の価値を提供するようにしている」と館野部長は言う。
ハードウェアを顧客企業に「売り切り」で販売し、それを顧客側で自由に使ってください、という提供形態は、今後確実に減るだろう。サブスクリプション型でハードウェアを提供するのは、契約の形を変えて分割で費用を払えるようにするだけでなく、月額の費用に、運用や維持のためのサービスを含んだものを提供することとなる。そうなると、売り切り型とサブスクリプション型で、どちらがコスト的に安価かを単純には比べられない。トータルで顧客企業が満足できるサービスとなっているかどうかが鍵となる。
ハードウェアを売り切り型で提供していた際は、ハードウェア分の費用しか富士通のビジネスにならなかった。サブスクリプション型では、ハードウェア周りのサービスも一緒に提供する。このため、仮に顧客が支払うトータルコストが小さくなったとしても、富士通が担う部分は増えることにもなるのだ。
クラウド、製品、DCのバランスを取った提案
富士通にはコロナ禍以前から、AWSなどのクラウド専業ベンダーとは別のクラウドビジネスの方針があった。富士通にはクラウドサービスだけでなく、サーバーなどのハードウェアプロダクトがあり、データセンター(DC)もあればアウトソーシングサービスも提供している。そのため「プロダクトとDCを組み合わせたハイブリッドクラウドの戦略がもともとあった」と谷内センター長。今後もクラウド、DC、プロダクトの三本柱のバランスを取った提案を主軸に置くという。市場にはクラウド移行という大きな流れがあり、それにそぐわないものをオンプレミスやホスティングなどを組み合わせ柔軟に対処する。この三本柱のバランスを取った提案ができることこそが、富士通のハイブリッドクラウドの強みとなる。

現状、ハイブリッドクラウドといっても、パブリッククラウドやオンプレミスをシステムごとに使い分けているのが現実だ。オンプレミスからクラウドへとワークロードを柔軟に拡張するような、本来のハイブリッドクラウドの使い方をしているケースはまだほとんどない。富士通としてはハイブリッドクラウドですぐにダイナミックなワークロードの移動を実現するよりも、まずはクラウドとクラウドではない環境の間のバリアを取り除く。
このために重要となるのが、ネットワークのレイヤーだと谷内センター長は指摘する。そこでまずは、富士通DCのホスティング環境と富士通クラウドを簡単につながるようにしている。ネットワークがつながって通信できるだけでは、柔軟なワークロードの移動まで実現するのは難しい。まずはオンプレミスのシステムなどを富士通クラウドに容易につながるようにすることで、クラウド移行をしやすくするところからアプローチする。その次のステップで、トラフィック集中などの時にだけ、スケールアウト型でクラウドにワークロードを移行できるようにする。
このためのサービスの一つとして、VMwareベースのパブリッククラウドである「FJcloud-V」では、オンプレミスのVMware環境を無停止でクラウド上に複製するライブマイグレーションを今年から提供している。オンプレミスからクラウドにワークロードを俊敏に移行したいとの要望は増えており、この本来のハイブリッドクラウドのメリットを享受するような取り組みについては、今年度注力する。VMwareのマイグレーションのサービスはその第一弾というわけだ。
また、5年以上前にオンプレミスで導入したような情報システムは、そのままではクラウドに移行するには大きな手間がかかる。そのため、オンプレミスでいったんクラウドとの親和性の高い最新ITインフラに更新し、その後に可能なものから順にクラウド移行する段階的なアプローチも提案する。古いシステムを一足飛びにクラウド移行するのは難しいケースは少なくない。既存システムの更新時期はばらばらで、それらを集約してからクラウドに移行するケースも多い。
「(サーバーと専用ストレージ装置を用いる)“3ティア”構成のままではうまくいかないので、HCI(ハイパーコンバージドインフラ)化してからクラウド移行した例もある」と館野部長。将来的なクラウド化を見据えた際には、HCIは一つのキーワードになると言う。実際、HCIのビジネスは伸びており、富士通はハイブリッドクラウドの中で、HCIを戦略的なプロダクトとして位置づけている。その上でクラウド移行のためのアセスメントができ、運用からサポートまでのトータルサービスを提供できることは、他社にない強みだと主張する。
パートナーの製品・サービスを富士通クラウド上で展開
ハイブリッドクラウドの戦略を進めれば、必然的にビジネスの比重はプロダクト販売からサービス提供へとシフトする。そのためこれまでの販売パートナーとの間でも、ビジネスの形の再定義が必要だ。「富士通とパートナーの関係も変えていくことになり、まさにそれを今、議論しているところ」と谷内センター長は話す。新しいクラウドビジネスの中で、パートナーにどこで価値を提供してもらうか。クラウドとその周辺のサービスの全てを、富士通だけで提供できるわけではない。サブスクリプション型でオンプレミスのプロダクトを提供する際も、導入や運用の一部はパートナーが担う必要があるだろう。
その上で、パートナーのソリューションを富士通のクラウド上に展開してもらうことにも取り組む。谷内センター長は「富士通クラウドにのることで、富士通クラウド(のエコシステム)全体にそのソリューションが流通できるようになる」と説明し、富士通クラウドにのせられたパートナーのソリューションについては、富士通としても拡販に関わる意向を示す。
またAWSやAzureなどのメガクラウドベンダーとは、富士通が彼らのサービスをリセールする立場で協業する。クラウド化の提案は富士通クラウドを主軸にして行うが、顧客ニーズに応じメガクラウドベンダーのサービスも適宜選択できるようにするのだ。このメガクラウドベンダーとの関係性は、今後も変わらないという。
政府のクラウド・バイ・デフォルトなどの動きもあり、今後もクラウドの活用が増えることは間違いない。とはいえ、目的はITインフラをクラウド化することではなく、デジタルを活用してビジネスを変革することだ。「多くの企業は、DXが進まずに苦労している。富士通には多くの受託開発の経験があり、顧客のことをよく理解した上でアプリケーションを構築してきた。富士通ならそれを含めたハイブリッドクラウドの提案ができる」と谷内センター長。今後はコンテナ技術の活用なども拡充し、顧客のDXに貢献するハイブリッドクラウドの提案をしていくことになる。

グローバルでビジネスを展開するサーバーベンダーが、そのスケールを利用して豊富な製品ラインアップやコストで攻勢をかける一方、国産ベンダーには自社のクラウドサービスや、システム構築部隊、顧客の業務に関するノウハウなどがある。サーバーというプロダクトとクラウドサービスをどのように組み合わせてハイブリッドクラウドを実現するのか、国内大手の富士通とNECに聞いた。
(取材・文/谷川耕一 編集/本多和幸・日高 彰)
前回の特集では、今後さらにパブリッククラウド利用の拡大が予測される中、グローバルで活躍するハードウェアベンダーのハイブリッドクラウド戦略を取りあげた。デル・テクノロジーズ、日本ヒューレット・パッカード(HPE)はともに、自社のハードウェアをサブスクリプション型の契約で提供し、CAPEX(設備投資)からOPEX(従量課金の経費)に変えて利用できるようにしている。またエッジやAI、機械学習など、企業の多様化するニーズにきめ細かく対応する製品ラインアップを用意し、パブリッククラウドだけでは対処できないニーズに柔軟な対処ができるようにしている。
ハイブリッドクラウド化でネットワーク機器の機能などもソフトウェアで実装されるようになり、新たなエンジニアスキルが求められている状況を踏まえ、HPEではIT管理者の人材不足を解消し新たなスキルの獲得や、自動化による管理者業務の負担軽減にも力を入れる。
管理者の負担をAI、自動化技術を活用し軽減する取り組みには、デル・テクノロジーズも注力している。その上で製品ライフサイクルの管理を、SDGsを意識したものにしようとしているところはかなり特徴的だ。
今後の企業におけるITインフラは、SDGsを意識したものしか選ばれなくなることを先取りしており、企業体力のある同社ならではの取り組みと言えそうだ。
これら強力なグローバルのハードウェアベンダーと、国内サーバー市場で激しいシェア争いを繰り広げている国産サーバーベンダーは、いったいどのように戦おうとしているのか。今回の特集では、国内主要ハードウェアベンダーとして富士通、NECのハイブリッドクラウド戦略を取りあげる。中堅中小企業では、サーバーなどのハードウェア導入を起点とし、システムインテグレーションの形で情報システムを導入してきた。今後はそれが、クラウド形の情報システムを「利用」することで価値が提供できるよう変革する必要がある。この変革の実現には、サーバー販売を主としてきた販売パートナーとの関係性も変えなければならない。
数の経済効果を使い、コスト効率の高いサーバーを開発し市場投入できるグローバルベンダーに比べ、国産ベンダーは製品単体のコストメリットで勝負するのは難しいだろう。一方で富士通、NECは、国内に自社データセンターを構え、コロケーションサービスや独自のプライベート型のクラウドサービスを提供できる。これらとオンプレミスに導入するハードウェアを柔軟に組み合わせられれば、国産ベンダーならではの顧客に寄り添ったきめ細かな対応が可能なはずだ。
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